第三百十五話 ワイバーンゾンビ
おどろおどろしい咆哮を上げると、俺達の前に勢いよく着地した。
着地した際の風圧で砂が舞い、風と共に俺達に襲ってくる。
「な、なんですかい!? あの化け物みたいなワイバーンは!!」
「ワイバーンゾンビですね! その名の通り、ワイバーンがゾンビ化した魔物です!」
「どうしやす! あんなのに勝てるんですかい?」
「……あの、俺に任せてもらってもいいですか?」
突如として現れたワイバーンゾンビに、驚いた様子を見せたディオンさんとスマッシュさんの会話に割って入る。
「ルインに任せる?? まさか一人で戦うって言いやせんよね!?」
「そのまさかです! 俺一人に任せてください」
「いやいや! 流石のルイン君でも駄目ですよ! ワイバーンゾンビはワイバーンよりも強いとされている魔物です。ワイバーンよりも若干速度が落ちるだけで、生命力攻撃力共に大幅に上回っています! 更にアンデッド種ですので、怯みも痛がりもしません!」
「分かってます。その上で、俺は一人で倒せると思ったんです! ディオンさん、スマッシュさん、俺一人に戦わせてください。……そして、もし万が一危なくなったら助けてくれませんか?」
俺は笑顔で二人に無茶苦茶なお願いをする。
好き勝手やるから、もし駄目だったら助けろ。
そんな頼みなんだけど、ディオンさんとスマッシュさんなら難なくこなしてくれそうな気がしているのだ。
「……むぐぐ。……分かりやした! 危なくなったらすぐに逃げやすぜ! その覚悟だけして――好き勝手やってくだせぇ!」
「……ですね。リーダーがこう言っているんですから、私達は大人しく従うだけです。――ふふっ、なんとなくアーメッドさんの面影を感じます」
「ありがとうございます! それじゃ、倒してきます!」
俺はそう宣言してから剣を引き抜き、一人でワイバーンゾンビに突っ込んでいく。
近づけば近づくほど圧の大きさを感じるし、その巨体を見るに攻撃が通じるようには感じない。
ゾンビではあるが、長年夢に見ていたドラゴンが……俺の目の前に立ちはだかっているのだ。
これから生死を分けるような戦闘が始まるというのに、どうしても頬が緩んでしまう。
このワイバーンゾンビなら、今の俺の本気も受け止めてくれるはず。
そんな期待を込め、俺は翼を広げて立ちはだかるワイバーンゾンビに斬りかかっていく。
――まずは地面が沈むほど左足を踏み込み、一気に蹴り上げる。
これまでにない超速の突進で懐まで潜り込み、五割の力で俺は袈裟斬りを放った。
感触は完璧に近いが、斬り裂いたのはせいぜい肉まで……か。
ボロボロに見える鱗も硬く、肉も溶けているように見えてガッチガチ。
五割でも致命傷を負わせることができると踏んでいたが、流石に甘すぎたようだ。
懐に潜り込んだ俺を攻撃するべく、ワイバーンゾンビが放ってきたのは腕を振り回してのひっかき攻撃。
これは難なく躱せたのだが、俺が躱すことを読んでいたかのようにピンポイントで尻尾での振り回しが飛んできた。
頭上から叩きつけるように振り下ろされた尻尾は、俺の真上から一気に振り下ろされたが――。
左腕に力を込めて、俺はその尻尾を力任せに受け止めにかかる。
ダンベル草で鍛えた筋力、ポンド草で鍛えた耐久力が合わさり、巨大な尻尾に押し潰されることなく俺は尻尾を受け止めることに成功した。
左腕のみで、この叩きつけるような尻尾攻撃を止めれたのは大きい。
俺はそのまま左腕に力を入れ直し、尻尾を真上へと押し返してから――右手に持っていた剣ですぐさま斬りかかった。
今度は八割の力で放った、右手のみでの上段斬り。
漆黒の鱗、岩のように硬い筋肉、俺の腹周りよりも太い骨。
全てを完璧にぶった斬り、俺を叩き潰そうと振られた尻尾は……空中を舞いながら、地面へと突き刺さった。
俺の上段斬りにより尻尾を斬られたワイバーンゾンビは、大きくよろけて一拍間を空けてから大気が震えるような咆哮を上げた。
そんな大口を開けた咆哮からは、若干ではあるが火花が舞っているのが見える。
――ドラゴンの十八番である、火炎袋に溜め込んだ火をぶっ放す火炎放射。
ワイバーンゾンビも火を吹けるようで、尻尾をぶった斬った俺のみに狙いを絞って、火を吹こうとしているのが分かった。
……ただ、火炎放射がくると分かるなら、大して怖い攻撃ではない。
中範囲の遠中距離攻撃で、口からまっすぐにしか吐くことはできない。
それに、火炎放射を放つ前に大きくを息を吸い込むことから、火を吹くまでの間は無防備な状態となる。
俺はその一瞬を見逃さないように注視し――ワイバーンゾンビが胸を張り、大きく息を吸い込んだ瞬間に、再び一気に距離を詰めていく。
近づく俺に気がついたワイバーンゾンビは、急いで火を吐こうとしたが、タメが必要な攻撃故に小回りの利く技ではない。
今度は両手で――七割の力。
地面を思い切り蹴り上げて懐に潜り込むと、潜り込んだ俺に対し、ワイバーンゾンビは今まさに火を吹こうと口を開きかけた。
あと数秒だけでも早く、高熱の炎を吐き出すことができれば、勝敗はまだ分からなかっただろうが……もう遅い。
息を吸い込んだことで大きく膨らんだ腹を目掛け、七割の力で振るった袈裟斬りが、口から火が吐き出されるよりも先に到達した。
――手に残る感触は無。
五割で放った時は硬さを感じたのだが、まるで空間を斬ったのかと思うほど、鋭く何の抵抗もなく剣は振り下ろされた。
裂かれた腹からは、黒い瘴気のようなものが舞い上がり、ワイバーンゾンビはバランスを崩して背中から力なく地面に倒れる。
そして……背中が地面に着いた瞬間、口元まで出掛かっていた灼熱の炎が、綺麗な青空へと吐き出されたのだった。
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