第三百十四話 魔力の枯渇


 魔力溜まりの洞窟に来て、約一ヶ月が経過した。

 最初は色々とあったものの、ディオンさんとスマッシュさんはダンベル草カレー。

 俺はポンド草とダンベル草、たまに魔力草を直食いしまくる日々。


 とにかく強くなるために、この一ヶ月間はただひたすらに植物を食べて過ごした。

 時折『竜の谷』に現れる魔物を狩りつつ、自分の強さを確かめながら、自信を持って強くなったと言えるほど力をつけれることが出来たと思う。


 ……ただ、本当はもう一ヶ月は籠る予定だったのだけど、魔力溜まりの洞窟に溜まっていた魔力を使い切ってしまったのか、昨日から急に魔力が回復されなくなってしまったのだ。

 ダンベル草、ポンド草の生成にはかなりの魔力を消費するし、それを毎日三人分生成していれば、魔力が枯れてしまったのも頷ける。


「本当に残念ですね……。メキメキと強くなっていった感覚があったので、もう少しだけあやかりたかったのですが」

「まぁでも、あっしもディオンもかなり強くなりやしたぜ。これなら……ルインが行くっていう魔王領について行っていいですかい?」


 俺のこれからの予定は、一度王国へと戻って、ランダウストでアーサーさんにこの一ヶ月間のことを報告。

 それから、魔王領のことを聞き出し――すぐにでも魔王領に赴くつもりでいる。

 そこで、これからのことを二人に話したら、魔王領もついて行かせてほしいと進言してくれたという訳だ。


 俺の考えとしては、魔王領の危険性を鑑みると二人を連れて行きたくないという気持ちが半分。

 もう半分は……ディオンさんもスマッシュさんも、戦闘面以外でも非常に心強いため、ついてきてくれたら嬉しいという気持ち。

 

 俺が返答に困っていると、スマッシュさんは急に立ち上がり拳を構えた。

 呆けながらその様子を見ていると、おもむろに大きな岩の前に立って構えを見せる。


「見ててくだせぇ。今のあっしはこの岩も拳で砕けるんでさぁ!」


 その言葉と共に、スマッシュさんは岩に向かって拳を打ち込んだ。

 物凄い衝撃音が響き渡ったが……岩にひびは入ったものの、決して砕けることなくその場に鎮座している。


 少しの沈黙の後、スマッシュさんは珍しく恥ずかしそうに顔を赤くさせ、その様子を見ていたディオンさんが立ち上がって横に並んだ。

 そして――スマッシュさん同様に大きな岩に拳を打ち込むと、今度こそ綺麗に大きな岩は粉砕された。


「今見てもらった通り、私もスマッシュさんも半人前ですが……。二人揃えばアーメッドさんぐらいの力は持つことができたと思います。どうか、アーメッドさんを生き返らせるために、私達も手伝わせてください」

「……ルイン、お願いしやす!」


 …………ここまでやって、ここまで言われたら、俺に断ることなんて出来ない。

 二人の気持ちは俺と同じだし、ただ待っているという歯がゆい真似はできないのだろう。


 だからこそ、吐いて体調まで崩したダンベル草の摂取を諦めなかったし、一切の文句も言わずに俺の手伝いをしてくれていた。

 どれぐらいの危険が待っているか分からないし、正直怖いが――俺は守るために力をつけたんだ。

 この手伝いは、二人にしてもらうのが一番良い。


「ディオンさん、スマッシュさん。本当にありがとうございます。……俺の方からもお願いさせて頂きます。魔王領に行くのを――そして、アーメッドさんを蘇生させる手段を見つけるのを、どうか手伝ってください!」

「もちろんです!」

「もちろんでさぁ!! あっしにドーンッと任せてくだせぇ!」


 こうして、三人で魔王領へと向かうことが決まった。

 ディオンさんとスマッシュさんがいてくれれば、非常に心強い。

 

 何はともあれ、まずは『竜の谷』を抜けて、王国へ戻ることが第一。

 一ヶ月間お世話になった魔力溜まりの洞窟を片付け、元通りに綺麗にしてから一礼し、洞窟を離れた。


 

 一ヶ月前はワイバーンを確実に回避するため、二山分を歩いて進んだのだが――今回は突っ切って『竜の谷の村』を目指すことに決めた。

 ワイバーンはこの一ヶ月の間も、一切戦うことなく避けて通っていたため、怖くないと言えば嘘になるが……。


 ワイバーン如きにビビっていたら、魔王領なんて行くことなんかできない。

 この一ヶ月間の成果を見せるという意味でも、どんとかかってこいという気持ちで『竜の谷』にある住処と言われている場所を俺達は突っ切る。


「なーんか嫌な感じがしやすぜ。一度も見やせんでしたが、やっぱりいるんでやしょうか」

「どうですかね……。ただ、『竜の谷』の魔物レベルは明らかに高かったです。それを考えるといてもおかしくないと思いますが」


 二人のそんな会話を聞きながら、ワイバーンの住処を歩いていく。

 確かに竜の住処のような感じになっているが、長年使われた形跡はないようで、全てが風化しているようにも見えた。


 ただ、それと同時に、スマッシュさんが言っていた嫌な感じというのも分かり、周囲に嫌な気配が漂っている感じがするんだよな。

 ディオンさんとスマッシュさんに全てを任せず、俺も集中して索敵を行っていく。


 結局、集中して辺りを警戒していたのだが、ワイバーンらしき影は見えないまま、ワイバーンの住処を抜けることができてしまった。

 三人共にホッと息を吐き、安心し切っていると――前方から急に、とてつもない嫌な気配が感じた。


「な、なんか急に来やしたぜ! ――どうしやすか!? 戻ってワイバーンの住処でやり過ごしますかい?」

「ワイバーンの住処は身を隠せる場所がいくつかありましたからね。この気配はまずいですし、隠れるのも――」

「いや、正面から行きましょう。もう逃げる必要はないと思います」


 もしかしたら俺の慢心となってしまうかもしれないが、ここで逃げるのはない。

 逆にワイバーンが出てくれたなら好都合。

 

 確かに気配は危険な感じではあるけど、それ以上に俺は強くなったはずだ。

 ディオンさんとスマッシュさんが頷いてくれたのを確認してから、俺は正面を切って歩いていく。


 嫌な気配は物凄い勢いで俺達に近づき、そして姿を見せた。

 大きな翼に緑の巨体のドラゴン、その姿は紛れもなくワイバーン――ではなく、漆黒の体にどろどろに溶けた皮膚。

 目玉も半分取れかかっていて、大きな翼も所々に穴が空いてしまっている。


 そう。

 俺達の前に現れたのはワイバーンではなく、アンデッド種であるワイバーンゾンビだった。

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