三百十三話 ポンド草の摂取


 ディオンさんは外のテントで休み、傷が大分治ったスマッシュさんは、夜の山へと食材を取りに出掛けた。

 洞窟に残された俺は、次の段階に移行するための準備に取り掛かる。


 これまで優先的にダンベル草を食して筋力を上げ続けたため、俺が想定した以上の力を保有することに成功した。

 もちろん、今以上に筋力をつけることで更なる強さが手に入るかもしれないが……。

 次の段階として、耐久力を上げていきたいと思っている。


 いくら力が強く強烈な一撃を放てたとしても、その一撃を放つ前にやられてしまったら元も子もないからな。

 敵の攻撃を耐えうる力も手に入れることができれば、俺よりも速い敵やワイバーンのような巨体で広範囲の攻撃手段を持つ敵にも、真正面から戦えるようになる。


 ということで、今日からはダンベル草ではなく、ずっと使用せずにいた『ポンド草』を生成しまくり食べまくっていきたいと思う。

 最強の力と最硬の力。

 二つの力を手に入れることができれば、魔王の領土に向かうこともできる。

 俺は今日の実力試しで、その確信を持つことができた。



 洞窟に籠り、ポンド草を食べ始めて二時間くらいが経過しただろうか。

 この一週間のダンベル草摂取でもう味覚がおかしくなっているため、休みなく食べ続けても何のつらさも感じていないが、流石に眠気が襲ってきた。


 ウトウトとしつつも、ポンド草を口に入れていると――。

 誰かが、勢いよく洞窟の中へと入ってきた。

 ぼやぼやとする目を擦ってから、視線を向けてみると、洞窟に入ってきたのは泥だらけのスマッシュさんだった。


「スマッシュさん? もしかして、今の今まで食材を集めていたんですか?」

「そうですぜ! あんな話を聞かされちゃ、あっしだって期待しちまいますぜ! あっしには夜も昼もあんま関係ないんで、急いで食材を集めてきたんでさぁ!」


 手に持たれた籠を受け取り、早速食材を確認してみる。

 兎肉にはちみつ、黒玉葱、野人参。

 ……確かに、求めている食材が全て揃っている。


「この短期間で集めきったんですか? 本当に凄いですね!」

「あっしもディオンも山は得意分野でさぁ! 魔物を避けながら進んで、ちょちょいのちょいですぜ!」

「これなら作れますよ! 今から食べますか?」

「食べさせてくれるんですかい? 自分で作ったシチューもまだ食べていないでさぁ、腹ペコペコだから食べれるなら食べたいですぜ」

「分かりました。それでは作り方を教えますので、作って貰っていいですか?」

「……え? いきなりあっしが作るんですかい?」

「俺、料理下手ですし……それに今、味覚がぶっ壊れてしまっているんで、スマッシュさんが作った方が美味しく作れると思うんです」


 あれだけ啖呵切っておいて、スマッシュさん任せなのは情けない話だが、今の俺が作ったらとんでもないことになる気がする。

 味見もできないし、今日の戦闘の反動もかなりきていて、手がずっとプルプルと小刻みに痙攣しているからな。


「あー……。確かに、あれをむしゃむしゃと食べているルインに任せるのは怖いでさぁ。調理はあっしとディオンに任せて、ルインは指示を出してくだせぇ」

「分かりました。追加のスパイスを用意しますので、外で待っててください」


 スマッシュさんには先に外へ行っててもらい、俺は植物の生成へと移る。

 必要なのは、まずダンベル草。

 それからレッドホット草にターメリックの根、コリアンダーの種子にクミンの種子とペッパーの実を混ぜ合わせれば、カレーのベースは完成するんだが……。


 やっぱりグルタミン草は欠かせない。

 少し多めにグルタミン草を生成してから、外で待つスマッシュさんの下に生成した植物を届ける。


「お待たせしました。こちらが使う調味料です」

「ほへー。こんなに色々と使うんですかい! ちょっとディオンも、レシピを聞いておいてくだせぇ!」

「分かってます。一から十まで完璧に記憶させてもらいますよ」


 スマッシュさんに呼び出されて起きたのか、気合いの入ったディオンさんもスタンバイしていた。

 この二時間の休憩で大分体調も良くなったのか、かなり元気を取り戻したように見える。


 それから俺は、香辛料屋さんのクライブさんや、【鉄の歯車】のニーナとライラから教わったレシピ通りに、二人に指示を出していく。

 長年に渡り、大食いのアーメッドさんの料理を作ってきただけあって、二人とも本当に手際がいい。


 あっという間に、見た目はシチューにも似たスパイシーな良い香りのするカレーが完成した。

 後はお米があれば完璧なんだが、今は硬いパンしかないため、それで代用してもらうしかない。


「おー! これは確かに……美味そうでさぁ!!」

「本当ですね。あの本気で不味い植物が入っているとは思えない、良い香りと見た目です!」


 完成したカレーを見て、二人は感嘆の声を漏らした。

 俺も食べたくなってきたが、匂いも味覚も麻痺しているため、食べたところで美味しさを感じれずに腹が膨れるだけ。

 大人しく二人が食べるのを見守ることに決めた。


「このソースにパンをつけて食べればいいんですよね? ……吐いてしまったばかりなので、少し怖いですが頂きます!」

「美味しいと思いますので、食べてみてください」


 まずはディオンさんから頂くようで、大きく深呼吸してからパンをカレーに浸してからパクリと食べた。

 はたして口に合うかだが……。


「――っ! 美味しいです。美味しいですよ! 強いて言うのであれば、やはりダンベル草が不協和音となっているのですが、全然美味しいと感じられます!」

「本当ですかい! それではあっしも失礼して……。う、うまいでさぁ! 本当にうまいですぜ!」

「それは良かったです! 俺もこれなら苦なく食べることが出来た料理ですので、お二人の口に合ったみたいで良かったです」

「これでなら、あっしらでも食べれますぜ!」

「そうですね。ルイン君の言う通り、量は食べれませんが……これなら食べていけます!」


 少し心配ではあったが、失敗せずにカレーを作れてよかった。

 味も気に入ってくれたみたいだし、カレーでなら二人もダンベル草を食べていけるだろう。


 俺に付き合ってくれている間だけでも、二人に還元できるようにダンベル草と香辛料は毎日生成してあげようか。

 俺はポンド草、ディオンさんとスマッシュさんはダンベル草。

 この苦行に二人も加わり、『竜の谷』での植物摂取生活が再開されたのだった。


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