第三百七話 大パニック
既に数日が経過しただろうか。
時折ディオンさんが運んできてくれる水と少量の肉を頂くだけで、他の時間は無我夢中でダンベル草を食べ進めている。
ダンベル草の酷い苦味も、ここ最近は口の中がおかしくなってしまったのか何も感じず、逆に水や肉の方が変な味と思うほど狂ってきてしまっている。
このまま味覚がおかしくなったままなんじゃないかという恐怖心はありつつも、食べ進める手は一切緩めずに俺はダンベル草を口へと放り入れていった。
「ルイン、大丈夫ですかい? 少しは外に出て休憩してくだせぇ」
「スマッシュさん、ありがとうございます。ですが、俺の方は大丈夫ですので、スマッシュさんも自分のことをやってください」
「……そうはいってもでさぁ。まだ四日目なのに、目に見えてやつれているのが分かりますぜ? この魔力溜まりってのは体に良くないんでやしょう」
「それはないと思いますよ。もし本当にやつれているのだとすれば、食べているこの植物が原因だと思います」
「なんですかい? その葉っぱは」
「強くなれる植物ですね」
「強くなれる植物……? ちょっと一本だけ頂いてもいいですかい?」
「あっ、ちょ――」
俺のその言葉に心惹かれたのか、地面に置かれたダンベル草の中から一本手に取ると、俺が返答する前にそのままの勢いで口へと入れたスマッシュさん。
苦いという情報を伝える前に食べてしまったため、かなり嫌な予感がするが……。
「んぐんぐ。ん、ぐ?……ん、ぐぃ! ――ぶべぇッ! べっべっ! な、なんですかい! このあ――ヴぉえッ!」
スマッシュさんは数回噛んだ瞬間、喉を両手で押さながら勢い良くダンベル草を吐き出した。
ダンベル草を吐き出しても尚、口の中に苦味が残っているのか、口の中の水分を全て外に吐き出すようにした後……それでも苦味が収まらなかったようで、走って洞窟の外へと出るとそのまま吐瀉してしまったようだ。
「い、一体どうしたんですか? スマッシュさん大丈夫ですか? ルイン君、説明を!」
俺が慌ててスマッシュさんを追いかけると、洞窟前で待機していたディオンさんがスマッシュさんの背中を慌てた様子でさすっていた。
「俺が食べていた植物を食べてしまって、そのせいで嘔吐してしまったみたいです」
「ルイン君の植物を食べて嘔吐……? 毒とかではないんですよね?」
「はい。毒草ではないです」
「そうですか……。それならひとまずは安心しました」
俺とディオンさんで顔の青ざめたスマッシュさんを介抱し、落ち着くまでしばらく様子を伺う。
洞窟の外に飛び出してから数十分後、スマッシュさんはようやく落ち着いたようで、口をあんぐりさせながらも話せるくらいには元気を取り戻したようだ。
「本当におっ死んじまったんじゃないかと思いやしたぜ。……ルインはあんなもん食べてたんですかい? ありゃ、絶対に食べ物なんかじゃないですぜ」
「そ、そんなに不味かったんですか?」
「不味いってもんじゃないでさぁ。数回噛んだ瞬間、舌が刺されるような痛みと痺れが襲ってきたんですぜ? 今でも……うっぷ。口の中が気持ち悪い。――苦いって言葉だけじゃあ形容できない味でさぁ」
「ルイン君、そんなものを食べて大丈夫なのですか?」
ディオンさんは本気で心配そうな目で俺に尋ねてきた。
確かに日に日に元気がなくなりつつあるが、体に大きな支障は出ていない。
苦味もグレゼスタに居たころから食べているし、慣れもあるからな。
治療師ギルドで働いていた時も、色々と変なものを食べていたから苦味には耐性があるのかもしれないけど。
「俺は慣れもありますので大丈夫です。それに目的はこの植物を食べることですし、不味いからといってやめることはできません」
「本当に危なくなったら止めてくださいね。何よりも体が第一ですから」
「その通りですぜ! うぅ……喋るだけで口が渋くなりやがる! ルイン、絶対に無理だけはしないでくだせぇ! 冗談じゃなく、苦味で死んじまいますぜ」
スマッシュさんの魂の忠告を聞き入れたところで、俺は再び魔力溜まりの洞窟へと戻り、ダンベル草の摂取へと戻る。
俺が無事に強くなれたら、ディオンさんとスマッシュさんの二人にもと思っていたが……あの様子じゃ絶対に無理だろうな。
俺に力がついているのかどうか分からないが、この頑張りの成果が出ていれば嬉しいけれども。
あと三日摂取を頑張ったら、一度休憩を兼ねて実力試しを行うのもいいかもしれない。
体感では、この三日間で今までの摂取したダンベル草分を食べているため、どれほど力がついているのか非常に楽しみ。
見た目にはさほど影響は出ていないように見えるけど、体の内側が強固になっている感覚はある。
二人に手伝ってもらいつつの実力試しを楽しみにしつつ、スマッシュさんの大騒ぎで少し体調が良くなった俺は、地獄のダンベル草摂取を再開させたのだった。
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