第三百八話 一週間が経ち……


 スマッシュさんのつまみ食いの大パニックから、三日が経過した。

 この三日間も寝る時以外はただひたすらに、ダンベル草を貪り食い続けていた。


 肉体はダンベル草を摂取したことで効能により強くなり、精神もダンベル草の苦味をひたすらに食べ続けることによって強くなれた気がする。

 僧侶の断食以上に苦しい生活を送っていた訳だが、今日はいよいよ一週間のダンベル草生活の成果を試す日。


 俺の体がどうなっているのか分からないが――俺は魔力溜まりの洞窟に落ちていた手のひらに収まるくらいの石を拾い、一瞬だけ力を入れて握り絞める。

 すぐに手を開くと、先ほどまで石だったものは一瞬にして砂へと様変わりしていた。


 こんなことを試したことがなかったが、おそらくここに来る前の俺ではできなかった芸当。

 筋骨隆々の大男がやりそうな芸当が、一般成人男性からしてみれば小さい方に入る俺ができてしまうのは違和感が凄いけど、これがダンベル草の力なんだと思う。


「ルイン君、入りますね。――ってあれ? 今日は植物の方は食べないのですか?」


 俺が軽く力試しをしていたところに、毎朝水と少量の食料を運んできてくれるディオンさんが洞窟の中へと入ってきた。

 いつもは座っている俺が立っていることに違和感を覚えたようで、心配そうに声を掛けてくれた。


「はい。今日は休養日にしようと思ってまして、久しぶりに洞窟の外で羽を伸ばそうと思ってます」

「そうでしたか。てっきり体調が悪くなったと思って心配しましたが、気分転換ということで一安心です。私も丁度、休養の提案をしようと思っていたので、良いタイミングでの休養だと思いますよ」

「ご心配ありがとうございます。それで一つお願いがあるのですが、今俺がどれぐらいの力がついたのかを試したくてですね……。魔物と戦いたいと思っているのですが、時間があればディオンさんとスマッシュさんも同行してはくれませんか?」


 力を試すには魔物と戦うのが一番手っ取り早い。

 そのため、索敵能力の高い二人に手頃な魔物を見つけてもらいたいのだ。

 了承してくれればいいのだが、はたしてどうだろうか。


「そういうことでしたら、私たちは喜んでお受け致しますよ! ……ただ、ルイン君は大丈夫なのでしょうか? 一週間洞窟に籠りっぱなしでしたし、いきなり魔物と戦うのはどうなのかと思ってしまいます」

「俺の方は大丈夫だと思うんですけど……」


 実際にどれほど強くなっているのかが分からないため、自信満々なことは言えない。

 力をつけすぎていた場合でも、以前とのギャップで体が上手く動かせないなんてことも考えられはするからな。


「うーん、そうですね……。まずは私とスマッシュさんと戦ってみるというのは如何ですか? ほとんどアーメッドさん任せといえど、ルイン君よりも深い位置までダンジョンに潜っていますし、実力試しの相手ぐらいにはなるかと思います」


 むむむ……。

 本当に、本当にありがたい話なのだが、俺としてはこの力を人で試す方が怖いんだよな。

 可能性としては限りなく低いだろうけど、力加減を誤って殺してしまったら笑い話では決して済まない。


「私たちの身の心配をしてくれているのかもしれませんが、その心配はご無用ですよ。なんといったって、私たちはあのアーメッドさんの相手だってしてきたんですから。攻撃を受けることに関してだけ言えば、ランダウストの冒険者の中でもトップクラスだった自負があります」

「……ですが、自分でもどれほどの力がついたのかが分からないので、人相手――それもディオンさんや、スマッシュさんに試すのは気が引けて……」

「大丈夫ですぜ! あっしらがドーンと胸を貸しやしょう! ルインがエリザよりも強くなっているって自負があるなら、話はまた別ですがね」


 洞窟の外から話を聞いていたであろうスマッシュさんも会話に参加し、俺が気を使わないよう進言してくれた。

 俺としてもアーメッドさんより強くなりました! なんて思えるはずもないから……ここはありがたく胸を借りることにしようか。


「…………そこまで言ってくれるのでしたら、是非お二人の胸をお借りしてもよろしいですか?」

「当たり前です! 私たちここまで何も手伝えてませんからね。ようやく役に立てることが見つかって嬉しいですよ」

「人生の先輩としても、冒険者の先輩としても、あっしらがルインに手解きをしてあげますぜ! エリザから教わったことを伝授しやしょう」

「ありがとうございます! 本当に心強いです!」


 スマッシュさんとディオンさんに深々と頭を下げ、感謝の言葉と気持ちを伝える。

 魔物相手に――という、俺が思っていたこととは少し違うが、これで俺にどれぐらいの力がついたのかを試すことができる。


 

 軽くご飯と水を頂いてから、洞窟の外に出てきた俺は軽い準備運動から始める。

 スマッシュさんが大パニックを起こしたとき以来の、外が明るい内に洞窟から外に出た。


 寝る前は体を拭くために外に出てきていたが、日が昇っている内は久しぶりなため、日差しがやけに眩しく感じる。

 俺の前ではディオンさんとスマッシュさんも準備を行っており、気合いが入っているのか、二人共に本気モードの目をしているのが分かった。


「俺の方は準備が整いました。お二人はどうですか?」

「私はいつでも大丈夫ですよ」

「あっしも準備は万端ですぜ。……さあて、どっちから先にいきやすか?」

「それでは、先にスマッシュさんからどうぞ。私はスマッシュさんの次ってことで」

「お、いいんですぜ? もしかしたら次は回ってこないかもでさぁ」

「構いませんよ。【青の同盟】の力を見せつけて来てあげてください」

「おっしゃ! 任せてくだせぇ!」


 先にどちらから出るのかが決まったようで、スマッシュさんが自分の頬を思い切り一発叩くと、鉄剣を握って前へと出てきた。

 今回は、鉄の剣を使っての模擬戦。……といっても、刃の部分を潰したスマッシュさん特製の鉄剣のため、危険性はそこまで大きくない。

 

 ルールは【鉄の歯車】達と散々やった模擬戦ルールで、制限時間の中で有効打を多く決めた方の勝ち。

 もちろん戦闘不能にさせれば、その時点で勝者となれる。


 木剣じゃなくて鉄剣だし、戦闘不能で決まってしまうパターンは多くなるはずだ。

 手数も重要だが、一撃の重さも重視――って違う!


 負けたくない欲が強すぎて作戦を考えてしまったが、今回は実力試しが模擬戦を行う目的。

 勝負に熱くなりすぎず、今の俺の力を推し量っていこうと思う。


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