第三百五話 聞き込み



「久しぶりにルイン君とご飯を食べましたね」

「やっぱエリザがいねぇとしっくりこねぇですがね」

「………………」

「スマッシュさん。アーメッドさんの話はまだ早いですよ」

「おっと、すいやせん。まぁでも変に話題を避けるのは、あっしにはできやせん」

「それもそうですが……」

「すいません。変な間を作ってしまって。アーメッドさんを思い出すと、まだちょっと……」

「それでいいと思いやす。エリザもルインが悲しんでると知れば、喜ぶと思いますぜ」

「それはどうですかね。私は……“いつまでもくよくよしてんじゃねぇ!”ってキレると思いますけど」

「確かに怒られちゃいそうですね。――それにしても、ディオンさんアーメッドさんの声真似上手すぎないですか? 一瞬、本気でビックリしました」

「私、声真似上手いんですよ。まぁ女性の方の声真似は似ないのですけど、アーメッドさんはハスキーボイスですからね」


 本当にそっくりだったため、今でも心臓が高鳴っている。

 二人といるとアーメッドさんの姿を感じるのに、声まで聞こえるとなると心臓に悪い。


「それで、ルインはなんでこの村に来たんですかい?」

「あれ、聞いていませんか? 強くなるための修行をしに来たんです」

「急いでルイン君の向かった先だけを聞き、追いかけて来たので知らなかったです。それにしても修行ですか……」

「ランダウストのダンジョンじゃ駄目だったんでさぁ。わざわざ帝国まで来たってことは何かあるってことですかい?」

「はい、そうです。『竜の谷』の近くに魔力溜まりなる場所があると聞いて来たんです。……ですけど、何か若干違う気がしてまして」


 俺の曖昧な答えに、首を傾げたディオンさんとスマッシュさん。


「違うというのはどういうことでしょうか」

「ここではなくて、別の『竜の谷』な気がしているということです。地図も貰ったんですが、地形も合っていないと思いまして」

「それでは、まずは本当の『竜の谷』探しからってことですか」

「聞き込みならあっしらに任せてくだせぇ。ちょちょいのちょいで集めてきやす」


 そういうと、二人はお店を出て店外に聞き込みへと出て行った。

 俺も当初の予定通り、ここの人に話を聞いて見ようか。


「すいません。少しだけ時間大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だよ。おかわりかい?」

「いえ、少し聞きたいことがありまして……。『竜の谷』ってここ以外にありますか?」

「ん、んー? それはとんちか何かかい?」

「いえ、ここ以外に『竜の谷』っていう場所がないか知りたいんです」

「ごめんね。私は聞いたことがないよ。少なくとも帝国には存在しないと思うけどね」

「そうですか……。ありがとうございます」


 おそらく長年住んでいる人でも知らないのか。

 それじゃ、ここが『竜の谷』ってことでいいのか?

 

 もやもやが残りつつも、俺は定食の料金を支払ってからお店を後にする。

 もう少し聞いて回っても情報がなければ、ディオンさんとスマッシュさんと合流し、ここを『竜の谷』と見立てて地図にあてはめながら、魔力溜まりの洞窟に向かってみようか。



「スマッシュさん、ディオンさん。どうでしたか?」


 聞き込みをしてくれていた二人と合流し、どうだったかを尋ねる。

 俺の方はというと、定食屋以外でも聞き込みをしたのだが、定食屋のおばさんと同じような反応しか返ってこなく、結局手掛かりはなしだった。


「あっしは良い情報を手に入れましたぜ」

「私も手に入れました。スマッシュさんからどうぞ」

「ここから東に抜けたところに、帝国一の歓楽街があるらしいんでさぁ。なんでも世界中の人が集まるほどのカジノに、色々な土地から呼び寄せた極上の女! 極楽のような街らしいですぜ!」

「……はぁー。そんなことだろうと思いました。行きたいなら一人で行って来てくださいね。――私の方はちゃんとした情報です。冒険者の方から聞いたのですが、ここから更に北に抜けた先に、竜が住処としている谷があるそうです。人は滅多に近づかないようですが、どうやらそこが『竜の谷』と呼ばれている場所のようですね」


 竜が住処としている谷。

 その場所ならば、確かにおばあさんやシャーロットさんの口ぶりとも一致する。


「多分、その谷だと思います! ディオンさん、聞き込みありがとうございます」

「いえいえ。詳細な道のりも教えてもらったので、準備を整えてすぐに向かいましょうか」

「すぐで大丈夫なんですかね? 人が寄り付かないほど危険な場所なんですよね?」

「大丈夫だと思いますよ。竜といってもワイバーンのようですし、索敵能力だけは唯一誇れる点ですので。接敵しないように案内します」

「ディオンさん、よろしくお願いします!」

「…………ちょっと無視しないでくだせぇ。情報が手に入らなかったから少しでもタメになる情報を集めようと思っただけでさぁ。あっしもついて行きますぜ!」

「スマッシュさんもよろしくお願いします!」


 ディオンさん、スマッシュさんの聞き込みのお陰で、『竜の谷』の情報を手に入れることができた。

 情報の齟齬や知っている人の偏りから、一般の人には知れ渡っていない場所のようなのは確かだ。

 ワイバーンは下級竜とも呼ばれているが、下級だろうが竜は竜だしね。


 接敵した時点で、今の実力では到底太刀打ちできない魔物。

 ディオンさんとスマッシュさんのお陰で、接敵の確率は大幅に下がるだろうがそれでも十分に気をつけなければならないな。

 

 ただ、こうなってくると……。

 魔王の領土への危険度が計り知れないものになってくる。


 アーサーさんから見て『竜の谷』は危険ではなく、魔王の領土は立ち入れないほど危険な場所なんだもんな。

 死ぬ気で特訓をし、それこそワイバーンを避ける必要もないくらい圧倒的な強さを手に入れなくては駄目だ。

 自分の中で新たに覚悟を決め、俺達は『竜の谷の村』から『竜の谷』へと向かったのだった。


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