第三百一話 魔力溜まり
「アーサーさん、貴重な情報ありがとうございました! 早速、皇国に行ってみたいと思います」
「ルイン、ちょっと待て。そのおとぎ話の真相を追うってことよな? それは絶対に無理じゃ。悪いことは言わんから諦めた方がよい」
情報をくれたものの、何故か全力で俺を引き留めてきたアーサーさん。
疑問しか浮かばず、俺は思わず突っかかってしまう。
「なんででしょうか? 皇国が危険な国だからですか? ……俺は誰になんと言われようと、絶対に諦めません」
「皇国は宗教色が強く、確かに若干の危なさはあるのじゃが……問題はそこではない。その話の行きつく先が魔王の領土じゃからだ。当時、人間の中では最強だと自負していたワシが諦めた。魔王の領土は、それぐらい危険な場所なんじゃよ」
魔王の領土。
俺はそこがどういった場所か知らないため、アーサーさんの言葉にいまいち危機感を持つことが出来ない。
ただ、あのアーメッドさんを殺すことの出来る強さの魔物が、他にもうじゃうじゃといるのだとしたら……確かに今の俺では犬死することは目に見えている。
最低でもアーメッドさんを超える力をつけなければ、魔王の領土には足を踏み入ることは出来ないのかもしれない。
「…………それでは、諦めるしかないってことですか?」
「ああ、ワシは諦めた。――が、諦めたワシよりも強くなればいいだけじゃ。ルインは誰に何と言われようと諦めないんじゃろ?」
「強くなる――ですか」
『強さ』に関しては、ランダウストに来てからも追い求めてはいた。
ただ、グレゼスタに居た頃のように、純粋に力だけを求めるような行動は取っていない。
勇気と無謀を履き違えるのは駄目だ。
心情的には一刻も早く情報を集めに行きたいが、一度立ち止まって力をつけなければアーメッドさんを助けることは出来ない。
「そうじゃ。強くなるしか、この話が嘘か真かも確かめることはできん」
「……そうですね。力をつけるのが最短の道」
「そういうことじゃな。だから、パーティを組みなおしてダンジョンに潜るのがワシはいいと思うぞ。ダンジョンは鍛えるのにうってつけじゃからな」
アーサーさんは笑顔でそう助言をしてくれたが、俺は正攻法で鍛えるつもりはない。
確かにダンジョン攻略で鍛えられたのは事実だが、ダンベル草やポンド草による底上げが最速で最適だと思っている。
問題は入手の難しさと、【プラントマスター】による生成の消費魔力が大きく、量産ができないこと。
魔力草がたくさん自生しているところがあればいいのだが、俺が思いつくのはコルネロ山しかない。
「アーサーさん。魔力草がたくさん自生している場所って知りませんか?」
「魔力草がたくさん自生している場所……? なんで急に魔力草の話になるんじゃ?」
「俺が強くなる一番の道はスキルを活かすことだと思ってまして、そのスキルの練習をしたいんです。魔力草がたくさん生えている場所があれば、魔力を回復しながら出来ますよね?」
「なるほど、そういうことか。生憎、魔力草がたくさん自生している場所は、そこら辺の山ぐらいしか知らないのじゃが……。魔法の練習をするなら打ってつけの場所を知っているぞい」
「打ってつけの場所ですか?」
「ああ。帝国の『竜の谷』の谷底にある秘境の洞窟じゃ。人が立ち入られない場所でな、そこの洞窟には自然の魔力溜まりが出来ているんじゃよ」
『竜の谷』。
ビンカスで話していた時、シャーロットさんがアーサーさんの最後に会った場所として挙げていた、『ウィルリングの村』に行くまでに通る場所として、確か名前が出ていた。
二人揃って『竜の谷』を超えることには渋った様子を見せていたし、相当危険な場所なはず。
「あの、魔力溜まりって何なのですか?」
「その名の通り、魔力が溜まっている場所じゃな。魔力濃度が濃いから、魔力溜まりでは呼吸しているだけでどんどんと魔力が回復していくんじゃよ。『竜の谷』の洞窟は、ワシが昔から修行の際に使っていた秘密の場所じゃ」
この話が本当ならば、これ以上に修行をするのにうってつけの場所はない。
この場所に籠り、ひたすらにダンベル草を生成し続けることが出来れば、俺は一気に自身を強化することが出来る。
「アーサーさん、お願いします! 俺にその場所を教えてくれませんか?」
「別に構わんが、先ほども言った通り、この洞窟は人が立ち入られない場所にある。下手すれば向かう道中や、その帰り道で命を落とすことがあるかもしれんぞ?」
「危険については大丈夫です。魔王の領土に行けるようになるためにも、俺が絶対に行かなくてはいけない場所だと思うので」
「分かった。後で詳しい地図をやろう。本当は直接案内してやりたいところなんじゃが、店のこともあるし何より老体には堪える。すまんな」
「いえいえ。貴重な情報を教えて頂いた上に地図まで頂けるなんて、感謝しかないです」
それからアーサーさんは店の奥に行くと、自作した地図であろうものを持って戻ってきた。
「これが地図じゃ。『竜の谷』から魔力溜まりの洞窟までの局所的なものじゃから、『竜の谷』までは自力で向かってくれ。『竜の谷』自体も秘境の地にあるのじゃが、名は通っておるから聞き込みでもいけるじゃろうし、地図も売られておるじゃろう」
「アーサーさん、本当にありがとうございます。戻ってきたら、またお礼に伺わせて頂きます」
「ふぉっはっは。アイリーンの愛弟子とならば、これぐらいのこといつでも教えてやるわい。いつかダンジョンで攻略を再開した時は、またワシの店を宣伝してくれ」
「はい。必ず」
おとぎ話の件に加えて魔力溜まりの洞窟についてと、本当に貴重でありがたい情報を頂くことが出来た。
俺なんかに全面的に協力してくれる、おばあさんやアーサーさんには本当に頭が上がらない。
感謝の念を最大限に込めて、俺はアーサーさんに深々と頭を下げてから【鷲の爪】を後にしたのだった。
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