第二百九十九話 アーサー
「あれ? ルインさん知っているんですか? 私は店名までは存じ上げないのですが、武器屋を営んでいるという情報は持っていますね」
「なんだい! ルイン、アーサーと知り合いなのかい?」
「知り合いというか……。ダンジョンに潜っている時にスポンサーになってもらっていたんです。武器や防具の斡旋やダンジョンでの注意点のアドバイスなど、色々とサポートしてもらっていました」
「それが本当にあのアーサーなら、凄い繋がりね。グレゼスタではアイリーンと知り合い、ランダウストでアーサーと知り合う。ふふっ、面白い」
「いや、まだその方がお二人とパーティを組んでいたアーサーさんと、同一人物っていう確証はないんですけど」
俺の中では、八割方そうではないかと思っているが、絶対とまでは言い切ることが出来ない。
アーサーさんから、おばあさんやシャーロットさんの話は一切聞いたことがないしな。
「いや、私はその人がアーサーさんだと思いますよ。……黒い大剣持ってませんでしたか? いかにも凄いと分かるような漆黒の大剣です」
「ああー、お店に置いてありましたね。確か、『ソウルグラム』って言っていました」
俺がその単語を発した瞬間におばあさんは勢い良く立ち上がり、シャーロットさんは手に持っていたウイスキーの入ったグラスを勢いよくテーブルに置いた。
「やっぱりアーサーさんですね。ランダウストで武器屋を営み、『ソウルグラム』を持ってるアーサーなんてこの世に一人しかいませんよ」
「ルインがまさか本当にアーサーと知り合っていたなんてね。世界は狭いってつくづく感じるよ」
「本当にびっくり。それにしてもアーサーが武器屋ねぇ。なんか想像がつかない」
この様子じゃ本当に『鷲の爪』のアーサーさんが、おばあさんやシャーロットさんとパーティを組んでいたアーサーさんだったのか。
確かにただの武器屋さんにしては、ガタイが良くて漂う雰囲気も強者そのもので、扱っている武器も見ただけで凄い物と分かるものが幾つもあった。
そして今思い出したのだが、初めて『鷲の爪』に行った時、俺はアーサーさんからおばあさんと同じ雰囲気を感じ取っていた。
おばあさんと一緒にパーティを組み、場数も同じように踏んでいたと考えれば全てがパズルのように綺麗に繋がる。
「とりあえずルインとも知り合いなら話は早いね。アーサーに聞けば、知っている情報を全て教えてくれると思うよ」
「おばあさん、シャーロットさんありがとうございます。早速訪ねてみたいと思います」
「私は何にもしてないけど。結局、アーサーについての情報も間違ってたし、ルイン君自身が知り合いだったみたいだしさ」
「そんなことないですよ。協力がなければ、自力でアーサーさんに話を聞くなんて発想には至らなかったですから」
俺はシャーロットさんにフォローを入れつつ、お礼を伝える。
「それにしても……アーサーの奴、何をやっていたんだかね。あいつがいるなら被害なしで済むだろうに。ルインは何をしていたか聞いていないのかい?」
「急いでグレゼスタまで来たので、アーサーさんとはダンジョンを出てから会ってないですね。――アーサーさんって、そんなに凄い人なんですか?」
「ええ。そりゃ凄かったわよ。私もアイリーンも実力があるのは自負していたけど、全ての敵をアーサー一人でなんとか出来るぐらいには強かった」
アーサーさんはそんなに強い人だったのか。
確かにそんなに強いのであれば、手助けしてくれればアーメッドさんは死なずに済んだかもと思ってしまう。
他人頼りな時点で、どうしようもなく情けない考えなのだが、どうしても……。
「とは言っても、もう何十年も昔の話ですよ? ルイン君なら分かると思いますが、もういい歳した老人ですからね。擁護する訳じゃないですけども、あの昔のままを求められるのはかわいそうってもんです」
「確かに、ワタシも思うように体が動かせなくなってきてるからね。あのアーサーも年には勝てなかったってことかね」
「私は貴方たちと違って、まだまだ動かせるけど!」
「はははっ。シャーロットさんが腰痛に効く薬を飲んでるの知ってますよ?」
「ちっ、また余計な情報を。……というか、なんで椅子に座ってちゃっかり会話に混ざってるのよ。気持ち悪い」
「無料で情報を渡したのに酷い言い草ですね。私、二人の面白い情報を色々と持ってるんですよ? ルインさん聞きたくないですか?」
その言葉を発した瞬間、おばあさんとシャーロットさんから凄まじい殺気が漏れ出たのが分かった。
正直な話、俺としては聞いてみたい気持ちに駆られたが、首を突っ込むと俺まで巻き込まれかねないので黙っておく。
「冗談ですよ。大人しく戻ります。それじゃルインさん、アーサーさんに会ったら『ハロルドが心配していました』とお伝えください」
「分かりました。伝えておきます」
マスターが両手を上げながらカウンターへと戻っていくのを見送り、ようやく二人の殺気が収まったのを感じた。
「……たくっ。本当にどうしようもない奴ね」
「だから言っただろう。この店を使うのは嫌だってね」
「でも情報が聞けたんだし良かったじゃない。ここで話せば絶対に食いついてくると思ってたら、本当に食いついてきたわ」
「まさかルインと知り合いだとは思ってもなかったけどね。それでルイン。今日はもう暗いけどどうするんだい? 明日まで残るなら付き合ってもらいたいんだけどねぇ」
もう日は落ち切っていて、夜の中を進むことになる。
おばあさんやシャーロットさんのお話も聞きたいし、ここのマスターであるハロルドさんは情報通のため、二人は嫌っているが会話に割り込んでくるのも俺は嫌いじゃない。
ただそれ以上に、少しでも早く情報を集めたいという気持ちが先行しているのが俺の本音だ。
「………………すいません。ランダウストに帰ります。お礼も兼ねてお付き合いしたいところなんですけど、一刻も早く情報を手に入れたいので」
「そうかい、こっちは大丈夫だよ。気を張り詰めすぎないように、自分の体調もちゃんと気にするんだよ」
「おばあさん、本当にありがとうございます。全てが終わったら必ずお礼をさせてもらいます」
「いいんだってお礼なんて。また元気な顔を見せに来てくれればね。……師匠さんには顔を見せないのかい?」
「はい。キルティさんに顔を見せられることは何もしてないので」
「寂しがると思うけど、ワタシが無理にとは言えないね」
「キルティさんや【鉄の歯車】のみんなにも、いつか必ず顔を見せに来ます」
「そうかい。何か知りたくなったり、手伝ってもらいたいことがあればいつでも頼ってくれね。息詰まったら遠慮せずいつでもおいで」
「はい。頼らせて頂きます。それではおばあさん――また」
「はい、またね」
「ルイン君。アーサーによろしくね」
『ビンカス』に残る二人に挨拶を告げ、俺は一人お店を後にした。
暗くなりかけているグレゼスタの街を出て、早足でランダウストへ向けて歩を進めた。
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