第二百九十三話 嫌な予感
「えっ、ランダウストが魔王軍の襲撃を受けていたんですか!?」
「そうよ。かなり早い段階で勘付き、早めの対応を取っていたから被害は最小限に食い止められたけど、街に人が少ないのは魔物に囲まれて立ち入ることが出来ず、観光客やら行商人がめっきりと減っちゃったって訳」
「ダンジョンに入っていて全く気づきませんでしたが、そんな大変なことになっていたんですか……。襲撃を受けたのによくこの程度の被害で収まりましたね」
「私とトビアスは情報を広めるために街を駆け回ったからね。お陰で魔王軍の幹部を名乗る首謀者を討伐することが出来たけど、今までで生きてきた中で一番大変だった数日間だったわ」
「本当にお疲れ様です。……それで、そのトビアスさんは何処に?」
俺がそう聞くと、少し暗い顔をして俯いたジュノーさん。
もしかしてこの襲撃で死んでしまったのでは――と嫌な考えが頭を過る。
「トビアスは、この襲撃で出してしまった戦死者の友人知人家族への挨拶周りに行っているわ」
「え……? トビアスさんがなんでそんなことを?」
「さっきも言ったけど、私とトビアスはかなり早い段階でこの襲撃が起こるって勘付いたのよ。それで襲撃を食い止めるため、ダンジョンに潜っていない街に残っている有能な冒険者パーティに声を掛けていたの」
「その声掛けした冒険者達から出てしまった戦死者の挨拶周りをしているってことですか?」
「ええ。冒険者パーティの位は関係なく、強さを基準に声掛けしたみたいなんだけど……声掛けした冒険者達はほぼ全員死んでしまったの」
その言葉を聞いた瞬間に、嫌な予感で胸が激しくざわつく。
実力重視で選んだのだとしたら、確実に【青の同盟】さん達は選ばれるはず。
嫌な汗が滝のようにダラダラと流れ、心臓が痛いほど激しく高鳴った。
落ち着け。【青の同盟】さん達は、ダンジョンに潜っていることの方が多い。
映像で確認していないが、きっと今も攻略しているはずだ。
「あ、あの……その冒険者パーティの名前って分かりますか?」
「いいえ。私ではなくトビアスが声を掛けたから、どのパーティに声を掛けたかまでは把握していないわ」
「そうですか。貴重な情報ありがとうございました」
「えっ? ちょっ、どこに行くの!?」
俺はお礼と共に銀貨を数枚テーブルの上に置き、急いで喫茶店を飛び出した。
強烈に襲ってきていた疲労も吹き飛び、人の少ないランダウストの街を全力で駆ける。
【青の同盟】さんやトビアスさん達がどこにいるのか見当がつかないため、とりあえず来た道を戻ってダンジョン通りを目指した。
ダンジョンモニターで、【青の同盟】さんが映っていればこの嫌な予感は杞憂に終わる。
安否をいち早く確認するためにも、俺はダンジョンモニターを目指して全力で走ったのだった。
ダンジョンモニターに着くや否や、一階層から全てを確認するように映像を確認していく。
俺も最近名が知れてきたため、ダンジョンモニター前にいる観客に声を掛けられたのだが、今の俺は相手をしている余裕がない。
雑に謝りながら往なし、全神経を映像の確認に向ける。
十階層までいない……。
二十階層までもいない……。
三十階層までも……いない。
確認する階層を上げていくごとに、体の震えが激しくなり息も荒くなってくる。
アーメッドさんを守れるようになるために強くなり、【青の同盟】さん達と一緒に冒険がしたいがためにダンジョンを攻略してきた。
何一つ達成出来ずに別れを迎えるなんて絶対に嫌だ。
神様に心の底から祈りながら、五十階層まで映像を確認したのだが……結局俺は【青の同盟】さん達を見つけることが出来なかった。
それでも諦めきれず、更に二往復確認のために映像を見たが、見逃していた訳ではないため、何度見ても姿は確認出来ず絶望へと叩き落される。
頭を抱えたままうずくまり動けなくなったが、先ほどのジュノーさんの言葉が頭の中で反芻される。
“ほぼ”全員死んでしまった。
トビアスさんに誘われた冒険者パーティが全員死んだ訳ではない。
……それにトビアスさんが【青の同盟】さん達を誘ったこともまだ定かではないし、誘われていたとしてもアーメッドさんが引き受ける可能性だって低いはず。
自分にそう言い聞かせ、街の中を回って【青の同盟】さん達を探すことに決めた。
俺はとにかくアーメッドさんやディオンさん、スマッシュさんが行きそうな場所を訪ねていく。
聞き込みもしながら、手当たり次第に回っていったのだが……。
俺の淡い希望もむなしく、三人を知っている人は見つかっても最近見たという情報は手に入らない。
ダンジョンから帰還した時は日が昇りきっていなかったが、今はもう日が落ち切ってしまっており、辺りが真っ暗になってしまった。
余計なことを考えたくないため、無心で探し続けていたのだが、流石にこの真っ暗な街の中を探すのは無謀だと悟る。
気を抜けば涙が溢れそうな中、泣いてしまったら事実になってしまうという思いから、必死に堪えながら一度『ぽんぽこ亭』に戻ることを決めた。
一度寝て、また日が昇り始めたら捜索しよう――そんな気持ちで『ぽんぽこ亭』へと戻る。
「ルインさん、おかえりなさい。今回は随分と遅かったですね」
「……すいません。ダンジョン攻略で少しトラブルが――」
帰ってきた俺を出迎えてくれたルースのお母さんに心配かけまいと、俺は無理やり笑顔を作って顔を上げたのだが……。
目に飛び込んできたのはルースのお母さんだけでなく、俺が探し求めていた人達がそこにいた。
「遅すぎですぜ。ずっと待ってたのに全然帰ってこねぇんですから」
「スマッシュさん。ダンジョンから戻ってきて、いきなり文句は駄目ですよ。それに予定していた訳じゃなくて、私たちが勝手に待ってただけですしね」
「ディオンさん……。スマッシュさん……」
ずっと我慢していた涙が、二人の顔を見た瞬間にとめどなく溢れてくる。
……良かった。本当に良かった。
喜びの感情と、それ以上の安堵の気持ちで俺は膝から崩れ落ちる。
「どうしたんですぜ? いきなり泣いて」
「スマッシュさんが文句を言ったからじゃないですか? 疲れているところに酷い言葉を言うからですよ」
「え? あっしのせいですかい? ちょっとした冗談のつもりだったんでさぁ」
「ち、違います。……す、すいません。ちょっと嫌な噂を聞いて、俺が勝手に心配してしまっていたんです」
泣いたことによって余計な心配をかけさせてしまうため、俺は慌てて涙を拭い取って無理やり笑顔を見せる。
泣き笑い顔という酷い表情だが、泣きっぱなしよりは大分マシなはず。
「ん? 嫌な噂ですかい?」
「はい。魔王軍の襲撃を受けて、冒険者が死んでしまったって噂です。俺はてっきり【青の同盟】の皆さんが死んでしまったんじゃないかって……。勝手に心配しちゃっただけなんです」
俺が涙を拭いつつ笑顔でそう言うと、何故か二人は暗い表情へと変わった。
…………なんだ?
その表情に酷く嫌な感じがし、胸が激しくざわつく。
「そ、そういえば、アーメッドさんは何処にいるんですか? 宿屋とかで待ってるんですかね?」
「アーメッドさんは――。…………アーメッドさんは死んでしまったんです。そのことをルイン君に伝えるため、私とスマッシュさんは尋ねて来たんです」
そのディオンさんの衝撃的な言葉に、俺は頭が一瞬で真っ白になったのだった。
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