第二百九十話 共闘の提案

※ルイン視点へと戻ります。第二百七十七話の続きとなります。




 『仮面の女王』との戦いから、数日が経過した。

 毎日薬草を生成し直接摂取したり、傷口に塗布していたお陰もあり、大分体の具合は良くなってきた。


 初対面ながら傷の手当てをしてくれたゲルトさんも、セーフエリアに滞在している間は面倒を見てくれ、特に不自由を感じることなくセーフエリアでの生活を送れている。

 傷の具合的に考えると、もう数日間はここで休んでいたいところだが……。


 少なかった食料は既に底をついており、ゲルトさんのパーティから分けてもらってなんとか食い繋いでる状況。

 あまり気にしなくていいとは言ってくれてはいるが、流石にこれ以上は甘えることは出来ないため、これからアルナさんとロザリーさんに帰還の提案をするつもりだ。


「アルナさん、ロザリーさん。ご迷惑お掛けしました。体はかなり良くなりましたので、もうここを発って帰還を目指せませんか?」

「本当に大丈夫なの? 帰還するって言ったって、帰るにはまた『仮面の女王』と戦わなきゃいけないの分かってる?」

「…………ええ。また厳しい戦いを強いられるとは思いますが、残りの物資が限られていますので。二人にはまた負担をかけますが、ご協力よろしくお願いします」


 頭を深々と下げてお願いをする。

 今回は完全にパーティの指揮を取っている俺のミス。

 二人には本当に迷惑をかけてしまった。


「私は大丈夫ですよ! 山場は『仮面の女王戦』だけだと思いますし、そこさえ乗り越えてしまえばなんとかなると思います!」

「ロザリーは楽観的すぎる。……けど、状況を考えるとやるしかないのか」


 アルナさんも渋々ではあるが、なんとか納得してくれた。

 そうと決まれば、すぐに帰還の準備をしなくてはならないな。


 二人にも準備を行うようにお願いをし、荷物をまとめようとした時――。

 テントのスライダーが開き、外からゲルトさんが入ってきた。


「わりぃな。盗み聞きするつもりはなかったんだが聞こえちまってよ。ルイン、その体で帰還するのか?」

「はい。ゲルトさん達に分けてもらって今までギリギリなんとかなっていましたが、持ち運んできた物資がとうとう底がつきそうでして……。すぐに帰還するしか道がないんです」

「……そうか。確かにいつまでも食料を分けてやれるほど、俺たちも物資に余裕がある訳じゃないからな。その体だと心配だが、どちらにせよ戻るしかないって訳だな」

「そうですね。ただ、ゲルトさんのお陰で傷の具合も大分良くなりましたので、大丈夫だと思います。パーティメンバーの二人には負担をかけるとは思いますが」


 俺がそう伝えると、顎に手を当てて何かを考え込み始めたゲルトさん。

 そして考えがまとまったのか、顔を上げると一つの提案をしてくれた。


「二十九階層のボスだけだが、俺が助太刀してやろうか? 【雨のち晴れ】の面々は巻き込めないが、俺だけだったら許可してくれるだろうしな」

「いやいや! 流石にそこまで手伝ってもらうのは悪いです! 傷の手当てに加えて物資を分けてもらっただけでも、返しきれないぐらいの恩を受けましたから」

「それは冒険者の間じゃ当たり前のことだって言ったろ? それに、これでルイン達が死んじまったら、俺が寝覚め悪いんだよ。一生引きずるだろうしな。俺のためと思って手伝わせてくれ」

「――ちょっ! ゲルトさん、頭を上げてください! 訳分からないですよ、この状況!」


 何故かゲルトさんが頭を下げてお願いするというおかしな構図になったため、俺は慌てて頭を上げてもらう。


「ルイン、手伝ってもらおう。ここから三十階層を降りることを考えたら、仮面の女王を楽に突破できることに越したことない」

「そうだぜ。傷も万全じゃないんだしよ。遠慮していいことなんて一つもないぜ」

「…………確かにそうですね。ゲルトさん、手伝ってもらってもいいですか?」

「ああ、もちろん。ふぃー、これで寝覚めが悪くなるってことはなくなったな。んじゃ、ちょっくらメンバーの奴らと話しをつけてくるわ」


 そう言ってテントから出て行ったゲルトさんは、パーティメンバーの待つテントへと向かった。

 かなり突拍子もない提案だし、【雨のち晴れ】の人たちは渋るのではと思ったのだが……数分で戦闘の準備を整えた状態のゲルトさんが戻ってきた。


「待たせたな。理由を話したら、アタッカーの奴も手伝ってくれるって名乗り上げてくれたから、俺とそいつの二人で手伝わせてもらうぜ」

「えっ? もう許可貰えたんですか?」

「ああ。こんなんでも一応パーティリーダーだからな。それに、今回が初めてって訳じゃないからみんな慣れてんだ」

「……そうなんですか。アタッカーの人まで手伝ってくれるなんて、本当にありがとうございます」

「ルインは本当にお礼ばっかりだな! 気にしなくていいっての。俺が気持ち悪いから手伝うだけだし、アタッカーの奴はそっちの綺麗なお姉ちゃん達に良い恰好したいだけだぜ」


 ガハハと豪快に笑いながらそう言ってくれた。

 ゲルトさんはお礼ばっかりと言っているが、この状況でお礼の言葉が出ない方がおかしいよな。


「そんで、そっちは準備は整ってるのか?」

「はい。あとはテントを片付ければいつでも行けます」

「うし。じゃあ、ちゃっちゃとテントを片づけて、サクッと仮面の女王を倒すか!」

「よろしくお願いします!」


 こうして、ゲルトさんと【雨のち晴れ】のアタッカーであるデビッドさんと協力の元、仮面の女王との戦いが行われることになった。

 相手がつい先日、苦戦を強いられた仮面の女王ということもあり、俺は全力を注ぐつもりで戦いに臨んだのだが……。


 参加してくれた二人が強いというのもあったが、それ以上に五人で戦うという安定感が非常に大きく、一切の苦戦を強いられることがないまま、あっさりと俺たちは仮面の女王を突破することに成功したのだった。


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