第二百八十七話 命令無視
※【青の同盟】アーメッド視点となります。
「てめぇが今回の親玉ってことか。ぜってぇに殺してやる」
「いえいえ。主犯は私ではなく、ここに倒れていたバアリウスが今回に限っては主犯です。……ああ、でも私が事細かに命令はしていましたので、親玉となると私になるのでしょうか?」
「知らねぇよ。質問で返してくるんじゃねぇ」
「それはそうですね。大変失礼致しました」
こっちが攻撃を仕掛けようとしているのにも関わらず、深々と頭を下げだしたクロナックなる魔人。
頭を下げるような内容じゃねぇし、それも幹部ともあろう奴が敵である俺に対して。
俺が殴り殺した魔人には、怒り狂いながら死体をぐちゃぐちゃにしていたのに意味が分からねぇ。
「それでは、もう一つの質問にはしっかりと答えさせて頂きますが、貴方に私を殺すことは出来ません。バアリウスを殺しただけあり、肉体的な能力だけでいうならば私を殺しえるものは持っているのでしょうが……体力の低下、行動に制限のかかる傷の数、武器の破損。万全ではない貴方に私を殺す力はありませんよ。私が貴方を少しでも危険と判断していたのであれば、こうして目の前に現れていません」
ごたごたと理由を並べながら、自信たっぷりにそう宣言してきた。
さっきの魔人も色々とイライラしたが、それ以上にこの魔人にはイラつく。
「なるほどな。俺が万全の状態ではないことを調べ、確実に勝てると思ったから現れたと。骨の髄までダセェ奴だなてめぇは」
「100%勝てると踏んだ戦い以外で、戦いに挑む人など愚者でしかありませんよ」
「俺はてめぇに100%勝てると思ってるぜ?」
「ふふふふ、その状態でこの私に勝てると思っているのですか。本気でそう思っているのでしたら、貴方の知能はゴブリン以下ですね」
「笑ってろ。今すぐにその余裕そうな面を引っ剥がしてやる」
「それは無理な話です。何故なら、貴方はまだ私と戦うことは出来ませんから」
俺を小馬鹿にするようにそう言い放つと、後ろでピクリとも動いていない大蛇になにやら語りかけ始めた。
……この魔人のインパクトで完全に忘れていたが、相手には漆黒の大蛇も控えている。
対するこっちは、少しだけ頭の良いディオンと索敵しか能のないスマッシュだけ。
あの大蛇と二人が戦ったとすれば、二人がかりでも一分も持たずにやられるだろうな。
てことは俺が大蛇を倒し、その後あの魔人とやり合わなくていけない。
殺される可能性があると考えて大蛇との戦いすら回避したのに、もっと深刻な状況になっちまった。
……ただ、俺が固唾を吞みながら大蛇の動きを観察していたのだが、魔人がいくら語りかけてもピクリとも動く気配を見せない大蛇。
金切り音のような言葉のため、魔人が大蛇に何を言っているのか理解は出来ないが、次第に言葉の大きさが強くなり、そして表情が怒りに満ちていくことから大蛇に指示を無視されていることが分かる。
「どいつもこいつも役に立たないクズばかりだ。あまり私を怒らせるなよ?」
「はっはっは! なんだよおいっ。『まだ私と戦うことは出来ませんよ』とか格好つけてたのに、今すぐにでも戦えそうじゃねぇか!」
怒気を強めて独り言を呟いた魔人に、俺は挑発するように言葉をかける。
大蛇との戦いを挟まず、このまま魔人との戦いに持っていければまだ勝敗は分からねぇ。
「…………分かった。もういい。私が直々に相手してやる。……っと、その前にユハラハム。お前はここでおしまいだ」
俺、それから大蛇を睨むと、魔人は尻尾を上手く使ってあまりにもあっさりと大蛇の首を撥ね落とした。
大蛇が一切動かなかったということもあるが、俺が殴り殺した魔人よりも強いオーラを放っていた大蛇を一撃で屠ったクロナック。
俺に100%勝てると豪語していたのも、本当に実力があっての発言。
今の一撃の速度、威力を鑑みても、万全な状態の俺と比較しても実力は大分上ってところか。
――ただ、だからこそ戦いってのは面白い。
確実に勝てる戦いなんて燃えやしねぇからな。
何故か命令に背き、ただ何もせず死んでいった漆黒の大蛇も気にはなるが……目の前の化け物に全集中を向けなければあっさりと負ける。
本日三度目となる、深い位置まで意識を落とし込んでの集中。
精神的な疲労だけでなく肉体の反動も凄まじいし、一日で三回も行ったのは初めてだが、出し惜しみする余裕は一切ない。
俺が殴り殺した魔人よりも、遥かに格上の魔王軍幹部クロナック。
全てをぶつけて確実に殺してやる。
「そこまで強い恨みがある訳ではないのですが、これから貴方に行うのは私の個人的なストレス解消です。少々残虐的かもしれませんが、私に啖呵を切ったのですから少しは持ちこたえてくれるのを願っていますよ」
鞭のような尻尾をビュンビュンと地面に叩きつけながら、ただ真っすぐ俺の下へと向かってくるクロナック。
ただ歩いているだけだが動きに一切の無駄がないことが分かり、無防備なのに隙がないという矛盾に、研ぎ澄まされている俺の感覚が狂いそうになる。
攻撃のタイミングを計っている内に、クロナックはあっさりと間合いへと侵入してきた。
「突っ込んできていたら即死させることが出来たのですが……言動と違い、随分と用心深い性格のようですね。少しは楽しめそうで安心しました」
そんな言葉と同時に、予備動作もなしに尻尾による突きが飛んでくる。
無からマックスの速度での攻撃に、反射だけでなんとか躱すことが出来たが――全く見えねぇ。
俺は分かりやすい助走や振りかぶる動作からだけでなく、小さな筋肉の動きからも読み取って攻撃を予測することが出来るのだが、尻尾に関しては何も読み取ることが出来ない。
まずは、どうにかして癖を見抜かなくば戦いにすらならねぇな。
そんな一心で俺は避けに徹することを決め、全集中させた第六感のみでクロナックの攻撃を受け続けた。
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