第二百八十四話 魔物の群れ
※【青の同盟】アーメッド視点となります。
斬り殺した魔物の数が数十匹にも上り始めたが、周囲を見渡す限りでは未だに減っている感じがしない。
途方もない魔物の数と、それを一方的に屠っていく作業に早くも飽きてきたその時。
「あと……もうひと踏ん張りです!」
「見えてきやした。やっと抜けれやすぜ!」
二人のそんなの声が聞こえ、俺はチラリと声のした方向を見る。
声をした方向はスケルトンウォリアーしか見えていないが、それからすぐにそのスケルトンウォリアーを押し倒すようにして、魔物の群れの内側から飛び出てきたディオンとスマッシュ。
体はボロボロのようだが、なんとかここまで辿りつけたみたいだな。
「おせーよ」
「いやいや、一直線でここまで来ましたよ!」
「そうですぜ! 攻撃を受けてもなんのそので……って、この死屍累々はなんでさぁ!? 一人で無双できるなら、あっしらは逃げても良かったんじゃないですかい?」
「うるせぇな。口ばっか動かしてねぇで魔物の相手をしろ。一気に駆け抜けるから背後は任せたぞ」
「ちょっと待ってください! 少しだけでも休憩――」
「魔物の集団に囲われてて休憩なんて出来る訳ねぇだろ。いいから死ぬ気でついてこい」
合流するなり文句を垂れる二人にそう言いつけ、前方だけに意識を向けて突き進む。
ここからは今までとは違い、魔物を蹴散らしながら前へと進んでいかなければいけない。
認識外の攻撃も飛んでくるだろうし、無傷とはいかねぇだろうな。
「ふぅー……。うしっ、行くぞ」
大きく息を吐き、極限にまで高めた集中を解く。
ここからは索敵をスマッシュ、背後のカバーをディオンに任せ、俺は前へと進むことだけを考える。
俺が斬り殺した魔物共の死体を踏みつけながら、にじり寄ってきている魔物に俺の方から突っ込んでいく。
隊列も糞もない魔物の壁。
人間相手なら色々と考えなきゃいけねぇんだが、烏合の衆は力だけで簡単に押し切れる。
「【激流斬】」
俺の大剣が振り下ろされると同時に、青く光った刀身から可視化された斬撃が飛ぶ。
正面にいたオークだけでなく、背後に控えている魔物も斬り裂きながら斬撃は進み、魔物の群れの中間地点でようやく青い斬撃は霧散した。
正面の狭い範囲だけだし、威力だけみるなら大したスキルではないが、雑魚敵を蹴散らす遠距離攻撃としてはもってこいだな。
【激流斬】で切り開いたスペースを埋められる前に体を捻じ込み、一気に突き進む。
「エリザ! 右に強い反応がありやす。左に流れるよう進んでくだせぇ!」
俺が魔物の群れの中へと入った瞬間、何かを感知したスマッシュからそんな声が飛んだ。
正直、強い敵とは戦いてぇところだが、今の最優先事項は逃げた魔人の後を追うこと。
言葉通り、俺は左に流れるように斬り裂きながら進んでいく。
斬っても斬っても目の前には魔物、魔物、魔物。
嗅覚が人一倍強いせいもあり、魔物共の臭いで麻痺しかけてきている。
更には、俺の大剣も刃こぼれし切れ味が落ちてきているのか、一撃で斬り殺せないことが増えてきているが……足を止めることはしない。
長年愛用してきた大剣だが、ここで使い物にならなくなる――そんな覚悟の元、俺は切れ味を勢いで補うように大剣を力任せにぶん回しにかかった。
「あと少しで抜けれるぞ。抜けたら一気に駆け抜けるからな!」
自分にも鼓舞するようにそう言い聞かせ、一気にペースを上げる。
あと五匹、四匹……三匹。
魔物を正面から叩き潰していき、魔物の群れを抜けるまであと少し。
「【渾身斬り】」
力任せに踏み込み、上段からの渾身の一撃をお見舞い。
前に立っていた魔物が一気に吹っ飛び、魔人が逃げた先へと続く道が開けた。
「開けたぞ! 後ろの魔物を振り切るぜ!」
納剣し、一気に森の奥へと駆け抜ける。
途中から一切返事をしなくなったが、ディオンもスマッシュもなんとかついてきている。
まだ半数近く残っている魔物も逃げた俺達を追ってくるかと思ったのだが、あの開けた場所から出ないように指示が出てるのか、見えない壁があるかのように攻撃の意志だけを見せ、その場に留まり続けていた。
「ふぅー。ここまで来りゃ大丈夫だろ」
「ぜぇーはぁー、ぜぇーはぁー。こ、今回ばかりは……ほ、本気で死ぬかと思いやしたぜ……」
「わ、私もです。ここまで傷を負ったのは初めてですね」
二人を見てみると、確かに今まで一番傷を負っているように見える。
かくいう俺も、意識外からの攻撃をかなり受けて過去一番傷を負わされた。
「適当に回復薬でもかけとけ。少し休んだらすぐに追いかけるぞ」
「えぇー……。もういいんじゃないでしょうか? 先に来た冒険者も全員やられてましたし、敵が向こうから逃げてくれた訳ですから。アーメッドさんも珍しくかなり傷を負わされてますよね?」
「うるせぇ! あの魔人だけはぜってぇに逃がす訳にいかねぇんだよ」
「そうはいっても、あっしらはもう限界が近いですぜ。追いかけた先にまた魔物の群れを用意されていたら確実に死にやす」
確かに二人の言い分も分からんでもない。
大剣もボロボロだし、抑えたつもりだが疲労も久しぶりに感じている。
……だが。
「駄目だ。あいつは絶対に仕留めなきゃならねぇ」
「…………それはランダウストを守るためですかい? それともエリザのプライドですかい?」
「無論。俺のプライドだ」
そう即答すると、諦めたように乾いた笑いをした二人。
それからすぐに傷の手当てと準備をし始めた。
正直、あの魔人との戦闘についてこれないこいつらはここに置いて行ってもいいのだが、俺の中の最後の砦としていてもらわなきゃ困る。
俺も刃こぼれした大剣の簡易的な手入れと、先ほど負った傷の処置を行ってから、魔人が消えた方向へと気配を探りながら歩き始めたのだった。
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