第二百八十一話 外へと続く道
第二百六十七話 開戦の続きとなります。
【青の同盟】アーメッド視点です。
「申し訳ありません。敵の居場所を探すのに手こずって遅れてしまいました」
かなりの時間待っていた俺達に、記者は姿を現すなり深々と頭を下げてきた。
怒鳴り散らしてやろうと思っていたのだが、先に腰を折られ喉元まで出かけた言葉を飲み込む。
「それよりも指揮官の居場所は分かったのでしょうか?」
「はい。指揮官の居場所はランダウストの西の森です。先日、西の森にて軽い騒動があったのですが、どうやら本隊の姿を隠すための工作だったようです」
「西の森か。俺達はもう向かっていいんだよな?」
「はい。私が選別した別の冒険者達にも声掛けしていますので、協力して戦っていただければ幸いです。どうかよろしくお願いします」
そう言うと、再び深々と頭を下げた記者。
なんで只の一記者がここまでしているのか分からないが、ルインの記事を担当している記者。
ルインも何かとお人良しだし、何か通じるものでもあるんだろうな。
「そいつらと協力するつもりはねぇが、まぁ任せてくれ。ド派手に暴れてきてやるからよ」
「はい。ただ、くれぐれもご注意ください。私が見た中で圧倒的に一番強いと感じた魔物でしたので」
「大丈夫だ。俺の方が圧倒的に一番強いからな」
真顔で忠告してくる記者にひらひらと手を振って返事をし、俺達はランダウストから西の森へと移動を開始した。
さて、どこから外に出れば西の森に一番近いんだろうか。
単純に考えれば西の門からだが、西の門は今一番の激しい戦いが行われている場所。
門が魔物によって破られていない限りは、そこから外に出ることは不可能だろうな。
「おい、ディオン。西の森にどうやって行くのが一番近いんだ?」
「……アーメッドさん、行き方を知らないのに歩き始めたんですか? 戻って記者さんに行き方を聞くのが一番の近道ですね」
「かっこつけたのに戻るのは嫌だ。どっか知らねぇのかよ」
「別にかっこよくはなかったですぜ。まぁ東門から出れると思いやすし、大回りしていきやしょう」
「チッ、大回りだと時間食うだろうが」
「なら、聞きに戻るしかないですぜ。あっ、それか……兵士専用の抜け道みたいなのがあるかもしれやせん。検問をおこなってる建物を通れば外に出れると思いやす」
「それだ! いつもは只のお荷物だが、たまには役に立つじゃねぇかスマッシュ」
スマッシュの提案に乗り、兵士が在中する門付近の建物に向かうことに決めた。
西門に着くと、予想通り激しい戦闘が行われているのが見え、兵士が門の上からひたすらに弓を射ち、門の外からは冒険者達が戦っている戦闘音が聞こえてくる。
「向こうもひでぇ臭いだったけど、こっちはもっと酷いな。鼻で息を吸うのすら躊躇うわ」
「魔物の臭いなんですかね? 門の上から落とされた死体もかなりありますし、ここからじゃ見えませんが門の外でもかなりの人が死んでるでしょうから、死臭の可能性もありますね」
「変に想像しちまうから分析すんなや。それより建物ってあそこか?」
門と直結した建物を指さし、その建物へと向かう。
流石に鍵を閉めて完全に封鎖しているようで、扉は押しても引いてもビクともしない。
「うぜぇな。この扉ぶっ壊すか」
「駄目ですよ! 近くの兵士に開けてもらいましょう」
「あっしが交渉してきやすよ。交渉の材料はありやすので、サクッとお願いしてきやすぜ」
扉をガンガンと叩いて開けようとする俺を置いて、上を見上げて必死に物資を運んでいる兵士の下へと向かっていったスマッシュ。
鼻から期待しておらず、手ぶらで戻って来たら即座に扉をぶっ壊そうと思っていたのだが……俺の予想に反し、スマッシュは一人の兵士を連れて戻って来た。
「おまたせしやした。早速開けてくだせぇ」
「おい、何を条件に開けてもらえることになったんだ?」
「なんてことはないですぜ。外に出て戦うから開けてくれと頼んだだけでさぁ。ねぇ兵士長の旦那」
「あ、ああ。魔物と戦ってくれるというなら、喜んで開けさせてもらう。ただ、入ったらすぐに扉は閉鎖させてもらうから、もうこっちへは戻ってこれないことは理解してくれ」
バチコンと気持ち悪いウインクをしてきたスマッシュになんとなくデコピンを食らわせ、俺達は開けてもらった扉から建物の中へと入る。
中は真っ暗でかなり簡素。
てっきり兵士共の遊び場みたいになってるのではと思っていたが、仕事に関するものしか置かれていない。
「何もねぇ部屋だ。ここの兵士は真面目なんだな」
「ランダウストは上がキッチリとしてますからね。厳しく取り締まってるんだと思いますよ」
「それでどこに行けばいいんだ?」
「右手に沿って歩いていけば外に出れるらしいですぜ」
スマッシュの言葉通り、壁伝いに右に向かって歩いていくと重厚な扉が見えた。
扉が厚すぎて音は聞こえないが、多分この扉から外へと出れるのだろう。
「仕掛け扉ですね。閉じたら鍵がかかる仕組みのようです」
「てことは、この先が外って訳だな。お前ら戦える準備をしろ。目の前の魔物を屠りながら西の森へと一気に目指すぞ」
「了解しやした。あっしはいつでもいけますぜ」
「私も大丈夫です。いつでもどうぞ」
二人の準備が整ったのを確認し、開錠してから扉を押し開ける。
外から漂う、先ほど以上の異臭が一気に鼻孔をつき、顔を歪めながらも一気に外へと飛び出た。
目の前には、激しく殺し合いを行っている魔物と冒険者の姿。
戦況を見るにかなりの劣勢のようだが……魔物自体は数が多いだけで、それほど強い魔物は見当たらない。
「へっ、オーガが主戦かよ。斬り殺されたくねぇなら道空けろや!」
滾る気持ちが爆発し、俺は笑みを零しながらオーガに忠告するが、大混戦の最中じゃ俺の言葉は聞こえていないらしい。
いや、そもそもこいつらは人間の言葉は分からねぇか。
新たな獲物とばかりに、金棒を握り絞めたオーガが俺の前へと立ちはだかろうと動いてきた。
そんな馬鹿なオーガに対して俺は満面の笑みを浮かべ、大剣を抜き取ると同時に叩き斬る。
一切の反応を見せることも出来なかったオーガは、脳天から両断されて地面へと伏せた。
もはや原型すら留めていないが、その死に顔は自分が死んでいることにすら気づいていない間抜け面。
「やっぱ死体が消えないのは倒しがいがあっていいな」
「いやいや、全く良くないですよ。それより止まってないで早く先に行ってください! どんどん魔物が寄って来てます」
「うるせぇな。全部ぶっ殺せばいいだろ」
「体力を温存しなきゃこれまでの意味がなくなるんですって! ほら、早くしてください」
俺はディオンに背中を押され、魔物を蹴散らしつつ西の森に向かったのだった。
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