第二百五十九話 好評と不評
『ラウダンジョン社』の記者のトビアス視点となります。
「トビアスさん! 今週の新聞、創業以来過去一の売り上げらしいですよ! やりましたね!」
「ああ。全部、【サンストレルカ】のお陰だけどな」
「いやいや! あそこまで急成長する冒険者を良く見つけましたよ。しかも大抵は最初に声を掛けても大手に流れていっちゃうんですけど、【サンストレルカ】は移る気配もないですし! 凄すぎですよ、トビアスさん!」
「全部たまたまだよ。それと、俺が凄いんじゃなくてルイン達が凄いだけだ」
この間ロザリーとアルナを中心に取材した内容の新聞が昨日発売され、早くも創業以来一番の売り上げとなっているらしい。
今までが売れていなさすぎたというのもあるが、今は臨時で大量にバイトを雇わなきゃ回らないほど大忙しで刷っている状況。
後輩であるデイリーに言った通り、本当に全てルイン達のお陰だ。
「……ただ一緒に掲載した“襲撃事件”については、明確な情報もなく不安を煽ってるだけだってかなりの批判が殺到してるみたいですよ。あれもトビアスさんが書いた記事でしたよね?」
「へっへっ、社長が機嫌悪かったのはそれでか。久しぶりの会心のネタだったんだが、やっぱり世間的には不評だよな」
「笑い事じゃないですよ! ただでさえ忙しいのに、慣れないクレーム処理で俺も方々に足を運ぶハメになったんですからね!」
「へー、そうなのか。俺は何も言われてないけどな」
「トビアスさんは、【サンストレルカ】の担当記者ですからね。社長も強くは言えないんですよ」
「そりゃそうだ。お前も俺のお陰で仕事が大量にあるんだから文句言うなよ。……それにあれは飛ばし記事じゃない。明確なソースは書けていないが、確実に近い内に魔物がここランダウストに襲撃を仕掛けてくる。そうなれば、今は不評の嵐だろうが風向きが一気に変わるだろうよ」
「だといいんですけど。……その前に襲撃によって街がなくなったりしませんか?」
「そこまでは分からんが、大量の冒険者を抱えてるランダウストが落とされることはないだろ」
デイリーとそんな会話をしたあと、俺は会社を出てジュノーと待ち合わせしている喫茶店へと向かう。
古びた扉を押し開けると、先に到着していたジュノーがテーブルで珈琲を飲んでいるのが目に入った。
「待たせたか?」
「珈琲を堪能していたから気にしないでいいわ」
義務的なやり取りをしつつ、俺はジュノーと向かい合うようにテーブルに着く。
それから軽く手を挙げると、マスターは何も言わずとも注文内容が分かったようで、おもむろに珈琲を淹れ始めた。
「古びた建物だけど本当に良い店だよな」
「ええ。なんで人気がないのか分からないくらい良いお店」
「いや、人気がないのは外観のせいだろ。……まあ、今回の記事で人気が爆発したら、ここの特集を組んでも面白そうだな」
「それは勘弁してほしいわ。人で溢れたら行きづらくなるから」
「へっへっ。違いねぇな」
「……それより本題に入りましょう」
穏やかな目つきから一転、鋭い眼光で俺を見つめながらそう話を切り出してきたジュノー。
魔物の襲撃については粗方調べ終わり、記事にもしたためもう終わりなはずなのだが……正直、呼び出された理由が俺は分からない。
「本題ってなんだ? 俺はもう話すことはないと思っているが」
「記事の内容を見たけど、あれじゃしょうもないゴシップ記事とおんなじよ。ここから方々を回って注意喚起をしに行かないと」
「それは俺らの仕事じゃない。そもそもお前が情報源を隠せって言ったからあんな記事になったんだろ」
「そういう約束で情報を掻き集めたんだから仕方がないでしょ。……ただ、襲撃がなかった時の風評被害を避けたいから大々的に記事にはするなと言われているだけで、この情報を漏らすなとは言われていない。今からお偉いさんのところに殴り込みに行きましょう」
ルインに頼んだことから察していたが、相当入れ込んでいるな。
俺は記事にすることが目的で話に乗ったが、ジュノーは人助けのために動いている印象を持った。
確かだが、こいつの出身村は魔物によって壊滅させられていたはず。
そのことが原因で今回の件も過敏になっているのだと思うが、確実に無駄足に終わるのが目に見えているし無駄なことはやりたくないのが本音。
「行ったところで相手にしてくれねぇよ。そこらの一般人ですら相手にしてないんだからな」
「それはあの記事のせいでしょ? 出せていないだけでこっちには明確な情報がある」
「だから、それを見せるところまで行けないって話だ。他の新聞社にタレこむとかのがいいんじゃねぇの?」
「それじゃ、私たちが情報源を隠した意味がないでしょ!」
俺が渋り始めたからか、不機嫌になり始めたジュノー。
言い分としては俺が正しいし、事実相手にしてもらえないと頭では分かってると思うんだがな。
「行くなら一人で行ってくれ。俺は時間を無駄にするのは嫌だ」
「トビアスの記事なんだから、私が行ってもそれこそ無駄になるだけでしょ?」
「さっきから文句ばっかだな。だったらジュノー、お前が記事を書けばよかっただろ」
「そう出来るなら最初からしてるわ。私が書いて載せて貰えるわけがないから貴方に頼んだんでしょ?」
「チッ、良いように使いやがって」
「でも、内容は事実。今後評価がまた上がるのだからウィンウィンのはずよ。そういう契約だったのを忘れたの?」
「……わーったよ。とりあえず一回は付き合う。それで満足か」
「ええ。トビアスも私の意見に賛同してくれたみたいで良かった」
ああ言えばこう言われる、このやり取りが面倒で渋々引き受けた。
絶対に無駄足だが、実際にかなりの数の魔物が攻めてくることは分かっている。
少しでも自分の身を守れる可能性が上がるかもしれない――そう考えることにしようか。
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