第二百五十八話 新たな装備
取材を受けた日から三日が経過。
この三日間は、ダンジョンでの日々で貯めに貯めた細々とした仕事をこなしつつ、体を休めて次のダンジョン攻略のための準備をし、スポンサー契約した『鷲の爪』にも足を運んで手厚いサポートを行って貰った。
アーサーさんの風体からなんとなく分かってはいたけど、やはり元冒険者だったらしく、こちらが望んでいるものを完璧に理解し装備を整えてくれた。
聞いたところによるとアルナさんの矢も、アーサーさんが特別に作らせているものらしく、採算度外視で実戦に特化した逸品らしい。
解説を聞きながら見てみると、様々なところに工夫が施されているのが分かり、この矢目当てでアルナさんが『鷲の爪』の常連になったのも頷けた。
そして、様々な人からの手助けもあって――。
俺達はいよいよ、三十階層に向けてのダンジョン攻略を始めたのだった。
「右の大振り、その後左の蹴りが来ます」
「了解。捌いたら一気に行きますので、ルインさん合わせてください」
第二形態となっているエレメンタルゴーレムに対しても、一切慌てることもなくこちらのペースで戦闘を繰り広げていく。
エレメンタルゴーレムは一応魔物であるが視覚以外の五感が存在しないようで、最初から最後まで同じ挙動で動いてくれるため、慣れれば非常に戦いやすい相手。
初めて戦った時は、怯む様子も痛がる様子も見せずに攻撃を繰り返してくることに戦いにくさを感じていたが、想定外の動きをしてこないと考えれば今までのボスの中で一番戦いやすいボスだと言える。
第二形態は多少生物らしい動きをしてくるけど、これもあくまで“生物らしい動き”に過ぎない。
「【ソードバッシュ】 今です!」
右からの大振り攻撃を躱し、左足の蹴りに合わせたスキルによってエレメンタルゴーレムが大きくバランスを崩したところで、ロザリーさんから合図が入った。
いつでも攻撃を行える準備をしていた俺は、即座にロザリーさんに並ぶように前へと出て、コアを狙って一気に攻撃を開始する。
アーサーさんにコア破壊のためだけに作ってもらった特注の短剣を引き抜き、硬い胴体部分に触れないよう、コアに連続で短剣を突き刺していく。
この短剣は針のように先端が尖った変わった形状なのだが、一点を狙う意味ではとても扱いやすく、ピンポイントで正確な攻撃を加えていける。
更に俺達の合間を縫うように放たれるアルナさんの射撃も加わり、エレメンタルゴーレムの光り輝くコアはあっという間に砕け散ったのだった。
「ふぅー、完勝ですね。最速で倒せたんじゃないでしょうか?」
「ですね! 今までは慣れない鈍器を使っていたのですが、エレメンタルゴーレム相手にも剣を使えるようになったのが大きいです! アーサーさんに感謝しかないですよ!」
「俺もこの短剣、かなりしっくり来てます。鉱石もこれで採取できるみたいですし、良い武器を頂けました。……アルナさんはどうでしたか?」
満面の笑みで喜び合っている俺達に対し、弓を見ながら一人だけ浮かない表情をしているアルナさん。
俺目線ではいつも通り完璧な射撃を見せてくれていたと思ったのだが、何か引っかかる部分があったのだろうか。
「魔法矢を射る時、手元がブレる。狙った位置に射れないのが。……ムカツク」
「そう……ですかね? 俺達への誤射なく、コアに当たっていたと思いますけど」
「これは感覚の問題。……それに、もっと離れた位置からだと誤射する可能性があるレベル」
頂いた新武器で全員が強化されたと思っていたのだが、意外なところで引っかかりが生まれた。
確かに魔法が込められているということもあって、先端部分が通常の矢とは少し違った形状をしている魔法矢。
普通の人ならばそんな気にならないのだろうが、アルナさんからしたら違和感を凄く覚えるのだと思う。
一応、通常矢も持ってきているため、どうしても気になるようだったら通常矢でやればいいと思うんだけど……。
「指の置く位置……? 角度……? 力の加減……?」
頭の中でシミュレーションをしているのか、目を瞑ってぶつぶつと呟きながら弓をひく仕草をしている。
性格からしても完璧に射ることを諦めないだろうし、誤射をすることを頭に入れながらここからの攻略を進めなくてはいけないな。
「ロザリーさん、誤射もあるという認識で二十四階層以降は攻略していきましょう」
「はい。……まあ、普通は誤射するのが当たり前ですからね」
「確かにそうですね。今までアルナさんの腕に甘えてた部分を直せると思いましょうか」
戦闘後にそんな会話をしながらドロップ品を集め、いよいよ二十四階層へと踏み入れる。
アルナさんを見るに完璧とは言えないが、体力にも余力があって食料も十分な量があり、ほぼ万全な状態で二十四階層の攻略に臨むことが出来る。
ロザリーさんの状態を見つつになるが、三十階層に向けてハイペースで攻略したい。
そう心の中で意気込み、俺達は新たなエリアへと足を踏み入れたのだった。
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