第二百五十七話 スポンサー契約


 今回の取材は主にロザリーさんとアルナさんメインで行われた。

 観衆の反応を見て分かる通り、人気があるのは圧倒的に二人だからな。

 それに俺からの取材で書かれた記事は既に複数作られているということもあるし、今回の取材では俺はほとんど喋っていない。


「――っと、こんなもんかな。二人とも長い間の取材の協力、どうもありがとう。お陰でいい記事を書くことができそうだ」

「い、いえ。もっと時間を取られると思ってましたが、み、短く済んだので全然大変じゃなかったです」

「ん。ただ、こんな取材内容で大丈夫なの?」

「ああ。ダンジョン関連はルインからいつでも取材出来るからな。今回は二人の情報を色々と聞きだしたかったんだよ」

 

 そう言ってから、取材内容を記載していた紙をまとめたトビアスさん。

 二人が疑問を抱いた通り、今回の取材はかなり特殊なように俺も思った。

 人物紹介のような記事にするのだろうかと考えていると、トビアスさんは外をチラッと見てからおもむろに立ち上がった。


「どうやら良いタイミングで、【サンストレルカ】のスポンサーに名乗り出てくれた人が来てくれたみたいだ。早速紹介させてもらおうかな」


 応接室の扉を開けて、今着いた人物を部屋の中へと招き入れる。

 扉を潜るように頭を下げながら入ってきた人物は、俺も見覚えのある人物だった。


「紹介しよう。こちらはこのランダウストで武器屋を営んでいるアーサーさんだ」

「ふぉっはっは。ワシはアーサーというものじゃ。このランダウストで『鷲の爪』という武器屋を営んでいて……覚えておるか分からんが、お主らも一度来た事があるはずなんじゃが」

「っち。『鷲の爪』のじじいがスポンサー希望……」

「ふぉっはっは。アルナ、この間のエレメンタルゴーレム戦はワシもモニターで見とったぞ」


 アルナさんと親しそうに話す背が高くゴツいお爺さん。

 その姿をもちろん忘れる訳もなく、初めてダンジョン遠征を行う際の買い物の時にいった、アルナさんオススメのお店『鷲の爪』の店主さんだ。


 “ソウルグラム”という伝説の魔剣を見せてもらったり、様々な武器の説明もしてもらった。

 そんな本人も一目で強者だと分かるオーラを放っていた為、忘れようと思っても忘れられない……そんな人物である。


「もちろん覚えてます。あの時は色々とお世話になりました。近いうちにおすすめの武器を購入しに行こうと思っていたのですが、まさかアーサーさんの方から来て下さるとは思っていませんでした」

「今言った通り、たまたまお主たちの戦闘を見る機会があってな。ビビッと来て、すぐに伝手を当たってスポンサーのお願いをしたんじゃよ」

「アーサーさんにそう言って貰えて本当に光栄な限りです。ですが、本当に私たちで大丈夫なのでしょうか? スポンサー契約ということは、私たちが『鷲の爪』の宣伝をするということですよね?」


 一番の問題はここだ。

 スポンサー契約を結んで頂けるのは非常にありがたいが、こちらがその対価に見合う成果を上げられるかが非常に不安。


「その辺りは心配しなくて大丈夫じゃよ。ワシの店は十二分に回っておるし、お金もまぁそこそこ蓄えておるからのう。ちょこっとダンジョンモニターを意識して宣伝してくれれば、こちらとしては何の文句もないぞ」

「その条件で良いのでしたら、こちらが頭を下げてお願いしたいところなのですが……」

「ふぉっはっは。こちらからお願いしとるんじゃ。そっちはドーンと構えておけばいいんじゃよ」

「そう。スポンサーなんていなくても、別に私たちも困ってるわけじゃないしお願いなんてしなくていい」


 アーサーさんに便乗するように、そう自信満々に言ったアルナさん。

 確かにそうなんだけど……ダンジョン費用の半分はダンジョンで俺が採取した植物と、商人ギルドで買い取って貰っているグルタミン草でなんとかしている状況だからなぁ。

 これから『ラウダンジョン社』からの取材料も頂けるようになるから、更に楽になるとは思うけど、俺の時間と魔力を別のものに費やせると考えれば貰えるに越したことはないのだ。


「ですけど、ダンジョンに潜る際のお金は馬鹿になりませんから。アーサーさんどうかよろしくお願いします」

「あい分かった。ワシが宣伝の対価として支払うのは、宣伝効果によって上がった売上の5%のお金と装備の手配に手入れ。もちろんアルナの弓矢も無償で提供させてもらうぞい」


 アーサーさんの口から出たそんな提案に、一気に目の色を変えたアルナさん。

 先ほどまでの余裕綽綽な表情は一気に消えさり、魔物と戦っているときのような本気の目となっている。


「……弓矢? それは属性矢も含まれるの?」

「もちろん。一回のダンジョンでの制限はさせてもらうが、属性矢じゃろうが魔法矢じゃろうが構わんよ」

「魔法矢ッ……!! ――ルイン、このスポンサー契約は飲むべき。『鷲の爪』にはお金には代えられないほどお世話になっている」


 清々しいほどに先ほどと言っていることが変わったが、アルナさんもスポンサー契約を結びたいと言ってくれるなら楽なことはない。

 上がった売上についてはちょっと予測がつかないけど、装備の手配と手入れをしていただけるだけで本当に助かるからな。


「ロザリーさんも大丈夫でしょうか?」

「え、ええ。わ、私は何も問題ないです」

「分かりました。それではアーサーさん、その内容で契約して貰っても大丈夫でしょうか?」

「こちらから提案しているんじゃ、もちろんじゃよ。それじゃ『ラウダンジョン社』に仲介人となってもらい、書類にて契約をしようかの。万が一、何かあって契約を破棄する場合も『ラウダンジョン社』を挟むが大丈夫かの?」

「ええ。もちろんです」

「無事に決まったようだな。おめでとうルイン。ようやく一人前の冒険者といったところだな。俺も精一杯支えるから頑張れよ」

「トビアスさん、何から何までありがとうございます!」


 こうして無事に『鷲の爪』とのスポンサー契約を結ぶことが決まり、俺達【サンストレルカ】はようやく名実共に一人前の冒険者となった。

 それと、詳しいサポート内容については『鷲の爪』にて話すようで、今日は解散となり又後日話し合いをすることが決まったのだった。

 

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