第二百五十六話 パーティでの初取材


 初めてのエレメンタルゴーレム討伐から一週間が経過。

 あの日から更に二度のダンジョン遠征を行い、俺達は計六体のエレメンタルゴーレム討伐に成功していた。


 その間に『ラウダンジョン社』から新たな俺達の特集記事も出され、今やトップ冒険者たちに匹敵するのではと思うほどの人気があるように感じる。

 三十階層を攻略した段階で、一応の解散も考えている身としてはこの人気は少し怖いところ。

 

 もちろん、俺としては三人パーティで続けていくのがベストではあると思っているし交渉も行うつもりだけど、それもこれもアーメッドさんの一言で全てが破綻するからな。

 視界に捉えたアーメッドさんの背中にそんな妄想を膨らませつつ、俺は『ラウダンジョン社』へと向かう足を速めた。



「遅い。待ちくたびれた」

「すいません。……俺も時間よりもかなり早く着いたはずなんですけど」

「『ラウダンジョン社』の場所がいまいち分からなかったので、わ、私もアルナさんもかなり余裕を持って出たんです。そ、そうしたら予想よりも『亜楽郷』から近くて、早く着いてしまったってだけですので気にしなくて大丈夫ですよ」

「なるほど。そういうことでしたか……。てっきり場所は知っているものだと思ってました。知らなかったのでしたら、現地集合ではなく『亜楽郷』に集合で良かったですね」


 そこまで気が回らなかったことに少し申し訳なさを感じる。

 『亜楽郷』と『ラウダンジョン社』は同じ商店街にあるため、てっきり二人共知っているかと勘違いしてしまっていた。


「それにしてもボロい建物。ここが本当に新聞社なの?」

「た、確かに、この間一緒にパンケーキを食べに行った『ダンジョンペンデント社』と比べますと同じ新聞社とは思えないですね。な、何度もこの建物の前は通ってましたが、ここが新聞社だとは今日まで気づかなかったぐらいですから」

「『ダンジョンペンデント社』は最大手で、『ラウダンジョン社』はいわゆる中小企業ですからね。ただ、人はちゃんと良い人ですので安心してください」

「どうかな。ルインがどうしてもっていうから付き合ってるけど、目立つの嫌だし記事載せるのも反対だから」


 拗ねたようにそう言ったアルナさん。

 確かにダンジョン前の出待ちは俺も嫌だし、出来ることなら目立つ行動を取りたくないのが本音。


 ただ、それ以上にトビアスさんにはお世話になったし、情報提供がなければダンジョン攻略すら出来ていなかっただろうからな。

 どんなことがあっても止めるという選択肢はない。


「そこは我慢してください。俺たちを引き合わせてくれたのも『ラウダンジョン社』の人ですし、ダンジョンをここまで円滑に攻略出来てるのもその人のお陰なんですから」

「そ、そのことを考えますと、断るとは言えませんね。わ、私は記事を読みましたがキッチリと調べた上で書いてくれてましたし、当事者の私が読んでも面白い記事でしたので悪い印象はないです」

「…………分かってる。だから付き合ってるんじゃん」


 ぷくーっと頬を膨らませながらも納得してくれたアルナさんを引き連れて、もう通い慣れた建物の二階へと向かう。

 オフィスへと続く扉を開けると、そこには記者さん達が勢ぞろいしており、俺達を出迎えてくれたようだ。


「休日を使って来てもらって申し訳ございません。私が【サンストレルカ】さん達の記事を書かせてもらってます、トビアスと申します。本日はよろしくお願いいたします」


 たくさんの記者さんの中から、キッチリとした服装のトビアスさんが一歩前に出て腰を九十度に曲げながら挨拶を行った。

 トビアスさんは年がら年中だらしない格好をしているため、普段とのギャップに思わず目を擦りながら本人かどうかすら疑ってしまう。


「こ、こちらこそよろしくお願いします。わ、私はロザリーと申します」

「私はアルナ」

「……本当にトビアスさんですか? ど、どうしたんですか? その恰好」


 俺が驚き、思わず声を掛けると堪えられなくなったのか、周りの記者さん達が一斉に吹きだした。

 ロザリーさんとアルナさんは普段のトビアスさんを知らないため、その異様な雰囲気にぽかーんとした表情をしている。


「……ったく。社長に言われてきちんとした格好をしたんだよ。お前さん達【サンストレルカ】は『ラウダンジョン社』の英雄様みたいなもんだからな。せっかくいい感じだったのにルインのせいで台無しだわ」

「おいっ、ルインさんのせいにすんなよ」

「そうだぞ。お前が普段からだらしないのがいけないんだろ。さっさと案内してあげろ」


 周りの記者さん達から非難の声が浴びせられ、トビアスさんは頭をぽりぽりと搔きながら応接室へと案内をしてくれた。

 態度も今の一件があったからか、普段の取り繕っていないトビアスさんの態度へと戻っている。


「そっちの方がやりやすいですよ」

「俺もこっちの方がやりやすいわ。上からの声がうるせぇからよ。ったく、まともな人間なら『ラウダンジョン社』の記者なんかになってねぇってのに」


 文句を言いながらもお茶菓子の準備をしてくれているトビアスさんに促され、今日はキチンと片付けられている応接室に座った。

 今日はこれからアルナさんとロザリーさんも含めた取材を受けたのち、何やら俺達のスポンサーになりたいと言って来てくれたお店との顔合わせがある。

 スポンサーもトビアスさんが見つけてきてくれたようで、人気となったからにはお金を稼ぐべきというアドバイスを受け、今回の顔合わせもお願いしたのだ。

 

「それでは改めて、俺が【サンストレルカ】の記事を書かせて貰っているトビアスです。堅苦しいのは苦手だから、寛大な目で見てくれたらありがたい」

「そのスタンスで大丈夫ですよ。二人も気にしないと思いますので」

「え、ええ。私は大丈夫です」

「ん。かまわない」

「なら、すまないがこんな感じでどんどん取材を進めさせてもらう。今日はよろしく頼む」


 こうしてトビアスさん主導の下、記事用の取材が始まったのだった。


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