第二百五十五話 慰安会


 俺達はエレメンタルゴーレムを討伐後、無事にセーフエリアへと戻ることができ、そのまま疲れた体を休めた。

 そして、翌日にもう一度二十三階まで下りると、今度はメインアタッカーを俺が担当し二度目の討伐の成功。

 密かに今回の目標としていた、一度の攻略で二度のボス討伐を成功させたのだった。

 

 三十階層を目指すには、まずこのエレメンタルゴーレムを苦なく倒すことが求められるため、しばらくはボス戦に慣れることに全力を尽くすつもり。

 エレメンタルゴーレム後に待ち受ける二十四階層は、更に手強い魔物が待ち受けているからな。


 それから、二日間をかけて二度目のエレメンタルゴーレムを倒した俺達は、十階層のセーフエリアでも休憩を取りながらダンジョンの外へと帰還。

 一歩ダンジョンの外に出て冒険者ギルドに入ると、割れんばかりの大歓声が耳へと届いてきた。


 ……どうやら、俺達の攻略をダンジョンモニターから見ていた人たちが大勢集まってきているようだ。

 ザッと見る限り、二十階層到達時に集まっていた倍以上の人だかり。


 “三人パーティで尚且つ最速ペースでのダンジョン攻略”。

 

 トビアスさんが書いた記事により、爆発的にファンの人数が増えてきたところで今回のエレメンタルゴーレム討伐。

 更に人気に火を点けたというところだろうか。


「【サンストレルカ】が出てきたっ! エレメンタルゴーレム戦見てたぞ!」

「ロザリーさん、かっこよかったです!」

「アルナさん、今日もお綺麗です! 戦いぶりに惚れ惚れ致しました!」

「三十階層攻略も応援しているからな!」

「アルナさん、こっち向いてー!」

「ルインも良くやってたと思うぞー」


 熱狂的な歓声が上がる中、恒例となったギルド職員さんたちに守られながらバックルームへと向かう。

 アルナさん、ロザリーさんの美人二人組の人気が凄いのは変わりないけど、所々俺の名前まで上がり始めたことに、色々な層にも人気が出てきたことを強く感じる。


 この人気ぶりに喜んだらいいのか、それとも悲しんだ方がいいのか。

 なんとも言えない表情で観客の対応をしつつ、ドッと押し寄せてくる疲れを堪えながら、ゆっくりと足を前へと動かしていく。



「とりあえず、皆さんお疲れさま」

「お、お疲れ様です」

「おつかれー」


 ギルドをひっそりと抜けた俺達は、いつものたまり場と化している『亜楽郷』にて慰安会兼反省会。

 アルナさんはお酒を頼み、机にうつ伏せながらチビチビとお酒を口にし、ロザリーさんはジュース。

 俺は水を飲みながら、眠気でとろんとしている目を必死に開けて話し合いを行う。


「エレメンタルゴーレム戦は、二戦ともかなり良かったと思ってますが二人はどうでしたか?」

「わ、私も良かったと思います。ど、道中からそうでしたけど、私の人生の中で一番動けてましたので」

「ルインがアイテムを色々試してた時はアレだったけど、それ以外は悪くなかった」


 俺と同じように二人とも悪くなかったと感じていたようで、特筆する反省点は出てこない。

 本人が言うようにロザリーさんは別人のように動けていたし、俺のアイテムはまぁ……今後のために調べておきたかっただけだ。

 今後は更に安定した戦いを行えると、二戦を戦ってみて感じている。


「それじゃ、エレメンタルゴーレム戦の反省点はなしで大丈夫ですかね。後は実戦を積んで、慣れていく作業って感じでしょうか」

「ん。それで問題ない」

「私もその方針で問題ないと思います」


 満場一致で問題なしとなり、今回の攻略についての反省会の議題が尽きてしまった。

 まだ頼んだ料理も届いていないしもう少しだけ話しを広げたいところだが、はたして何の話をしようかな。


 増えたファンの話か、二十三階層以降の攻略についてか。

 ……そこまで思いついて、一つ気になることを俺は思い出した。


「あの、少し話が変わるんですが……ロザリーさんって、エレメンタルゴーレム戦後ってどうするんでしょうか?」


 確か、ロザリーさんは二十三階層を攻略後に冒険者を辞め、ダンジョンギルドの職員になったと言っていた。

 それも、パーティ自体が解散しての引退。

 つまりは、エレメンタルゴーレムもしくは二十四階層で何かが起こっているはずで、もしかしたらこのまま穴埋めを抜けるということになってもおかしくはない。


「え、ええ……。じ、実を言いますと、本当は二十三階層を攻略したら抜ける予定ではありました。と言いますか、に、二十三階層まで到達するとは考えていなかったのですが……」

「ということは、今回で抜けてしまうんですか?」

「い、いえ! そ、それは結構前に考えていたことでして、ルインさんやアルナさんがよろしければ、もう少しだけ攻略のお手伝いをさせて頂ければ嬉しいと思ってます」


 その言葉を聞けて心の底からホッとした。

 ロザリーさんが抜けてしまったら、パーティが正常に回らない域にまで達している。


 人気の出た今なら、パーティ募集をかければかなりの人数の参加希望者が来るだろうが、三人パーティで回すとなると相当な実力が必要となるからな。

 それに実力だけでなく、俺とアルナさんへの理解力や戦術の把握などもしてもらわないといけない。


 ……それらを考えると、全くの無名だった俺が最初のパーティでロザリーさん、そしてアルナさんをパーティメンバーとして迎え入れることが出来たのは、相当な幸運だったのだと改めて感じる。


「それは本当に良かったです! 今ロザリーさんに抜けられてしまったら、また一からやり直しになるレベルでしたので。ありがとうございます」

「い、いえいえ。こちらこそありがとうございます。……誇張なく、私は今が一番人生を楽しめていますので、穴埋めとしてですがこのパーティに加えさせて頂けたのは本当に良かったです」


 はにかみながらもそう言ってくれたことに嬉しくなる。


「俺もロザリーさん、アルナさんのお二人とダンジョン攻略出来ている今はとても楽しいですよ!」

「二人ともくさいセリフ。聞いてるこっちが恥ずかしい」

「んンっ。……ですが、精神面的には大丈夫なんですか? 確か、パーティを解散したことが原因でどもりが出始めたんですよね?」

「あっ、いえ。こ、この上がり症は昔からでした。ただ、ここまでは酷くなかったんです。ふ、普通に会話は出来ていましたし、戦闘中は焦って頭が真っ白になることはありましたけど、か、解散をきっかけに酷くなっちゃったって感じですね」

「それは二十四階層に到達したら、また酷くなってしまうとかはないのですか?」

「ど、どうですかね? と、当時のことを鮮明に思い出してパニックに――とかはあるかもしれませんが、ダンジョンは地形も日ごとに変化しますし、それに……お二人がいれば大丈夫だと私は思ってます」


 そう言って笑顔を見せてくれたロザリーさん。

 そこまで信頼してくれているのなら、こちらは見守るのが一番なのかもしれない。


 もし何かあっても守れる力はつけてきているし、よほどのピンチな場面じゃなければ対応できるはず。

 戦闘力も対応力も高いアルナさんだっている訳だしな。


「そういうことでしたら、ロザリーさん。これからもよろしくお願いします!」

「はい! こちらこそよろしくお願いします」

「ん。いつかロザリーのパーティに何があったのか教えて。酒のつまみにしたい」

「べ、別にお二人になら話してもいいですよ? た、ただ、楽しい話じゃないと思いますが」

「いいんですか? 俺も聞かせてもらえれるなら聞きたいです」


 こうしてロザリーさんの過去の話聞きながら料理やジュース、お酒を飲み、『亜楽郷』での慰安会兼反省会は夜遅くまで続いたのであった。


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