第二百五十四話 エレメンタルゴーレム



「良いコンビネーションでしたけど、流石に倒しきることは出来ないですよね」

「せめて部位破壊でも出来てれば良かったんですけど、それも出来ずにどうやら一定の体力を削りきってしまいました。ロザリーさん、すみませんがここからが本番です」


 煙が舞う中、徐々に姿を現したエレメンタルゴーレムは武器だけでなく姿形も微妙に変化させていた。

 体に赤い紋章のようなものが浮き出て、目は金色に光り輝いている。


 これが一定の体力が削れた場合に変化するエレメンタルゴーレムの第二形態。

 速度、攻撃力だけでなく、動きも生物らしく変わり非常に厄介となる形態だ。


「任せてください。陣形もこのままで大丈夫です」

「分かりました。危なくなったらすぐに声を掛けてください。すぐにスイッチしますので」


 軽いやり取りをしてから、俺は入れ替わるようにエレメンタルゴーレムから離れる。

 事前に行っていた作戦会議では、第二形態に変化したら俺とロザリーさんの二人で押さえにかかるという話もしていたのだが、ロザリーさんは一人でもいけると判断した様子。

 それならば俺は中間位置でバランスを取ることに専念すればいいし、非常にありがたいのだが……やられてしまった時のことを考えると少し怖いところ。

 

 そんな不安を感じながらエレメンタルゴーレムの動きを目で追っていると、戦闘準備が整ったのか巨体を揺らしながらこちらへと迫ってきている。

 やはり動きは数段速くなっているし、体の中心に埋められている核の部分が赤色に光り輝いたと思った瞬間、空中で小さな岩が生成され勢い良く飛んできた。


「【ラピッドファイア】」


 アルナさんがすかさず弓矢で応戦し、全ての岩を射抜いてくれたが……ここからは更に魔法まで使用してくるのだ。


 アルナさんに魔法を防がれたことなど気にも留めない様子で、ロザリーさんに向かって大剣を振り回わすエレメンタルゴーレム。

 大きいモーションから振り下ろされた大剣は地面を抉り取るように削り、大剣の風圧が少し離れたこの位置まで感じるほどの威力となっている。


 ――ただ、ロザリーさんは一歩も引かず、先ほどまでと全くの別種のような動きをしているエレメンタルゴーレム相手にも焦っている様子はない。

 不規則な変化をつけている攻撃にもしっかりと対応し、攻撃へはまだ移行出来ていないがかなりの余裕が見受けられる。


「ルイン、核を狙っての攻撃を始める」

「……確かにロザリーさんは大丈夫そうですもんね。お願いします」


 そんなロザリーさんの戦いぶりに早くもいけると判断したアルナさんは、一気に倒すべく核への攻撃の提案をし、俺もそれを了承。

 エレメンタルゴーレムには最終形態とは名ばかりの自爆特攻があるため、爆弾の役目にもなっている核の部分を破壊しないといけない。

 アルナさんがいれば核の破壊は楽々こなせるだろうが、俺も少しでもサポートすべく、アイテムでの応戦、クイックポーションやポンドポーションでロザリーさんの能力の底上げを行う。


「左足の蹴り、それから右腕での振り下ろし。逆袈裟の構え――核も光ってますので魔法がきます」

「ん。射ち落とす。【パワーアロー】」


 エレメンタルゴーレムの全体を見ながら、ロザリーさんとアルナさんに逐一報告を入れていく。

 アイテムはやはりバイタル草の根が一番効いていたため、逆袈裟のモーションに合わせて埋め込み、攻撃の阻害且つ核への攻撃の隙を作りにかかった。


 背中から生えてきたバイタル草の根は、エレメンタルゴーレムの体を媒体に一気に成長を始めると、関節部分をまきつけながら足の付け根辺りまで浸食していく。

 そのお陰でゴーレムの動きが一時停止し、その隙を逃さずロザリーさんは顎をかちあげるように下からハンマーを打ちつけ、上体が起き上がり隙が出来たところにアルナさんが矢で核を攻撃。


 すぐに立て直したエレメンタルゴーレムによって、根っこはすぐに毟り取られてしまったものの、十分すぎる効果を発揮してくれている。

 そこからは戦い方を完璧に掴み、ロザリーさんがヘイトを買って攻撃を受け切り、俺がさらなるアイテムでの能力の底上げと動きの阻害。

 そして、アルナさんが核への攻撃と魔法への対処。


 それぞれの役割が綺麗に行われ、第二形態へと変化しても危険らしい危険が一切ないままエレメンタルゴーレムは核を射抜かれ、激しく動いていたのが嘘のようにただの岩のように地面に転がった。



「余裕」

「危なげなく倒せましたね。今までで戦った魔物の中でも、三本の指に入るぐらいの強さだったと思うんですが」

「私もビックリしてるよ! 前に戦った時は半壊させられて、やっとの思いで倒せたからさ。自分の動きにも驚いてるし、二人の強さにも驚いてる」


 転がったエレメンタルゴーレムの残骸を見ながら、各々感想を漏らす。

 個人的にはヴェノム、初対面時のアングリーウルフに続く、強いと思った魔物だったのだが、あっさりと倒せたことへの驚きが強い。

 やはり突発でピークガリルと戦った経験が大きかったのか、全員が取り乱すことなく魔物と戦うことが出来ていた。


「噂になっていた通り、ピークガリルの方が厄介だったっていうのもありますよね! 見ため的にもあっちのが渓谷エリアのボスっぽいですし」

「そうですね。単体ではエレメンタルゴーレムの方が強かったですけど、キャニオンモンキーがかなり厄介でしたから」

「ん。私がいなければ数で圧倒されてた」


 そんなことを話しながら、エレメンタルゴーレムがドロップしたアイテムを拾い集めていく。

 んー……。

 レアドロップである精霊石はドロップしなかったみたいだが、高く売れるゴーレムの眼がドロップしてくれたようだ。


「ゴーレムの眼です。できれば精霊石が良かったですが、かなり良いアイテムをドロップしてくれましたね」

「ゴーレムの眼はいいですよ! 装備品の耐久値を上げてくれる補助効果を持つアイテムです。ルインさんの装備に付けたらどうですか?」

「そういうのは後にして、早く帰ろう」

「そうですね。どうするかは後で決めるとして、戻る準備を整えましょうか」


 こういった事には一切の興味を示さないアルナさんに会話をぶった切られ、俺達は帰還の準備を進める。

 ボスを倒したことで気を抜きがちだが、ここから二十二、二十一階層とまた登っていかなければいけないため、セーフエリアに戻るまでは気を引き締めて攻略をしなくてはならない。

 俺は二人にも注意を入れたところで、ダンジョンを引き返したのだった。


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