第二百五十三話 アイテムの試用
見た目的には、圧倒的にピークガリルよりも強そうに見える。
岩の塊が動いているみたいだし、やはり普通の攻撃は一切通じないのではと思ってしまうな。
「ルイン、ぼけっとしないで。邪魔」
斧を振り回しているエレメンタルゴーレム相手に茫然としていると、後ろに控えていたアルナさんから苦言が入った。
俺が慌てて矢の射線から外れた瞬間、放たれた属性矢が関節部分へと突き刺さる。
矢が刺さったことで一瞬だけ動きを止めたが、軽く腕を動かすと矢は根本からへし折れ、何事もなかったかのようにまた動き出す。
……この姿を見る限りは、やはりダメージが入っているようには微塵も感じない。
「だから、早く攻撃」
「すいません。ちょっと動きを見ていただけです!」
またしても苦言が入ってしまったため、俺は慌ててロザリーさんのサポートへと回る。
今回の主攻はロザリーさん。俺とアルナさんで動きを止めたところをロザリーさんが強烈な一撃を叩きこむ算段だ。
ロザリーさんには鈍器を用いてゴーレムを叩き壊してもらうため、いつもの剣とは違う少し細身のハンマーを手にしている。
「左手に回るように誘導してください。その少し先に粘着爆弾を仕掛けてみます」
「了解です」
そんなロザリーさんに指示を飛ばし、エレメンタルゴーレムでも効きそうな広範囲で粘着爆弾を仕掛けるべく、先回りして大量の粘着爆弾を地面に投げつけた。
正直、粘着爆弾が効くかどうかは怪しいところだが、もし動きを止めることが出来たのならその時点で勝ちは決まる。
逆にものともしないようなら、広範囲にぶちまけた為、こちらの動きが制限されてしまうデメリットが生まれるのだが……決して分の悪い賭けではない。
「誘導――しました」
「完璧です。合図と共に足に向かって攻撃をお願いします。三……二……一……今です!」
俺の合図と共に、反転しながら勢い良く振ったハンマーが膝の関節部分へとクリーンヒット。
まさしく岩をハンマーで殴った時のような鈍い音が鳴り響き、殴られたエレメンタルゴーレムはというと、バランスを崩して粘着爆弾の撒かれている方向へと足を着いた。
ここまでの狙いは完璧なのだが……はたして粘着爆弾が効くのかどうかが一番の問題。
エレメンタルゴーレムがどう動くのかを見守っていると、練り込まれた強力な粘着草に足を取られながらも、純粋な力だけであっさりと抜け出てしまった。
歩く度にぺったんぺったんと足の裏と地面を粘着草がひっついてはいるが、元々動きは鈍いためとても効果があるようには見えない。
「粘着爆弾は失敗ですね。あと三つ、試したいアイテムがあるので協力お願いします」
「了解です。それにしても、動きが鈍いので全然怖さを感じないですね」
「ええ。ですが、一撃でも貰ったら致命傷になるので気は常に引き締めてください」
「大丈夫です。以前、このゴーレムにパーティを半壊させられたので、一撃の重さについてはよく分かってますよ」
言葉の重みがあるそんな返事をしてから、ゆっくりとエレメンタルゴーレムの下へと向かっていったロザリーさん。
先ほどの言葉通り、慎重に立ち回っているロザリーさんに、ゴーレムは一度も攻撃を当てることが出来ていない。
遠距離からアルナさんの矢のサポートもあるし、このまま立ち回れるのであれば何もせずとも完封できるぐらいの安定感がある。
……ただ、エレメンタルゴーレムが真価を発揮するのは後半戦から。
動きが遅くこちらが好き放題出来ている今の状態の内に、俺が製作したアイテムを全て試しておきたい。
そんなことを考えながら、次に俺が取り出したのはスモーク玉。
このスモーク玉は、ただ姿を暗ますのが目的ではなく、一時的にだが視界を奪う、レベルがマイナスの暗視草を使っている。
普通の魔物相手ならその効果は絶大で、視界を奪ったことで敵味方分からずに同士討ちをさせることも出来たほど。
エレメンタルゴーレムに効くかどうかについては、正直粘着爆弾よりも可能性は低いと思っている。
ただ、少なくとも目は機能しているようだし、こちらもワンチャンにかけて行うべきだと思っている。
「ロザリーさん、次はパンチを誘発してください。そのタイミングでスモーク玉を投げます」
「分かりました。距離を図りながら合図を送ります」
頼もしい返事と共に、一気に間合いを詰めていったロザリーさん。
距離は一気に縮まり、手でエレメンタルゴーレムを触れるほどの超至近距離のため、攻撃が当たらないかヒヤヒヤするが……実に上手いこと躱している。
まるでアルナさんの体捌きを見ているかのようだし、本当にフォーカスポーションを使用した状態にようやく慣れたのだというのが分かるな。
ロザリーさんの完璧にいなしている姿に見惚れつつ、俺も投げれるタイミングを見計らっていると、攻撃が当たらない事に痺れを切らしたのか、エレメンタルゴーレムの方から一歩引いて距離を取った。
そして――一歩引いた状態からそのまま、渾身の右ストレートを叩きつけるように放った。
「ここです!」
完璧なタイミングでロザリーさんからも合図があり、俺はカウンターを当てるかの如く、振り下ろす拳に合わせて顔面にスモーク玉を投げつけた。
そして、それと同時にもう一個のオリジナルアイテムである、バイタル草の種と強力栄養剤を混ぜて生成した特別な根を、エレメンタルゴーレムの体に投げ込む。
バイタル草は強い生命力を持つ植物で、本来の効能は何もなく只の雑草なのだが、俺の作った特製栄養剤を与えると尋常ならざる速度で成長させることに気づいたのだ。
一度、この種と栄養剤をコボルト相手に試したことがあるのだが、数分たらずでエネルギーを吸い尽くしたほどの化け物じみた生命力を持っている。
二つのアイテムに期待を込めて見守るが、スモーク玉は一切効いている様子はなく、栄養剤入りバイタル草の根は右腕全体にバイタル草を生い茂らせることはできたものの、命を奪うまでの力はなく成長が止まってしまっている。
ただ、絡み合う植物を鬱陶しそうにしているし、動きを止めるという点では効果はあったのかなとも思えるな。
「最後、ド派手にいきますので離れてください!」
アイテムお試しの最後は、もちろん粉塵爆発コンボ。
俺の言葉を聞いてロザリーさんがすぐさま離れたのを確認し、俺はパンの原料に棒草を練り込んだものをエレメンタルゴーレムに浴びせ、そこに起爆用としてボム草ボールを投げつけた。
たちまち激しい爆発音と共に、エレメンタルゴーレムを包むように火柱が立ち昇ったのだが……。
残念ながら倒しきることはできなかったようで、焦げ付き若干欠けているものの、煙が舞う中に大剣へと持ち替えているその大きな姿が動くのが見えたのだった。
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