第二百六十話 門前払い

『ラウダンジョン』社の記者、トビアス視点となります。



「だから無駄だって言ったろ」

「なんなの、あの受付嬢! ちょっと可愛くて良いところに勤めているからっていい気になって!」


 喫茶店にて珈琲を飲んでから、町長に会うべくすぐに役所へとやってきた俺達だったが、予想通り門前払いを食らった。

 受付嬢のあしらい方がかなりのモンで、ジュノーはこのように荒れに荒れている。


「上からの指示だろうよ。変な奴は門前払いしろって」

「こっちは色々と情報を話したのに! なんで危ないって分からないの?」

「そりゃ向こうは情報を持っていないからだろ。……というか、お前なんでそんなに焦ってんだ?」


 最初からずっと思っていたが、ジュノーの焦りようにはずっと気になっていた。

 俺の予想では襲撃があったとしても数カ月後くらいだと思うし、襲撃の前に兆候のようなものを感じ取れると思っている。

 こんなに慌てて伝えたとしても、それこそ無駄に終わる可能性の方が高いと見ているんだが……。


「……言ってなかったけど、今回の件で一つ思い当たる節があるの」

「思い当たる節?」

「ええ。私の出身はカンバ村で、そのカンバ村が魔物によって滅ぼされたのは知ってるかしら?」

「ああ。一夜にして消えたカンバ村はかなりの話題になったからな。自己紹介でそこの出身って言ってたのに忘れる訳がない」

「話が早くて助かるわ。私は両親のお陰でその魔物による襲撃から逃げることが出来たのだけど、その時に見た一匹の魔物がいるの」

「一匹の魔物? その時見た魔物が今回の襲撃とも関わっていると?」

「ええ。目撃情報とその時に見た魔物の特徴が一致して――」


 ジュノーがそこまで言いかけたとき、かなり汚れている鎧を着た三人の兵士が、慌てた様子で俺達の前を通りすぎ奥へと向かって行った。

 そんな異様な様子に俺とジュノーは顔を見合わせ、一つ頷いてからジュノーは先ほどの受付嬢の下へ。

 俺は外へと飛び出し、今の兵士達がなんだったのかを探りに向かう。


 キョロキョロとランダウストの街の様子を伺うが、街の人たちが騒いでいる姿もなく特に異変はない。

 兵士達の慌てようから、てっきりこの街が襲撃されたのかと思ったがそうではないみたいだ。


 それからしばらくの間、俺はメインストリートを中心に歩いてみたのだが、やはり異変は特に感じられないままグルリと一周し終えてしまった。

 話をしていた内容が内容だっただけに、早とちりをしてしまったようだ。


 何事もなかったことに安堵しつつ俺が役所に戻ると、入口付近で警備兵と揉めているジュノーの姿が目に入った。

 何やら大暴れしているようで、周りの人達の視線も集めてしまっている。


「ちょっと離しなさい! 私は町長と話さなくてはいけないことがあるのよ!」


 もう少し上手くやれよと呆れそうになるが、あの状況で情報を掴もうと動けばああなるか。

 あのままじゃ詰所に連れていかれかねないため、なんとか穏便に済ますために俺は急いで仲裁に向かう。


「すまん。そいつ、俺の知り合いなんだが何かしたのか?」

「こいつは町長の部屋に忍び入ろうとしてたんだよ! 不法侵入でしょっぴいて貰おうと思ってんだ!」

「だから、不法侵入とかの小さい話じゃないのよ! この街が落とされたら貴方の責任に――」

「すいません。こいつ昼間っから酔ってるみたいで……。本当に申し訳ない。ほらっ、お前も頭を下げろ!」

「ちょっ、痛い!」


 自然な流れで間に割り込み、警備兵に食いかかっているジュノーの頭を無理やり下げさせる。

 そのまましばらく頭を下げ続けていたら、警備兵も渋々ながらも溜飲が下がったのか詰所まで連行せずに役所へと戻って行った。


「はぁー……。何してんだよ」

「痛いわね。強く握り過ぎなのよ!」

「ッチ、助けたのに礼もなしかよ。……で、何か掴めたのか?」


 俺が押さえていた体を離すと、乱れた服を直しながらジュノーは西の方角を指さした。


「どうやら西の森から魔物が大量に出てきたらしいわ。その魔物を退治しようとしてかなりの怪我人が出ていると兵士が話をしていたのを盗み聞いた」

「大量の魔物……。まさか魔王軍か?」

「いえ。その魔物達は既に討伐し終えているらしいし、西の森に住んでいた魔物で間違いないわ」

「へぇー、それなら良かった――とは、ならないな」

「ええ。西の森で何かが起こっている、もしくは起こったのだと思うわ」


 俺もジュノーと同意見。

 単純に西の森の魔物が暴れ出した可能性もあるけど、状況から考えて魔王軍の仕業と考察してしまう。

 実際のことはもう少し調べないと分からないが、先ほどジュノーが言っていた通り、魔王軍は目と鼻の先まで来ている可能性が高いのかもしれない。

 

「俺も同じ意見だ。……なんかまた一気に物騒な話になってきたな」

「そっちは何か情報掴めたの?」

「いや、街はいつもと変わらない雰囲気だった。これは街の外に出てみないと分からないな」

「そう。それならここからは二手に別れましょう。トビアスは街の外に出て情報収集、私は街に残ってもう少し多方向に頼み込んでみる」

「なんで俺が街の外なんだよ。“襲撃”についての新聞の記事には俺の名前が載ってるんだから、俺が街に残って頼んだ方がいいだろ。……それに次は本当に捕まるぞ」

「いつ魔物が襲って来てもおかしくない状況で、私が街の外になんか出る訳ないじゃない。元冒険者ならなんとかできるでしょ? こっちは別角度から切り込むから安心して。それじゃ宜しく頼むわね」


 言いたいことだけ言って、そそくさと何処かへ行ってしまったジュノー。

 身勝手な行動に呆れるが、今はそんなことを考えてる場合ではないな。

 一度家に戻って、埃を被ってるであろう装備を取りに行くか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る