第二百五十一話 魔銅の鉱脈


「久しぶりの新階層攻略ですね! 二十階層以降のこのピリピリ感、懐かしいです」

「このまま二十一、二十二階層を突破したらもうボス戦ですからね。休んだから大丈夫だと思いますが、道中も集中を切らさないようにしましょう」

「ん。疲労は抜けてる」


 無事に二十階層まで攻略を終え、セーフエリアにて一泊した翌日。

 二十三階層のボス討伐に向け、俺達は久しぶりの未知の階層に足を踏み入れる。


 二十一階層、二十二階層は共に変わらず渓谷エリアで、出現する魔物も変化はないため特に問題はないはずだ。

 一番の問題はやはりボス戦だが……入念な打ち合わせをしてきたし、ピークガリルとキャニオンモンキーの方が映像を見た限りでは厄介だと俺は感じた。


 両肩をグルグルと回しながらストレッチをし、体が暖まったところで頬を二回叩く。

 気合いを入れ、いよいよ俺達は未知の領域となる二十一階層に足を踏み入れた。


 下りた瞬間を狩られないよう、警戒度を上げて周囲を確認するが襲ってくる魔物の姿は見えない。

 フロアを見た感じもやっぱり十九階層と何ら変わりないな。


「うーん。やっぱり見た限りでは、これまでの渓谷エリアですね」

「そうですね。下はセーフエリアですし、上からも下からも魔物が襲ってきた十七、十八階層が一番大変だったんじゃないでしょうか? 魔物の数も二十一階層は体感的に少なかった覚えがありますし」

「索敵してるけど、この階層は確かに魔物の反応が薄い」


 ロザリーさんの言葉に共感するように、アルナさんも索敵の報告をしてくれた。

 十六階層と同じ感じならば、戦闘を行わずに抜けることが出来るかもしれないな。


「そういうことでしたら、魔物と会敵せずに抜けれますかね?」

「ゼロかどうか分からない。ただ、大幅に抑えることは出来るはず」

「その一言が本当に頼もしい限りです。アルナさん、案内よろしくお願いします」


 これは嬉しい誤算。

 こういったことは、映像や情報からでは入手出来ないからな。

 

 実際に映像を見る限りでは、他の冒険者たちは二十一階層もバンバン戦闘を行っていたし、こんなことが出来るのは五感の優れたアルナさん故の芸当。

 ……もしかしたらアーメッドさんも似たようなことが出来るかもしれないけど、アーメッドさんの場合は魔物を見つけた瞬間に自ら突っ込んでいきそうだからな。


 そんなアーメッドさんの行動を勝手に想像しながらダンジョンを進んでいると、岩と岩の隙間に何やら大きな光る鉱脈が目に入った。

 ――あれは確か、武器の素材になる鉱石が採取できる鉱脈なはずだ。


「見てください! あれって鉱脈ですよね?」

「あっ、本当ですね! あれって魔銅の鉱脈じゃないでしょうか?」

「魔銅……! 魔銅といえば魔法金属ですよ! ちょっと採取したくないですか?」

「別にいいけど、その近くに魔物の反応が複数ある。おそらくオーアトカゲ」


 鉱脈近くに魔物の反応。それもオーアトカゲか……。

 オーアトカゲはこのダンジョンの全階層に出現する魔物なのだが、普段は隠れるように姿を暗ましているため、実はまだ一度も戦ったことがない。


 鉱石を食べるのがオーアトカゲの主な特性で、食べた鉱石によって戦闘力を変えるため個体によっての戦闘力の差が激しいのが特徴。

 噂によれば、伝説の鉱石であるヒヒイロカネを捕食したオーアトカゲによって、当時S級の冒険者パーティが壊滅させられたなんて話も聞いたことがある。


「……ここは我慢ですかね。オーアトカゲは計算できない魔物ですし、鉱石を採取し鞄に入れた状態でボス戦は厳しいと思います」

「諸々を加味しても魔法金属を逃すのは惜しいですけど……。確かにオーアトカゲがあの魔銅を食べている可能性は高いですもんね。うぅ……魔銅装備が作れるのに」

「良い判断。行こう」


 俺とロザリーさんが採取出来ずに惜しむ中、淡々と切り替えているアルナさんについていき、初めての――それも魔法鉱石の鉱脈を俺達は見送った。

 正直、価値を考えたら今回は鉱石の採取にシフトチェンジしてもいいぐらいなのだが、目的がブレるのは良くない。

 当初の目的通り、今回の攻略は二十三階層のボス戦だけを考え攻略をしていくべきだ。

 

 そう言い聞かせて魔銅の鉱脈を見送った俺達は、それから一度の会敵もなく階段へと辿り着くことに成功。

 会敵なしは無理と言っていたが、しっかりと会敵することなく階段まで案内してくれたアルナさんは流石としかいいようがない。


「体力まるまる残した状態で二十一階層を攻略ですね。流石はアルナさんです」

「……やっぱり異次元です。ここまで索敵能力の高い人、私知りませんよ!」

「様子見してくる魔物が多かったからたまたま。魔物の隠れてる場所さえ分かれば誰だってできる」

「それが常人には出来ないんですよ。……とりあえず、案内ありがとうございました! 二十二階層は戦闘ラッシュになると思いますので、ここでもう一度気を引き締めていきましょう」

「ん。私は準備万端」

「私も大丈夫です。楽させてもらった分、次の階層は頑張りますよ」


 戦闘がなかったため、もう一度引き締め直してから階段を下りていく。

 この二十二階層を攻略すれば、その次はもうボスのいる二十三階層。

 ウォームアップも兼ねて、俺も次の階層は本気で戦おうか。


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