第二百四十八話 襲撃についての考察


 ジュノーさんからも“襲撃”についてのことを聞かされるとは……。

 少し前にトビアスさんも話していたし、もしかしたら『ラウダンジョン社』が記事にしようと集めている情報なのかもしれないな。


「あー。確か、魔王軍による襲撃が各地で起きている――でしたっけ?」

「ええ。ダンジョンに籠りっぱなしだし知らないかと思ってたけど、話が早くて助かるわ」

「トビアスさんから軽く聞いていましたので。……ただ、詳しくは何も知らないですよ?」


 情報を求められたりしたら困るため、念を押して伝えておく。

 俺が襲撃について知っていることはヴェノムの情報くらいだし、セイコルの街での一件が関連しているのかどうかも定かではないもんな。


「そこは期待していないから大丈夫よ。今さっき言った通り、ルイン君が何も知らないていで話を振っているから」

「それならいいんですけど……。それでは襲撃についての話というのはなんですか?」


 情報提供の件ではないのなら、襲撃されたら対応してくれという依頼か?

 ダンジョン攻略が目的ではあるが、俺も一応冒険者ではあるからな。


「情報を貰ってきてほしいのよ。トビアスからね」

「トビアスさんからですか? 同僚ですし、ジュノーさんが直接貰えばいいのではないんでしょうか?」

「それができるならわざわざ頼まないわ。……それで報酬なんだけど、金貨五枚でどうかしら?」


 予想外のことを頼まれ、一瞬頭がこんがらがってしまう。

 同じ会社だし情報は共有するものだと勝手に思っていたが、会社内でも記事や集めた情報の良し悪しで序列がつけられたりするのだろうか。

 ……だとしたら、俺はトビアスさんを売ることなんて絶対したくない。


「すいません。俺はトビアスさんとの信頼関係が崩れるようなことをしたくないので難しいです」

「まあ、そうよね。ルイン君ならそう言うとは思っていたわ」


 あっさりと諦め、カップのコーヒーに口をつけたジュノーさん。

 その物悲しい顔を見ると、なんだか悪いことをした気分になってくるな。


「……ただ、こちらも簡単に諦める訳にはいかないのよね」


 物悲しそうにカップを見つめていた顔を上げ、真剣なまなざしでこちらを見たジュノーさん。

 そして、カップとソーサーのカチャンという音が誰もいない店内に響く。


「私が手に入れた情報から考察するに、魔王軍はここランダウストを囲むように攻めてきているの。日にちはバラバラだし予測はつけ難かったんだけど、これは間違いないわ」

「ランダウストを囲むように? 最終的にランダウストを攻め落とす気でいるってことですか?」

「ええ。……ただ最終的ではなく、ここが始まりだと私は予測しているの」

「……? それってどういう意味でしょうか?」

「襲撃のあった村や街は被害を受けてはいるものの、魔物に乗っ取られているところは一つもないの。それは防衛できなかったところも含めてね」


 そういえばトビアスさんも、襲ってきた魔物達はいなくなったと言っていたな。

 最終的にランダウストを落とすのが目的ならば、襲撃の成功した村や街を手放すのは確かにおかしい気がする。


「ということは、魔王軍はランダウストに近づくためだけに村や街を襲っているってことですか?」

「半分正解ってところね。魔王軍は出来るだけ戦力を残した状態で且つ、ランダウストに援軍が来ない時に攻めたいと思っているはずなの。この街には、魔物なんかよりも化け物みたいな力を持っている冒険者がいるから」

「つまり戦力を削られたら、魔王軍はランダウストを攻め落とせないと考えてるってことですか?」

「ええ、あくまで私の考察だけどね。だからこそ、一番最初にランダウストを攻め落としに狙っていると私は思っているの」


 話が難しく、頭の悪い俺には理解が追いつき切れていない。

 ただ、なんとなくだけど分かってきた気がする。


「今話題になっている各地での襲撃は、ランダウスト襲撃の布石だとジュノーさんは考えている――ってことで合ってますかね?」

「そういうこと。あくまでも私の考察だけど、かなりの確率で合っていると思うわ。これまで行われた襲撃は、全てがカモフラージュで何か裏の意図があると思ってるの。この考察の正誤をハッキリさせるためにトビアスの情報が必要なのよ」

「かなり大変なことが起ころうとしているのは分かりましたが、それこそトビアスさんに直接頼んだ方がいいんじゃないでしょうか。それにこの街の危機だとしたら、他の新聞社や情報屋、街やランダウストのお偉いさんにも話を通せば――」

「ふふっ。私たちの会社を知ってるわよね? 廃れた商店街の汚い建物に構えてる新聞社の、更に一記者である私の話なんか誰がまともに聞くと思うの?」


 自虐気味にそう笑ったジュノーさん。

 確かに……失礼かもしれないけどその通りだ。

 俺ですらまだ半信半疑だもんな。


「…………確かにそうですね。ただ、トビアスさんなら」

「ないわ。何ならトビアスが一番可能性がないの。ルイン君の前では、情報をくれる優しいおじさんなのかもしれないけど、普通の人、ましてや商売敵相手では絶対に情報は渡さないのよ」


 ピシャリとそう断言したジュノーさん。

 俺の知っているトビアスさんだと、このことを伝えればすぐに情報をくれるイメージなのだが、ここまで断言するところを察するに本当にそうなのだろう。

 ……だからこそ、俺に頼んできたってことか。


 何度も言うようにトビアスさんを売るようなことをしたくないが、ランダウストに本当に危機が迫っているのだとしたら売らなければならないと思う。

 ただ、俺自身がジュノーさんの話を信用し切れていないというのもあるのだ。


 それに明日から三十階層を目指しての攻略が始まるというのに、余計なことを考えたくないというのもあるし……。

 ただ、ジュノーさんが情報欲しさに嘘をついているようには見えないんだよなぁ。


「………………分かりました。ただトビアスさんに何も伝えず、情報を引き出してジュノーさんに渡すということはできません。俺から今の話をトビアスさんに伝えて、情報を頂けないかを聞いてみるということならやりますがどうしますか?」

「ふぅー。そうなると情報をくれる可能性がかなり低くなるけど……こうなったらダメ元ね。一大スクープを挙げるため、ルイン君に情報の詮索をお願いしてもいいかしら?」

「はい。この条件でいいなら聞いてみます」


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