第二百四十六話 ルインの活躍

※【青の同盟】アーメッド視点となります。



 「エリザ、あれを見てくだせぇ!」


 三十七階層の攻略を終え、久しぶりに地上へと帰還したその帰りの道中。

 通り過ぎたダンジョンモニターを指さし、スマッシュが叫ぶように声を上げた。


 名前呼びにイラッと来たものの、攻略の疲れもあって怒鳴る気力もなく、俺はゆっくり指のさされている方向を見る。

 その方向の先のモニター前には異様に人が集まっており、そして――その人の集まっているモニターにはルインの姿が映し出されていた。


「映ってるのルイン君じゃないですか! あそこって十九階層のモニターですよね? ふふ、やっぱりとんでもないペースで追いついて来てますよ」

「しかも三人パーティですぜ! エリザとの約束をしっかり守ってるんでさぁ!」


 そんなスマッシュとディオンの言葉もあり、動悸が段々と早くなっていく。

 遠くながらもルインの姿が映像にはっきりと映し出されており、そんな姿は以前の甘っちょろい子供のような姿は微塵もなく、一人の冒険者、一人の男として魔物と対峙している姿。


 正直、照れくささから無茶苦茶な条件を叩きつけたのだが、俺と一緒のパーティに入りたいからという理由だけで、命を張りながらも頑張っているルインを見て心の底から喜びの気持ちが――。

 そこまで感情が高ぶったところで、一気に恥ずかしくなり俺は頭を横に強く振る。


「おいっ! スマッシュてめぇ、名前で呼ぶなって何度言ったら分かんだよ!」

「ちょっ!? 疲れたんじゃないんでやすか! ほ、ほらっ! ルインもあそこに――グワアアアッ」


 逃げようとしたスマッシュに一瞬で追いつき、渾身のゲンコツをお見舞いする。

 一瞬だけ火照ったが、今の一撃で大分冷静になれた。


「ルインも頑張ってるみてぇだな。俺らも追いつかれねぇようにしねぇと、だ! 今日は居酒屋で死ぬほど飲んで、明日からまたダンジョンに潜るぜ!」

「えっ……? いやいやいや。無理ですよ、アーメッドさん! 長期間のダンジョン攻略帰りで即ダンジョンは無理ですって。今回だって急ピッチで潜って本当に大変だったんですから」

「う、ぐぐ……。頭がいてぇでやす。……あっしも無理だと思いやすぜ。死ぬほど飲んだとしたら、明日は動けねぇでやすからね。それに、買い出しなんて半日じゃ無理でさぁ」

「それじゃ、てめぇらはルインに追いつかれてもいいってのか?」


 全力で否定してくる二人に、俺はそう言葉を突き付ける。

 ルインが俺のパーティに入りたいと本気で思ってくれてるのが嬉しくない訳ではないが、あっさりと追いつかれるのは嫌だ。


 冒険者歴も俺の方が圧倒的に長い訳だし、メンツを保つためにもすぐ追いつかれる訳にはいかねぇ。

 きっとこいつらだって、俺と同じようにプライドってもんが少しはあると思ったんだが……。


「私は全然構いませんよ。むしろ、ルイン君がこのランダウストまで来てくれた段階で一緒にパーティを組みたかったですし」

「あっしもかまわねぇですぜ。そもそも、あっしとディオンは索敵と雑用しかしてねぇでやすからね。もう実力的には抜かれてるんじゃねぇですかい? がっはっは!」

「本当にてめぇらは……腑抜けた野郎共だっ!」


 そんな情けない言葉にイラッと来た俺は、再びゲンコツを叩きこむ。

 俺達の戦略上、俺が一人で魔物をなぎ倒してこいつら二人はサポート特化だから、こういった甘えた考えになっているようだが、俺のパーティにいる以上は絶対に許さない。


「その甘い考えを叩き直してやる。明日は休みとするが、明後日からはまたダンジョンだからな! とりあえず今日は居酒屋で説教と反省会だ!」

「うぅ……。もう腫れてきちまってるでさぁ。殴らなくったっていいじゃねぇですかい」

「ひ、久々にゲンコツを食らいましたが、今目の前に星が散っていますよ……」


 両手で頭を押さえる二人の首根っこを掴み、そのままの足で居酒屋へと移動する。

 ルインの映像を見て吹っ飛んでいたが、今回の攻略はいまいちよくなかった。


 魔物が手強くなり、俺一人での対処が難しくなってきているというのもあるが、それ以上にこいつらのこの精神が駄目なんだと改めて分かった気がする。

 性根を叩き直すと共に、しっかりダンジョンでの反省点を共有していかねぇとな。



 居酒屋に着くなり席に通して貰ってから、まずは酒を飲みながら数時間の説教。

 甘ったれたことを言うたびに制裁を与え、ようやく甘っちょろい考えが正され始めてきた。


「もう頭も耳もいてぇでやす。いつからこんな熱血になったんでさぁ」

「分かりませんけど、ルイン君に影響されたのでしょう。このランダウストに来る前は、アーメッドさんが一番適当にやっていたと思うんですが……」

「ぐちぐちうるせぇぞ。まだ説教されてぇのか?」

「いやいや! これからは気を引き締めて攻略していきやすぜ!」


 スマッシュがビシッと気を付けをしてそう宣言したところで、俺は度数の高い酒を一気に煽る。

 熱気の籠った酒気を帯びた息が口から吐き出され、少し気分が良くなってきた。


 攻略の反省を行う前に、もう少し酒を入れようとつまみと共に更に飲んでいると、やたらと気になる話が周りから聞こえてくる。

 俺は耳が特別良いため、店内の話が正確にそしてどこの場所の話でも聞こえるのだが、店にいる八割の客が同じような話をしているのだ。


「なぁ、お前ら魔物の“襲撃”について何か知ってるか?」

 

 気をつけをしていた二人を座らせ、居酒屋にいる八割の客が話していた“襲撃”について二人に尋ねる。

 俺は全く知らない話だが、これだけ多くの人が話しているのであれば、話の早いこいつらなら何か知っている可能性が高い。


「襲撃でやすか? 聞いたことがないでさぁね。それって一体なんですぜ?」

「知らねぇから聞いてんだろハゲ。周りの客共が話しているから気になったんだよ」

「あー。私もここでの件については詳しくは知りませんが、グレゼスタに居た頃はちょろっと聞いたことがありますね」

「グレゼスタに居た頃? 襲撃についてをか?」

「ええ。なんでも地方で魔王軍による襲撃が多発しているとかで、王都ではその対応にかなり手こずっているとかなんとか。この話が、今周りのお客さんが話している内容と一致しているのかは分かりませんけど」


 魔王軍……。

 最近は滅多に聞いていなかったが、結構前からそんなことが起きていたのか。


 別に傭兵でもなけりゃ、誰かを助けたいなんて気持ちも更々起きねぇが、この街が襲撃されるとなると少し厄介だな。

 ルインのこともあるし、面倒なことになる前に少し調べてもいいかもしれねぇ。


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