第二百四十五話 大反省会
ダンジョンでの疲れが大きかったからか、俺は『ぽんぽこ亭』に戻ってからそのまま倒れるように眠ってしまった。
昨日ダンジョンを出たのがお昼ぐらいで、今は丁度日が昇り始めた早朝。
半日以上ぶっ続けで寝てしまっていた訳だが、まだ眠気も残っているしダンベル草ポーションの反動もあって、疲れも取り切れていない。
ダンジョン攻略の再開は明日からと決まっているから、このまま二度寝をしてもいいと思うんだけど……。
まともに体を洗っていないから全身がゴワゴワして気持ち悪いし、荷物を放っぽりぱなしのため、少し片づけや身支度を整えようか。
俺は眠い目を擦りながら筋肉痛で激しく痛む体を起こし、荷物の整理から始めていったのだった。
荷物の整理に採取した植物の鑑定と選別。
それから体を綺麗に洗ってから食事を取り、完全回復するために翌日まで爆睡。
ダンジョンから帰還してから、久しぶりに何もしないで一日を過ごしてしまったが、そのお陰もあって翌日には完璧に復調した。
凝り固まった体をほぐしながら朝のルーティンを行い、俺は準備を整えてダンジョンへと向かう。
いつもの集合場所に着くと、既に二人の姿が見えた。
周囲から注目を受けないようにか、二人共顔を隠すように帽子を深くまでかぶっているな。
「お二人共、おはようございます。疲れは取れましたか?」
「バ、バッチリ取れました。も、もう通常通りの攻略が出来ますよ」
「俺も完璧に疲労は取れてますが……。流石に今日は軽く行きましょうか。前回の攻略の反省会をメインでやりたいですし」
「私も疲れはもうない。――それよりルインも顔を隠して。注目されるのめんどい」
アルナさんはそう言うと、黒い帽子を鞄から取り出し手渡してきた。
俺はもう注目されるのは仕方がないことだと割り切っていたが、ダンジョン前に囲まれたら大変だし、少しくらいは気にした方がいいのかもしれない。
受け取った帽子を深くかぶり、周りの目を気にしつつ人目のない場所を通りながら、俺たちはダンジョンへと向かう。
「ほらね、帽子のお陰で誰にも気づかれなかった」
「……本当ですね。正直意味がないのではと思ってましたが、かなり効果的だったようでビックリしてます」
「ミーハーな奴らは顔でしか判断しないから、顔を隠せばなんとかなるもの」
そうドヤるアルナさんを先頭に、快調に攻略を進めていく。
それにしても、こうして楽々とダンジョンを攻略していると、最初に一人であたふたしながら潜っていたことが遠い昔のように感じてくる。
二人のお陰か、それとも少しは強くなれたのか。
後者なら少しは自信がつくんだけども。
もはやボスとも感じなくなってきた双ミノを倒し、無事に今日の目的の階層である十階層へと辿り着いた。
「楽々到着ですね。ほんの少し前まではかなり苦労したイメージなんですが」
「そんなことない。十階層は楽々来れてたでしょ」
「私は双ミノ戦であがってしまって、かなりの戦犯行動をかましましたので……。楽々とは口が裂けても言えないですね」
「ロザリーさんは久しぶりのダンジョン攻略だったみたいですし、あの時は仕方がないですよ」
「ルインのポーションがなければ今も怪しい」
「うぐぐ……。確かにポーションがなければ、今も足を引っ張っていたと思います」
「そのたらればはやめましょう! 実際にポーションがあるわけですしね。それより、ここからどうしますか? 植物を採取してから戻――」
「植物採取しない。帰って『亜楽郷』で反省会」
楽に辿り着けた――という流れで、植物採取に持っていけるかと思ったが、アルナさんに食い気味で却下されてしまった。
確かに、前回採取した植物がまだ『ぽんぽこ亭』にあるけど、このまま帰還するのは勿体ないと感じてしまうんだよな。
「…………どうしても採取しませんか?」
「ん、どうしても。ルインは植物が関わるとおかしくなる」
ここまでバッサリと言われたら、無理に通すのは難しい。
未練はありつつも、当初の目的である反省会をしっかり行うため、着いたばかりの十階層を離れて帰還を目指した。
行き同様に楽々と一階層まで戻ってきた俺達は、ダンジョンを出て一昨日と同じようにアレックスさんに観衆から逃がしてもらい、そのままの足で『亜楽郷』へとやって来ていた。
まだお昼過ぎだし『亜楽郷』は営業時間前なのだが、アルナさんの独断で勝手に中に入ってしまっている。
「勝手に中に入っていいんですかね?」
「大丈夫。それより……周りが本当にウザすぎる」
「一気に知名度が上がったのを肌で感じますね。ダンジョンから帰還するときはモニターで丸見えですし、帽子の変装は無意味でしょうからどうしようもありません」
「それにしても、なんでこんなに人気が出たんですかね? 私が以前攻略していた時は二十三階層まで行きましたけど、全くといっていいほど見向きもされませんでしたよ」
ロザリーさんの言う通り、二十階層到達だけでいうならば大勢の冒険者パーティが達成している。
ただ、三人パーティとなると俺達以外では『青の同盟』さん達だけだし、達成速度だけでいうと、三人パーティなのにも関わらず俺達が最速の攻略パーティらしいのだ。
そしてダンジョン関連だけでなく、アルナさんの容姿が周囲の注目を引き付けているのも大きい。
事実、囲んでくる人の半数はアルナさんのファンらしき人達だからな。
「三人パーティ、最速攻略、新聞の記事。色々な要因が重なって起きたんじゃないですかね?」
「本当めんどう。こういうのがめんどうでダンジョンを敬遠してた」
「そこは割り切るしかないですよ。お金が貯まるまでの辛抱です」
「分かってる。……切り替えて反省会しよ」
アルナさんに促され、本題であるダンジョン攻略の反省会を始めていく。
ダンジョンに泊まったことで感じたこと、長時間の攻略を行う上で気づいたこと、泊まりでの攻略に必需品のアイテム。
それから通常フロアの戦闘での反省点に、ピークガリル戦での反省点。
とにかく色々なことを時間の許す限り話し、三十階層攻略に向けて必要なことを吟味し選別していく。
約三日間にも及ぶ攻略となると感じることが三者三様で、結局『亜楽郷』での反省会は深夜まで続いたのだった。
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