第二百四十四話 予想以上の人気
「やっと入口が見えてきましたね。……ダンジョンで二泊三日。想像以上に大変でした」
「そうですね。私も久しぶりということもあって、精神的に大分キテます」
「ん。この大荷物が大変な原因。それと、ピークガリルもついてなかった」
十階層で食事休憩を取ったあと、全ての荷物を持って攻略を再開した俺達は、ようやくダンジョンの入り口まで戻ってくることが出来た。
俺が考えていた以上にダンジョンの中で過ごすというのは過酷で、徐々に慣らしていかなければ精神がやられてしまうと感じたほど。
夜だと思って寝て、朝だと思って起きてはいたが、時間の感覚はぐちゃぐちゃだし今が何時なのか全く見当もつかない。
「今日は反省会はなしですね。朝なら明日。夜なら明後日から活動を再開して、軽くダンジョンを潜ってから反省会メインでいきましょう」
「了解しました。――やっとふかふかのベッドで眠れるのが嬉しすぎます」
心の底から嬉しそうな声でそう呟いたロザリーさんが、早足で一番最初にダンジョンから冒険者ギルドへと入って行った。
それに続くように俺とアルナさんも中に入ったのだが……冒険者ギルドの中へ入る寸前でロザリーさんが硬直したまま動いていない。
それと同時に何やらザワザワとした声が聞こえ始め、その光景を見た俺は嫌な予感がした。
恐る恐る冒険者ギルドの方を覗き見ると、そこには記者だけでなく大勢の一般の人達も混ざり、俺達を待っているのが見える。
「うわぁ……。ねぇ、ダンジョンに戻る?」
「そうしたい気持ちも山々ですが、流石にそれは無理ですよ。ジーニアさんが言っていた通り、ピークガリルのせいで凄い注目を浴びてしまったみたいですね」
「ピークガリル、良い事なさすぎる」
アルナさんは気怠そうにそう呟き、重い足取りでギルドの方へと目指す。
ロザリーさん一人でも騒ぎになっていたのだが、俺とアルナさんの姿が見えた途端、更にもう一段階周囲の声が大きくなった。
「おいっ、【サンストレルカ】が全員出てきたぞっ!」
「渓谷の攻略見てたぞ! 応援するからなー!」
「【サンストレルカ】さん、取材をさせてください!!」
「アルナさーん! こっち向いてーっ!」
あちらこちらから声援が飛び、耳が痛くなってくるほど。
どうやらトビアスさんに伝えていたパーティ名で呼ばれているし、ダンジョンに潜っている間に俺達の記事が出たのだろう。
前列には様々な記者が手帳を手に待ち構えており、その後ろを大量の一般の人たちが囲っているため、逃げ場がどこにもない。
まさかここまで一気に人気に火がつくとは想定していなかった……。
どうすることも出来ず、俺達三人がその場で立ち尽くし茫然としていると、誰かが奥から人混みを掻き分けて道を空けに動いてくれているのが見えた。
あれは確か……。冒険者ギルド副ギルド長のアレックスさんか?
大量のギルド職員を引き連れ、必死になって道を空けてくれているのが分かる。
ギルド内で騒ぎになっているから治めに来たのか、それともロザリーさんがいるから助けてくれたのか。
どちらにせよ、本当にありがたい行動を取ってくれた。
「みなさん、こちらのスペースを通って一度バックヤードに来てください」
「はい! ありがとうございます!」
流石はほぼ元冒険者で構成されている冒険者ギルドの職員さん達。
押し寄せようとしている人たちを、壁となって完璧に抑え込んでくれている。
俺は歓声を上げてくれている人たちに、ぎこちないながらも対応しつつ、ギルド職員さん達が作ってくれたスペースを通ってバックヤードの中へと退避することに成功した。
冒険者ギルドのバックヤードは防音となっているのか、扉を閉めた途端に先ほどまでの騒ぎがまるでなかったかのような静寂に包まれている。
「ルインさん、どうもお世話になっております。覚えておられるか分かりませんが、私は副ギルド長のアレックスという者です」
「ロザリーさんを斡旋してもらった時に対応して頂きましたので、もちろん覚えていますよ! アレックスさん、今回は助けて頂きありがとうございました」
「いえいえ。騒ぎになるとこちらも大変ですので。……それよりも、まさかこの短期間でここまで名を上げるとは思っておりませんでしたよ。二十階層の到達おめでとうございます」
「私もここまでは想定していませんでしたよ。こちらこそパーティメンバーの斡旋、改めて本当にありがとうございました」
アレックスさんと挨拶を交わしつつ、ロザリーさんを貸し出してくれていることにお礼を伝える。
ロザリーさんを貸し出してくれなければ、今の段階でもダンジョン攻略が出来ていなかった可能性だって大いにあったし、本当に感謝の気持ちは大きい。
「その分、安くはないお金を頂戴していますのでお礼を言われることではありません。むしろロザリーさんのお陰で、冒険者ギルド職員の地位が上がっておりますので、こちらこそありがとうございます」
「こちらこそお礼を言われることではありませんので! ロザリーさんが頑張ってくれているお陰――」
「疲れた」
俺とアレックスさんが謙遜し合い、お互いにお礼の言い合いをしている途中で、アルナさんがドスの効いた声で一言そう呟いた。
お互いに下げた頭を上げ、苦笑いを浮かべながら話しを元に戻す。
「そうですよね、ダンジョン帰りなのに長話をしてしまい申し訳ございません。こちらに職員専用の出口がございますので、ここから帰宅してください。ルインさんとは、また日を改めてお話させてもらえれば嬉しいです」
「是非。私もアレックスさんとは落ち着いてお話がしたいので!」
「それは良かったです。ロザリーさんにもお話がありますので、時間がある時でいいので冒険者ギルドに顔を出してくださいね」
「は、はい!」
「……それでは今日のところはここで帰らせて頂きます。改めて助けて頂きありがとうございました」
アレックスさんが会釈で俺の言葉に返答したのを見て、教えてもらった通路を通って外へと目指す。
帰りは楽で体力的には余裕があったのだが、最後の一件でドンッと疲れがきたな。
これから今日のように囲まれるとなると非常に億劫だが、今はなるべく考えないようにして『ぽんぽこ亭』でゆっくり休むことだけを考えたい。
俺たちは裏口からギルドを出たあと、見つからないように最善の注意を払いつつ無事にダンジョン街を抜け出し、各々解散したのだった。
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