第二百四十三話 ダンジョンでの交流


「あははっ! なに、さっきまでピークガリルに襲われてたんだ! ついてなさすぎるでしょ」

「……やっぱり珍しいことだったんですね」

「もちろん! 私たちは何十回もこの二十階層まで攻略してるけど、一度も出会ったことないからね。ドロップするアイテムは渋いのに、強い上にキャニオンモンキーを引き連れて襲ってくる。不幸以外のなにものでもないよ」


 俺達がピークガリルとの激闘を経て、この二十階層までたどり着いたことを話すと、ジーニアさんにお腹を抱えて笑われた。

 確かに何百分の一の確率を一発目で引き、尚且つボロボロにされているのだから笑ってしまうほどついてないと言えるのだろう。


「やっぱりそうだったんですか。お陰様でかなりボロボロにされましたよ」

「下手したら死んでいただろうから、笑いごとじゃないんだろうけど――あははっ、やっぱ笑っちゃうわ」

「こっちとしては、本当に笑いごとじゃなかったんですけどね」

「聞いた話では二十三階層のボスよりも強いって聞くし、そりゃそうだろうね。地上ではまた君らの話で持ち切りになっているかもよ」

「むむむ……。それはちょっと嫌ですね」


 そんなこんな、俺達のダンジョン攻略のことや、逆にジーニアさん達のダンジョンの情報をかなりの時間話し合った。

 新たな情報については期待はしていなかったけど、映像では分からない冒険者ならではの情報が多々あってかなり良かったと思う。


「それじゃ、俺達は休ませてもらいますね。貴重な情報ありがとうございました」

「こっちこそ話に付き合ってもらってありがとう。私らはもうちょっと休んだら出発するから、ダンジョン内ではもう会わないかもね。地上でも会ったらよろしく頼むよ」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 別れの挨拶を済ませ、片手をひらひら振っているジーニアさんに頭を下げてから、俺たちはテントの中へと戻って行く。

 久しぶりの冒険者さんとの会話だったが、良い人そうで良かった。

 ジーニアさんの言葉通り、ダンジョンを出たあとも何かしらの交流を続けていけたらいいな。


「ふぅー。やっと話が終わった。何かいい情報貰えたの?」


 俺が交流を持てたことに清々しい気持ちになっていると、心底怠そうな声でアルナさんがそう言葉を漏らした。

 会話中も気づいてはいたが、常に退屈そうにしていたからな。

 アルナさんのパーティの募集要項が女性冒険者だったし、女性冒険者となら仲良く接するのかと思っていたが、決してそういうことではないようだ。

 

「まあまあってところですね。俺は記者さんと仲が良いので、知らない情報を貰えるなんてことはそうそうないですから」

「じゃあ無駄だったってことだ。会話を抜けて寝てればよかった」

「無駄ってことはないですよ。こうして寝泊り出来る場所を教えて貰えたんですし、冒険者同士仲良くなって損はないですから。アルナさんも少しは仲良くするようにしてくださいね」

「ふーん。そんなことよりご飯食べてもう寝たい」


 俺の必死の説得も、“そんなこと”の一言で片付けられてしまった。

 アルナさんは、無理にまで仲良くする気はさらさらないようだな。


「あっ、食料は私が持ってます! どうしますか? 料理します?」

「疲れてるしめんどいから、保存食だけでいいでしょ」

「そうですね。俺もこの通り思うように動けないですし、簡単な物だけでいいと思いますよ。調理器具は置いてきてしまいましたし、大した料理も出来ないと思うので」


 こうしてジャーキーと乾パン、それにドライフルーツを頂き、しばしの休憩のあと、俺たちはテントで川の字になって眠る準備を整える。

 狭いテントで隣が女性ということもあり、最初は寝付けるか心配だったが、疲労にダメージもあったためかすぐに泥のように眠れたのだった。



 翌日。

 寝る前に薬草を傷口や痛む箇所に貼っておいたお陰で、普通に動かしても支障がない程度には回復している。


 睡眠の大切さを実感すると共に、寝心地はかなり悪かったためここを拠点として攻略をするのであれば、寝袋は必須だと感じた。

 食事に関しても出来ればしっかりとした物を食べたいところだけど、第一は睡眠の質だろうな。


 そんなことを考えながら、アルナさんとロザリーさんも起こしてまずは朝食。

 それからテントを片付けてから、十階層に戻るためにそれぞれの身支度を整える。


 昨日言っていた通り、隣にあったジーニアさん達のテントは既に片付けられており、もうここを発ってしまったようだ。

 地上に戻ってからまた挨拶出来たらいいなと思いながら、俺達も二十階層を後にした。


 昨日のピークガリルが頭を過り、かなりビクビクしながらの攻略をなったのだが、流石に行きと帰りの両方で出くわすなんてことはなく、スラストバッファローの群れに若干の苦戦は強いられたものの渓谷エリアの攻略に成功。

 そして鬼荒蜘蛛の討伐にも難なく成功し、俺達は無事に十階層まで戻ってくることが出来た。


「無事に到着出来ましたね。魔物が右肩下がりで弱くなっているお陰か、行きよりも大分楽に感じましたよ」

「んー? ピークガリルの差じゃない?」

「確かにピークガリルの差はもちろんあると思いますけど、私も楽に感じましたね!」

「そう? 私は別に変わらなかったけど」

「アルナさんは弓メインですから、体力的にはそう変わらないのかもしれないですね」


 三人でこの十階層までの攻略を振り返りつつ、一昨日寝泊りしたテントに向かって足を進める。

 若干ながら、この十階層に置いてきた荷物を置き引きされていないかが心配だったのだが、何も盗まれておらず一安心。


 ダンジョンモニターにて全てが映し出されているお陰で、犯罪行為の防止となっているみたいだな。

 他のダンジョンでは多数の魔物を引き連れて他の冒険者になすりつける――なんて行為も平気で行われているみたいだし、このダンジョンは最も治安が良いと呼べるらしい。


「採取した薬草も無事です! 食料も残っていますし、とりあえずご飯にしませんか?」

「いいですね。ご飯休憩を取ってから、荷物をまとめて帰りましょうか。本来はここで一泊してから帰る予定でしたが、体力的にすぐ帰還でも大丈夫ですよね?」

「私は大丈夫ですよ。先ほども言った通り、大分楽に攻略出来てましたので!」

「私も大丈夫」

「それじゃ決まりで。まずはみんなでご飯を作りましょうか」


 予定を早めて帰還することに決めた俺たちは、とりあえず休憩も兼ねての食事を取るため、三人で食事の準備を進めるのであった。

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