第二百四十二話 見知らぬ冒険者


「……はぁー、はぁー。なんとか勝てましたね。アルナさんもロザリーさんもお疲れさまでした」

「で、ですね……。あれだけの強さを持つ魔物だったのに、情報がほとんどなかった。正直、死んでいてもおかしくなかったと思います」

「見てなかったけどそんな強かったんだ。……それよりルインは大丈夫なの?」


 会話はしつつも、両手両ひざを地面に着いたまま動かない俺をみて、心配そうに声を掛けてくれたアルナさん。

 頬の傷からの出血で顔の下の地面は真っ赤に染まっているし、膝もびしょびしょに濡れているのが分かるほど血が出ている。


 そして何より、ストレングスポーションの反動で体がこの状態から少しも動かすことができない。

 キャニオンモンキーを殲滅するまで体が動かせていたのが奇跡で、お世辞にも大丈夫とは言えない状態だ。


「……大丈夫ではないですね。出血でくらくらしているのと、筋肉痛でこの状態から少しも動けないです。申し訳ないですが、俺のホルダーに入ってるポーションを体にふりかけてくれませんか?」

「ん」


 短く返事をしたアルナさんがポーションをかけてくれたことにより、傷口がある程度塞がり痛みはかなり引いた。

 ただ筋肉痛はどうしようもなく、ロザリーさんに肩を貸してもらいながら、俺たちは魔物のいなくなった十九階層を抜けて二十階層へと下りたのだった。


 

 セーフエリアとなる二十階層は吹き抜けの洞窟のようになっていて、かなり暗いが十階層同様に魔物は湧かない様子。

 更にいくつものテントが置かれており、複数のパーティの姿も見えた。


 映像で見ていたから分かるが、二十階層だとまだまだ冒険者の数はかなり多いな。

 三十階層となると到達する冒険者の数が一気に減るのだが、到達出来れば中堅冒険者の仲間入りと呼ばれるだけあり、見た感じは十階層とテントの数自体は大差ない。


「予想以上に空いているスペースがないですね」

「吹き抜けているところのギリギリに建てますか? 滑り落ちたら大変なのと風がかなり気になりますけど、ぎゅうぎゅう詰めのところに建てるよりかはマシだと思いますよ」

「そうしましょうか。ロザリーさんがそういうなら間違いなさそうですもんね」

 

 そんなことを話しながら、俺たちはぽっかりとスぺースが出来ている吹き抜け近くへ向かおうとしたところ、急に後ろから誰かに声を掛けられた。


「ねぇ、君たち最近話題になってるパーティだよね?」


 振り向いて声を掛けてきた人物を確認したのだが、全く見覚えのない女性冒険者。

 切れ長の目にショートカットの黒髪。所々金髪のメッシュが入っており、お洒落にも気にしているのが分かる。

 それに装備もちゃんとしているし、この二十階層にいるということは名の立つ冒険者の可能性もあるんだけど……申し訳ないがこの人が誰なのかは全く分からない。


「え、えーと、どうなんですかね……? 私たちが最近話題になっているパーティなのかは分からないです」

「えっ? だって見た感じ三人パーティでしょ? 少年がリーダーで、メンバーに兎人と冒険者ギルド職員のバッジをつけてる二人ってのも一致してるし」

「あー、じゃあ、多分そうかもしれません。声を掛けられるほど有名になっている自覚はなかったので……」

「やっぱそうだったんだ! 期待の超新星って冒険者界隈でもかなり話題になってるよ。……ねぇ、あの吹き抜け近くにテントを建てようとしてたってことは、この階層で休む予定なんでしょ? 私らの隣を空けてあげるから来ない?」


 いきなりの提案にどう返事をするか迷う。

 ただ、スペースを空けてくれるなら願ってもない提案だよな。


 アルナさんは非常に面倒臭そうな表情をしているが、他の冒険者パーティとの絡みはランダウストでは一切なかったし、情報を集めるという観点から見ても仲良くなっておくのは悪いことではない気がする。


「いいんですか? 空けてくださるなら、是非そこを使わせてもらいたいんですけど」

「いいよいいよ。隣を使ってたパーティはさっき三十階層を目指していったからね。――でもその代わり、色々と話をさせてほしいんだ」

「もちろんです。こちらもダンジョンのこととかを聞かせてほしいので」

「了解、交渉成立だね。私はジーニア、他のパーティメンバーを紹介するからついてきて」


 テンション高めに歩きだしたジーニアさんの後を進み、空けてくれるという場所までついていった。

 辿りついたのは二十一階層へと続く階段付近で、確かにジーニアさん達が使っているであろうテントの隣は人の気配がしていない。


「おーい、ちょっと出てきて。紹介したい人たちいるから」

「ん? 紹介したい人? お前、水を貰いに行ったんじゃねぇのか?」

「むー。今、いいところだから後にしてほしいところダワ」

「いいから早く出て」


 ジーニアさんに再び催促されたことで、テントの中にいたパーティメンバーが渋々と外に出てきた。

 最初に出てきたのは片目が髪で隠れたポニーテールのような髪型の男性で、二人目はポルタを彷彿とさせるような小柄で真ん丸ヘアーの男性。

 そして最後に出てきたのは、タンクトップでムキムキの巨漢なのだが原型が分からないほど濃い化粧をしている男性だった。


「これが私のパーティメンバー。デビットにテイマー、そしてリチャード」

「あら、やぁだ! リチャードじゃなくてリアって紹介してヨ」


 リチャード……いや、リアさんの強烈なキャラクターに思わず口をあんぐりと開けて呆けてしまう。

 見続けたら失礼だと必死に視線を逸らそうとするが、どうしても視線がリアさんに向く。


「あー、誰かと思ったら三人パーティで攻略してるっていう話題のパーティか。んだよ、もう二十階層まで到達したのか。糞早いな」

「なるほど。ジーニアさんが有名人を見つけて連れてきたってことですか。隣のテントを貸してあげるって条件でしょうか?」

「流石テイマーは察しがいいね。とりあえずそういうことだから、隣のテントを貸してあげることになった。てことで、三人はもう中に戻っていいよ」


 ジーニアさんの許可を出たことで、三人は再びテントの中に戻って行ったのだが、俺は姿が見えなくなるまでリアさんを見続けてしまった。

 どうやらアルナさんもロザリーさんも見ていたようで、呆けている俺達三人を見てジーニアさんがクスクスと笑っている。


「やっぱりリアが気になるよね。見た目は変だけど、見た目ほど変な奴じゃないから気にしないで大丈夫だから」

「す、すいません。ジロジロ見てしまって」

「リアは自分が見られるためにあの格好をしてるから、きっと本望よ。それより隣のテントを使っていいから、傷の手当てとかが終わったらまた出てきて」

「分かりました。ありがたく使わせてもらいます!」


 そんなジーニアさんのお言葉に甘え、俺たちは空きテントの中に入り、ここを拠点とさせてもらった。

 テントを張る手間がなくなったし体が思うように動かせない現状、かなりありがたい提案をしてもらえたな。

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