第二百三十七話 久しぶりの植物接種


「す、すいません。私が紹介したばかりに……」

「気にしないでください。パンケーキは非常に美味しかったですし、記者さんにはたまたま鉢合わせになっただけですから」

「そうそう。初対面なのに失礼なあの記者が悪い」


 『ダンジョンペンデント』社を後にし、申し訳なさそうにしているロザリーさんを二人で慰める。

 今までは何の弊害もなく食べられていたのだろうし、三人で行ったせいで顔が割れてしまうなんてロザリーさんも予想していなかったのだろう。


「で、ですが、有名になってきたのに考慮をせず、パーティメンバーが全員揃った状態で新聞社を紹介したのは私の落ち度です」

「そんなことないですよ。アルナさんのお陰ですぐに抜け出せましたし、何も気にしていませんから。良いお店を紹介して頂き、ありがとうございました」

「そうそう、気にしない。……それで、次はルイン?」

「そうですね。二人のおすすめのお店が良いお店だっただけに、トリでの紹介は少ししづらいですが……俺もおそらく穴場であろう場所を紹介できると思います」


 切り替えテンションを上げてから、最後に俺のおすすめのお店の紹介へと移る。

 最初は無難に『グリーンフォミュ』を紹介しようと思っていたんだけど、二人とも確実に知っているだろうから別のお店を紹介することに途中から決めていた。


 お店紹介として、俺が向かった先は商人ギルド。

 こちらもメインストリートの一等地にある、『ダンジョンペンデント』社に負けず劣らずの建物だ。


「こ、ここって商人ギルドでしょうか? ルインさん、訪れたことあるんですか?」

「ええ。とある物をここで直接取り引きして貰っているんで、副ギルド長さんとは顔見知りなんです」

「す、凄いですね。しょ、商人ギルドは珍しい商品を売買してるって話ですが、特定の人や商人じゃないと取り引きして貰えないんですよ?」

「ん。私も行ったことない」

「やっぱりそうなんですね。俺は本当に偶然知り合えたので、幸運だったんだと思います」


 そんなことを話しながら商人ギルドに入った俺達は、副ギルド長のポールさんに二人を紹介しつつ、珍しい商品を色々と紹介してもらった。

 冒険者ギルド並みに有名な職業ギルドだが、取り引きをするとなると話は別のようで、今日一番の興奮した様子で二人は商品の説明を聞いていた。


 俺もグルタミン草の買取しかしてもらったことがなく、珍しい商品の紹介は非常に楽しめたのだが、珍しい物ということもあり金額が金額なだけに手が出せなかったのが残念だったな。

 ……ただ、二人に商人ギルドを紹介できたのは良かったと思う。

 このまま冒険者パーティとして名を上げ、お金をたくさん手に入れたらまた三人で買いに行きたいところだ。


「中々面白かった。また来たい」

「そ、そうですね。見たことのない物ばかりで楽しかったです。ル、ルインさん、ご紹介ありがとうございました」

「いえいえ。楽しんでくれたのなら良かったです。お二人も穴場のお店紹介ありがとうございました」


 商人ギルドを出て、噴水前広場へと戻ってきた俺達は各々感謝の言葉を伝える。

 グレゼスタの時も思ったが、やっぱりみんなと買い物をするのは楽しいな。

 買い出しだけでなく息抜きにもなったし、明日からの攻略に向けて良い休暇になったと思う。


「それじゃ明日だね」

「そうですね。明日からの攻略は初めての泊まりとなりますので、今日はゆっくりと体を休めて万全な状態で迎えれるようにしましょう」

「は、はい。ルインさんにアルナさん。きょ、今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

「ん。よろしく」


 話しもほどほどに、明日の攻略に備えてすぐに解散の運びとなった。

 今日という一日を満喫したし、この満たされた気分のまま寝て明日に備えたいところだが……。


 日はまだ落ちておらず、時間にはまだ余裕がある。

 ダンジョン攻略に向けて自分の力を底上げするためにも、予定していた植物接種を行おうか。



 二人の背中を見送ってから、『ぽんぽこ亭』へと戻ってきた俺は、早速昨日買っておいた食料と共に準備を開始する。

 ダンジョン攻略後にちょこちょこと生成し、貯めておいた魔力草とダンベル草を取り出してテーブルの上へと置いた。


 この二種類の植物を見ただけで体が拒絶反応を示しているが、気合いを入れ直して粘着草を生成すると、練り合わせて小さな団子状にしていく。

 ポーションに出来ればよかったのだが、ポーションにする時間の余裕もないし、そもそも苦味を除去する『エルフの涙』式のポーション生成は、旧式の醸造台では出来ないからな。

 苦味を堪えて食べていくしかない。

 

「…………いただきます」


 ある程度の量のダンベル草と魔力草を小さな団子にして、テーブルいっぱいになったところで食前の挨拶と共に接種を始める。

 まずはミルクで口と胃の中に粘膜を作ってから、味わわないように水と共にダンベル団子を流し込んだ。


「……にがっ――くない?」


 脳内では強烈な苦味を思い浮かべていたのだが、あっさりと飲み込めたため苦味は襲ってきていない。

 それから更に数粒のダンベル団子を流し込んでいったのだが、むせ返るような苦味が気体となって胃から吐き出されはするものの、以前のような悶絶するような苦味は今のところは感じない。


 これならいけると判断とした俺は、ペースを更に上げて作った三本分のダンベル草を一気に接種することに成功した。

 この方法の難点として分かったことは、飲み込むのに少しでも手間取ると苦味が口に含んだ水に移り口内全体に苦味が広がってしまうことと、三本分だったが細かくした分それなりの水を飲まなくてはいけなかったこと。


 ……ただ、この接種方法なら以前までのような地獄の苦しみを味わうことなく、素の状態でもダンベル草も魔力草も食べることが出来ると思う。

 明日、ダンジョン内で腹痛を引き起こすのが怖いため、今日はほどほどにして止めるが、カレーに続いて新たな接種の方法を発見することが出来た。


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