第二百三十四話 野菜専門店
「一軒目で大分揃いましたね。質も良く値段も安くて品揃えも豊富な良いお店でしたよ」
「む、昔からお世話になっているお店なので、そう言って貰えてよかったです」
「ん。良い物買えた」
「……アルナさんは、自分専用の道具ばかり買い揃えてましたよね? 今日の一番の目的分かってます?」
「分かってる。ダンジョンでの野宿に必要なものを買うでしょ?」
そうドヤ顔で言ってきたが……分かってるなら、少しは手伝う意志を見せてほしかったところ。
まぁアルナさんが強くなることで、ダンジョン攻略が捗るのは間違いないんだけどね。
「合ってますけど、なら少しは手伝ってくれても――」
「まあまあ。た、楽しく行きましょうよ。ア、アルナさんも手袋は人数分買ってくれてましたもんね」
「ん、これ? 三枚とも全部私の」
ロザリーさんのフォローも一瞬にして無下にするそんな言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
ロザリーさんは苦笑いを浮かべているが、そんな表情にもなるだろう。
「……まぁ、ぐちぐち言ってても仕方ないですね。ロザリーさんの言う通り、楽しくいきましょうか。ただ、アルナさんには食材選びを全てやってもらいますからね」
「ぜ、全部ですか? だ、大丈夫ですかね?」
「多分大丈夫ですよ! アルナさんは『亜楽郷』で厨房を任されていましたので、料理は出来るはずですから」
「ん。期待してくれていい」
こうしてこちらから役割をつけたところで、残り少ない野宿用のアイテムの買い出しに向かう。
まずは食材の購入からで、正直な話アルナさんに一任するのは俺も怖かったが、そんな不安はいい方向に外れてくれ、手際のいい手付きでどんどんと食材を購入していった。
『亜楽郷』でも買い出しをさせられていたようで、お店の人とも会話をするくらいには仲が良かったお陰か、大分まけてもらい金額も予想額を大きく抑えることができた。
「ね。私に任せてと言ったでしょ」
「流石アルナさんです。やるときはやりますね」
素直にアルナさんを褒めると、耳をピンと立てて嬉しそうにしている。
最近は表情の変化も前よりも出ているが、やはり耳で判断するのが一番分かりやすい。
「こ、これでダンジョンの準備は大方整いましたかね? か、買い忘れもないと思うんですけど……」
「そうですね。必需品は確実に買ってますし大丈夫だと思います。今回のは試験も兼ねていますし、もし攻略中に何か足らないと感じたら次では忘れないようにする――ぐらいの心持ちで行きましょう」
「ん。長くて三日間だし、足らなくてもなんとかなる」
こうしてダンジョン攻略のための買い出しを終えた俺たちは、一度荷物を置くため別れ、すぐに再集合する運びとなった。
食材は自宅に大きめの冷蔵庫があるというロザリーさん。
細かな道具や食器、調理器具などはアルナさん。
そして俺は、寝袋やシート等の大きめの荷物を担当し、それぞれ寝泊まりしている場所へと戻ったのだった。
『ぽんぽこ亭』に荷物を置き終えた俺は、再び噴水前へと向かう。
大荷物で運ぶのに時間がかかってしまったということもあり、今回は俺が一番最後に到着のようだ。
「よし。これでバッチリですね! これからどうしますか? 言っていた通り、みなさんオススメのお店を巡りたいとは思ってるんですけど」
「んー。それよりまずご飯。お腹すいた」
「た、確かにもうお昼の良い時間ですもんね」
「それならまずはご飯から行きましょうか。午後の予定はご飯を食べながら決めましょう」
再集合し、すぐにお昼ご飯を食べることに決めた俺たちは、アルナさんオススメのご飯屋さんに行くことに決まった。
どうやらロザリーさんも知っているお店のようで、二人で盛り上がっているのを一歩引いて眺める。
二人が先導し、着いたお店はお洒落なカフェのようなところ。
店内はお客さんも店員さんも女性ばかりで、俺一人ならば絶対来れないような雰囲気のお店だ。
「ここ。美味しい」
「ずっと来たかったんですよ! まさか来れるとは思わなかったです!」
「凄い雰囲気の良いお店ですね。何のお店なんですか?」
「野菜専門店。スムージーが特に美味しい」
野菜専門店……。
これは色々な意味で凄いな。
グレゼスタで働く前は本当にお金がなく、野草ばかりを口にしていたため、俺は元々野菜自体があまり好きではない。
それに加えて、魔力草やダンベル草の件もあるし、自分から好んで野菜を食べたいとは思わないんだけど……まぁこれもいい機会だよな。
「へー、野菜専門店って凄いですね。普段はあんまり食べないんですけど、ちょっと楽しみです」
「楽しみにしててほしい。驚くと思う」
「早く中に入れないかな!」
ちょっとした列を並んで待ち、順番が回ってきたため中へと入る。
俺はお店の雰囲気に飲まれ、ドギマギしながらも店員さんに案内されたテーブルへと座り、お水をちびちびと飲む。
「今日は何食べようかな。……おすすめAランチでいいか」
「私は日替わりランチにします! あとグリーンスムージーも飲みたいですね!」
「私も飲む」
二人はメニューも見ずに決めたようで、何にするのか尋ねるように俺の方を見ている。
俺もすぐに決めようとメニューを見たのだが、ランチセットだけでも六つあり、どれがいいのかさっぱり分からない。
「……俺もアルナさんと同じのにします」
悩んだ挙句、結局決まらずにアルナさんに便乗。
訪れたことのあるアルナさんに合わせるのが、一番無難なはずだ。
「ルインもおすすめAランチね。スムージーは?」
そう問われ、再びメニューを開いて確認する。
グリーンスムージーにカラースムージーにココスムージー。
どうやら三種類あるようだが、なんとなくだけど一番美味しそうなのはカラースムージーかな。
「カラースムージーを頂きます」
「了解。早速頼む」
手際よく店員さんを呼んだアルナさんが、全員分の注文をしていく。
その間も俺はメニューを見ていたのだが、何やらから揚げやハンバーグなどのお肉料理も書かれていた。
野菜専門店ということらしいし、恐らくこれらも野菜のみで作られていたりするのだろうか。
ちょっと食べてみたい気分になったが、もう頼んでしまったし大人しく待つことに決める。
注文から待つこと約二十分。
料理が完成したようで、俺たちの前へと置かれていく。
まずはロザリーさんの頼んだ日替わり定食が届いたのだが……めちゃくちゃ美味しそうだ。
玄米のご飯に例の唐揚げ、野菜の天ぷらにシチュー。
それから彩り鮮やかに盛り付けられたサラダと、薄く切られたパンが添えられている。
野菜専門店と聞いたときは、サラダのフルコースでも出てくるのではと思ったけど、この定食を見る限りは野菜しか使われていないと思えないほどしっかりとした定食。
続いて、俺とアルナさんが頼んだオススメAランチが届いた。
先ほどと同じようにプレートに盛り付けられていて、こちらは玄米ではなくふわふわのパン。
更にコロッケに豆をペースト状にした料理。
それからアボカドの真ん中にキノコの炒め物が添えられた料理に、彩鮮やかなサラダがついていた。
漂ってくる美味しそうな香りに食欲がそそられる。
「じゃ、食べよう」
「「いただきます」」
食前の掛け声とともに、まずはコロッケから頂く。
外はカリッと、中はホクホクでジャガイモの味が抜群に引き立っている。
衣からはココナッツの香りがしているため、ココナッツオイルで揚げられているようだ。
続いて、豆をペースト状にした少し怪しげな料理を手に取る。
アルナさんの食べ方を見る限り、こちらの料理はパンやサラダにディップして食べるものらしい。
早速真似をして、パンにつけてから口へと運ぶ。
……うまいっ! 豆の美味しさにレモンの香りがついていて、これはパンがすすむ。
未体験の新しい味に驚きと楽しさを感じつつ、俺はぺろりと定食を平らげたのだった。
非常に美味しく、また食べたい味だったが……。
これは相当な料理の腕が求められるだろうし、自力で作るのは無理だろうなぁ。
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