第二百三十二話 ‟襲撃”の取材



「その、襲撃された街ってランダウストの近くなんですか?」

「んー。間に三つの村があるから距離的には大分あるな。ただ、大きな街という意味では、そこから一番近い街はランダウストだから安心できねぇって感じだ」


 俺はトビアスさんに、取材の件についてを質問する。

 まだ詳しいことまではトビアスさんも分かっていないようだが、“街が襲撃された”という言葉を聞いてしまうと、やはりセイコルの街でのことが頭を過ってしまう。


「なるほど。それで襲撃した魔物というのはどこに行ったのでしょうか?」

「それがな、何処にも見当たらないって話なんだ。今日襲撃された街にいたという人から話を聞いたが、襲ってきたのは魔物の大群だったと言っていたんだけどな」

「大群、ですか。……魔王軍ですかね?」

「さあな。俺もまだ本当にちょっとしか情報を集められていない。……まぁ仮に魔王軍だったとしても、ランダウストには魔王軍なんかよりも化け物みてぇな冒険者がうじゃうじゃいるから心配ないだろう」


 ……確かにそれもそうか。

 ダンジョンがあるお陰で、このランダウストには冒険者が数えられないほどいる。


 冒険者の内の大半は七階層以下でとどまる冒険者ではあるけど、それでも普通の兵士と同等以上の力を持っているからな。

 それに、ダンジョンに潜る冒険者だけじゃなく、他の街にいるような普通の冒険者も当たり前だが存在する。

 下手すれば王国の中心である王都よりも、このランダウストは強固な守りを誇っている可能性だってあると俺は思う。


「それもそうですね。魔王軍が襲ってきたとしても、ランダウストにいれば心配する必要は皆無ですね」


 そこで“襲撃”についての話は一区切りとなり、トビアスさんは一度二階のオフィスへと戻っていった。

 一度、昼休憩を兼ねて取材内容をまとめた後、‟襲撃”についてもう一度取材へと向かうようで、俺への取材は夕方頃にお願いされた。


 俺も粘着爆弾は完成させることができたが、まだ作りたいポーションが山ほどあるしここに残るため、もちろん了承。

 アイテム製作も楽しいが、やっぱり植物を一番活かすことの出来るポーション生成が群を抜いて楽しい。

 これからダンジョンの道中とかで考えていたポーションのレシピを、片っ端から試していこうと思う。


 

 アイテム製作からポーション生成に切り替えてから、かなりの時間が経過した。

 ふと気が付けば、辺りはすっかり橙色に染まっていた。


 作成したポーションは約二十本。

 ただ、どれも思いつきで作った新作のため、効能的に実用性があるのは三本だけ。


 もう少し煮詰めれば使えるようになるというポーションもあるため、まだまだポーション製作に当たりたいところだが……。

 トビアスさんも戻ってきそうな時間だし、ここらへんで切り上げてすぐに話が出来るように片付けておこう。

 

 そうと決まればすぐに掃除用具を取り出し、醸造台を綺麗に拭き取って器具もしっかりと洗ってから片付けていく。

 そして生成したポーションは、一本一本大事に布で包んでいき、割れないように丁寧に鞄の中へと入れた。


 こうして一通りの片づけが終わり一息ついていると、タイミング良く戻ってきたトビアスさんの姿が見えた。

 

「すまねぇ。待たせちまったか?」

「いえ。ついさっき片付けが終わったので、丁度良かったですよ」

「そうか。なら良かったぜ! 取材なんだが二階でも大丈夫か? 本当は喫茶店にでも行って、飲み物や軽食を挟みながらやりたいところなんだが……。ルインが有名になってきちまってるからな」

「もちろん大丈夫ですよ。俺はここで取材を受けるつもり満々でしたし」

「そうか、悪いな。じゃあ二階へ行くか」


 それから約二時間ほど、雑談を挟みながらトビアスさんの取材を受けた。

 取材といっても基本的に記事の確認だけで、取材らしい取材はなく雑談メイン。


 記事の内容を確認したのだが、俺が読んでも面白く書かれており、照れくささもありつつ完成度の高い記事に嬉しくもなった。

 考えたパーティ名もトビアスさんには好評で問題ないみたいだし、これでとりあえず今回出る新聞についての取材は全て終わりのようだ。


「いやぁ、本当に助かったぜ! これで後は記事を完成させて、特集号として発売するだけだ。色々と手間取らせちまったな」

「いえいえ。トビアスさんにはたくさんお世話になりましたからね。それに約束もしてましたから何も問題ないです!」


 こうしてトビアスさんとの取材を終えた俺は、別れの挨拶をしてから今日一日中いた『ラウダンジョン社』を後にした。



 ――んぐーーっ!

 外に出て一つ大きく伸びをし、体の凝りをほぐしたところでこれからの行動を考える。


 正直もう少し取材が長引くと考えていたから、この後の予定を全く考えていなかったんだけど、『ぽんぽこ亭』の夜ご飯までちょっとだけ時間が余っているのだ。

 『グリーンフォミュ』に行ってもいいし、ダンジョンモニターに行ってもいい。


 ただ、攻略において変な意識をしないように、【青の同盟】さん達の動向は追わないようにしているからなぁ……。

 俺は悩んだ末に、明日のための買い出しを行うことに決めた。


 買い出しといっても、もちろん野宿に必要なものではなく、明日の植物パーティのためのもの。

 地獄が待ち受けているのは目に見えているため、苦味を緩和させる食べ物と、魔力草と一緒に食べるためのカレー用スパイスをたくさん買わないといけないからな。


 そうと決まれば、一度今日作ったポーションを置きに『ぽんぽこ亭』へと帰り、その際にルースとルースのお母さんにおすすめのお店と食材を聞いてこよう。

 魔力草の味を鮮明に思い出したことで、ゴロゴロと不吉に鳴るお腹を摩りながら、俺は『ぽんぽこ亭』へと戻ったのだった。

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