第二百三十話 休日の予定


 初めての渓谷エリア攻略から、三日が経過した。

 結論から言うと、本日ようやく十七階層の攻略に成功。

 ただ、時間的な兼ね合いで十八階層の攻略は強制的に断念することになってしまった。


 それでも渓谷エリアの魔物との戦闘には大分慣れ、攻撃を受けること自体を減らせてきている上に、十七階層の攻略を二時間強ほどで出来ている。

 攻略が朝から夜までかかり考える時間が本当にないため、現状は対策らしい対策を立てることすら出来ていないのだが、このまま二十階層到達を目標にさえすれば到達できるビジョンが見えてきた。


「今日は良かったんじゃないでしょうか。今日のように進められるのなら、大量の食料等の荷物を持ち込んでの攻略が出来ると思いますよ」

「で、ですね。三人ですので、い、一度に持ち運べるのは五日分ほど。長持ちする非常食にして往復すれば、じゅ、十五日分くらいは置き溜めできると思います」

「十五日分の食料を二十階層にストック出来れば、三十階層も目指せますよ!」


 恒例となってきた『亜楽郷』での反省会にて、俺とロザリーさんでキャッキャッと喜び合う。

 これが十階層で休憩を挟まなければならない状態だったら、恐らく一度に運び込める食料等は二日分、【プラントマスター】で野菜を生成したとしても三日分だったはず。

 そう考えれば、こうして希望が見えたのはかなり嬉しい出来事だ。


「んー。どうだろ。十八階層と十九階層も実際に攻略してみないと分からない」

「まぁそうですが、希望は見えたんじゃないでしょうか?」

「荷物を抱えて攻略しなきゃいけないのは不安。後衛が七割、前衛が三割負担だとしても、攻略スピードはかなり落ちるはず」


 肘をついて顎を手に乗せ、豆とお肉を特製ソースで和えた『亜楽郷』の裏メニューをモグモグと食べながら、アルナさんがそう提言してきた。

 ……一見、大雑把な性格に見えるアルナさんだが、初対面で実力試しをした際の分析から分かる通り、かなりの理論派なのだ。


 正直、俺も荷物を抱えての攻略が不安だったため、まずは軽装で二十階層の攻略を目指していたのだが……。

 流石に一日での二十階層攻略は現実的ではないと、判断してしまっている。


「それはそうですが、多少の無茶をすれば体力を使い切る前に二十階層に到着できると俺は思ってます」

「見通しが甘い。どちらにしても十階層で休憩を取って、一回は二十階層まで辿り着くのが先」

「…………むむむ」


 ごもっともな意見に何も言葉を返すことが出来ない。

 …………ふぅ。俺の攻略速度を優先してしまっている今の思考は少し危ないな。


「……確かにそうですね。明日からの二日間休みが明けましたら、二十階層を目指す――で大丈夫でしょうか?」

「は、はい。それが一番安全策だと思います。わ、私は一度攻略してますのでジェイドさんと同じくいける派ですが、い、一回見てみた方が安全なのは間違いないですからね」


 ロザリーさんも同意をしたところで、休憩を挟んででも二十階層攻略を目指すことが正式に決まった。

 攻略速度から考えて、ノンストップで二十階層まではいけると踏んでいただけに、手痛い停滞だがダンジョンで無茶をしていいことは一つもない。


 現状、まだ一度も命の危険には晒されていないが、ダンジョンでは一瞬の油断が命取りとなるし、実際にあっさりと命を落としている人も見たことがある。

 四十階層まで到達できる実力を兼ね備えているのにも関わらず、一戦で全員が殺されてしまった【銀の風鈴】の例もあるし、本当に油断してはならない。


「それじゃ決まりですね。攻略の日程は初日が十階層。二日目で二十階層を攻略し、十階層まで帰還。三日目でダンジョンから帰還――的な感じで大丈夫ですかね?」

「ん。異論なし」

「わ、私もそれでいいと思います。しょ、初日は時間を持て余すと思いますが、十階層は幸いにも植物の採取が出来ますからね。じゅ、十階層到達と植物採取でいいと思います」

「おおっ! 植物採取いいですね!!」

「植物採取で喜ぶ……。変人」


 アルナさんにボソッと毒を吐かれたが、何も問題なし。

 植物採取は本当に楽しみだ。


 本当は渓谷エリアで鉱石採取もしてみたかったんだけど、鉱石は重量があり荷物もかさばる上に崖際にしか鉱脈がないからな。

 オリジナルの武器や防具は憧れがあるし、いつかは入手したいところだけどね。


「それでは日程も決まりましたし、明日明後日で手分けして攻略の買い出しをしましょう。何が必要か上げていってくださったらありがたいです。あっ、それと……以前聞いていたこのパーティの名前ですが、いい名前が思いついていましたら提案して頂けたらありがたいです」



 明日が休みということもあり、あまり時間を気にせずに行った反省会は深夜まで行われた。

 買い出しについては明後日みんなで集まり、手分けして買うこととなった。


 予定としては、明日は『ラウダンジョン社』で植物の効能を見直しつつポーションの生成に励み、トビアスさんの取材に協力。

 明後日はアルナさん、ロザリーさんと買い出しを行い、時間が余ったら久しぶりに魔力草とダンベル草の大量摂取をしたいと思っている。


 【青の同盟】さん達、【鉄の歯車】のみんなともそうだったが、集まって買い出しに行くことに非常にワクワクしている。

 トビアスさんから情報は頂いているけど、ランダウストに詳しい訳ではないし、それぞれのオススメのお店とかも回れたらいいな。


 予定いっぱいの休日に、ダンジョン攻略とはまた違ったワクワク感を感じながら、俺は肌寒く静かな深夜の街を早足で帰宅したのだった。

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