第二百二十六話 渓谷エリアの攻略
取材を受けた翌日。
今日からは渓谷エリアの攻略を目指して動くことになる。
これまでの攻略内容から考えれば、さほど苦労しないように思えてしまうんだけど、昨日の一切の苦労のしなかった攻略ですら、朝一で潜って帰還したのは夕方。
往復することを考えると、どうしても時間が厳しくなってきてしまうのだ。
スムーズに攻略できているのかどうかすら、ダンジョン内では時間が分からないため感覚頼りになってしまうし、帰還してみたら一夜明けて日が昇っていた……なんてことも十分にあり得るからなぁ。
集中力の低下にも繋がるし、生活リズムも崩れてしまうため、できる限り日は跨がないようにはしたいところ。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
「おはようございます! よろしくお願い致します」
おっ。事前に渡しているポーションを飲んでいるからか、今日は朝にも関わらずどもっていない。
「おはよう。今日は20階層目標?」
「そうですね。ただ、渓谷エリアからは攻略難度がグッと上がるようですので、焦らずに攻略していきたいと思ってますよ」
「20階層まで到着してしまえば、それこそどうにでもなるんですけどね! ……渓谷は本当に厄介なんですよ」
苦虫を噛み潰すような表情で、そう言葉を吐き出したロザリーさん。
表情から察するに、相当なトラウマがあるように感じてしまう。
ちなみにロザリーさんの最高到達階層は二十三階層。
渓谷エリアのボス階層で攻略が止まっていることから、渓谷エリア自体は攻略できているはずなんだけどな。
「映像や情報を調べる限り、そうみたいですね。とりあえずロザリーさんの教え通り、持っていた方がいいアイテムは購入しておきました。十六階層前で渡しますので、時間内に辿り着けるようにスムーズな攻略を目指しましょう」
俺はそう声をかけてから、先頭を歩いてダンジョンへと向かっていく。
そんなダンジョンに向かう道中、朝一だったのにも関わらず一般の人から声援を受け、俺とロザリーさんは声援に会釈をしながらその声援に答えた。
こういう些細な場面でも、鬼荒蜘蛛突破の影響をひしひしと感じる。
とあるダンジョン新聞の一面にもなっていたみたいだし、これから更に注目を集めることになってしまいそうだ。
「…………ふぅー」
「注目されるの嫌い?」
ダンジョンに入り、視線がなくなったところで深いため息をついたところ、そのことに気が付いたアルナさんが話しかけてきた。
「『好きではない』ですかね。今まで注目なんてされたことがなかったので、慣れてないんですよ。アルナさんは得意なほうなんですか?」
「んー。しつこく話しかけてこなければ無視するし、あんま気にしない」
「流石、アルナさんって感じですね」
「本当ですね。私もポーションのお陰でなんとかなってますけど、変な汗は止まらないです」
ロザリーさんが俺に同調するように、そう言葉を発した。
十階層でフォーカス草を見つけていなかったら、観衆の対応で相当苦労してただろうな。
「観衆についてはダンジョンモニターがある限り避けられませんので、あまり考えすぎずに攻略に集中しましょうか」
そう締めて、気合いを入れ直した俺たちは、渓谷エリアを目指して攻略を始めた。
「【パワーアロー】」
「【シールドクラッシュ】 アルナさん決めてくださいっ!」
「【ツインアロー】 ロザリーないす」
ロザリーさんとアルナさんのコンビネーションが完璧に決まり、倒れた鬼荒蜘蛛が灰となって消えていく。
俺たちなりの鬼荒蜘蛛の倒し方を確立したこともあり、今回は陣形を変えずに戦ったのだが、初戦同様に楽々討伐することに成功した。
「お二人共、流石でした」
「ルインも良いサポートだった。練度がまだまだ上がってる」
「ありがとうございます。何か不満点ありましたらすぐに言ってくださいね。改善しますから」
アルナさんに褒められるとやはり嬉しい。
口数が少ないだけに、あまり褒められることがないからな。
ただ、まだまだミスも多いし、判断も遅い場面がいくつかある。
俺自身は現状で満足していないし、もっと練度を上げていきたいところ。
「あの、ジェイドさんの突き方をちょっと真似してみたんですけどいいですね! 動作が小さいのに、こう体重を上手く乗せられるというか……」
「ロザリーさん、やっぱり試してましたよね。上手く力を乗せられていましたよ。鬼荒蜘蛛にも効いていましたし」
ロザリーさんがなんとなく俺の真似をしていると思ってたけど、やっぱりそうだったようだ。
突きの方法も模倣していたみたいだし、真似されたのはちょっと嬉しい。
「ジェイドさんに比べて、まだ動作も大きいですし威力も弱いですが、既に十分に使えるレベルだったんでもっと質を高めたいと思います!」
「是非使えるようにしてください。後ろから見ていて気になった箇所があれば教えますね」
鬼荒蜘蛛戦を軽く振り返ったところで、いよいよ渓谷エリアへと進む。
ここまでの攻略時間に関しては、昨日とさほど変わらない時間で攻略できているが、スムーズにいっても二十階までは少し厳しいかもしれないな。
「これが頼まれてたアイテムです。滑り止めのついたブーツとピッケル。それから防寒用のインナーと暗視ポーションです」
ロザリーさんから頼まれていたアイテムを手渡していき、その場で身に着けていく。
防寒用のインナーだけは、おばあさんの装備があるため俺は不要なのだが、その他のアイテムはしっかり身に着ける。
全員の装備が確認できたところで、いよいよ岩場となっている地面を踏みこみ攻略開始。
草木や木々で覆われていた今までのエリアとは違って、視界は開けているのだが……。
魔物の姿も気配も感じ取れない。
下の階層から抜けるような風しか感じられず、それが逆に不安になってくる。
「魔物の姿がありませんね。吹き上がる風のせいか気配もいまいち分からないですよ」
「渓谷エリアの魔物は基本的に隠れていますので。ダンジョンモニターの俯瞰視点からだとよく映っていたと思うんですけど、こうして立ってみると全然見えないんですよ」
ロザリーさんの言葉を踏まえて周囲を索敵してみるが、やはり魔物の姿は見当たらない。
唯一確認できるのは、遥か上空から静かにピークイーグルが様子を伺っていることだけ。
敵の位置を把握できないまま進むのも怖いが、このまま突っ立ているだけでは埒が明かない。
ここからは後衛をアルナさんに任せ、ロザリーさんと共にゆっくりと先へと進んでいく。
「いた。西側の崖向こうの岩にゴブリンアーチャー。その崖下にブラッドバット。どちらも攻撃は届かない位置」
しばらく進むと、後ろで索敵しているアルナさんから声が入ったが、こちらからは一切確認できない。
はたして、どうやって見つけたのだろうか。
俺はアルナさんよりも前の位置にいるはずなんだけど。
「ルイン、近くだけに集中」
「は、はい」
アルナさんが見つけた魔物を確認できず、どうにか探そうとその付近に意識を向けていると、後ろからピシャリとお叱りの声が飛んできた。
気を取り直し倒れた俺は、近場の警戒だけを行いアルナさんの指示の下、魔物の気配のないルートを選びながら十六階層を進んでいく。
結局、アルナさんのおかげで奇襲をかけられるどころか、一度も会敵もすることなく階段の位置まで辿り着いてしまった。
……指示出しも的確だし、索敵能力も高い。
魔物が出れば弓矢でのサポートも出来るし、アルナさんは後衛でも一流のようだ。
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