第二百二十四話 新たなるエリア
まだ残っている蜘蛛の糸を避けながら、後衛の二人の下へと向かう。
二人が俺に対し、満足気に頷いているのが見えてちょっと恥ずかしくなる。
「おつかれ」
「お疲れさまです。終始、圧倒してましたね!」
「二人もお疲れさまです。サポートあっての戦いでしたけど、危なげなく勝てました」
「いやいや……。渡してもらった薬草団子を何個か投げてたんですけど、一個も当てることが出来ませんでしたし、私は本当に何もできなかったです」
「ん。私も途中からは何もしないで見てた」
申し訳なさそうにしているロザリーさんと、悪びれた素振りのないアルナさんがそう報告してきた。
確かに戦闘中、視界の端であさっての方向に飛んでいく薬草団子も確認出来ていたし、途中からアルナさんの攻撃の手が止まったのも気づいている。
薬草団子は引っ付きやすくしている故に、手にもくっついて投げづらいし、今回は張り巡らされた糸もあって遠距離からのサポートだったため、仕方のない部分が大きい。
アルナさんが矢での攻撃を止めたのも、俺が鬼荒蜘蛛を圧倒したのを見てからだし、序盤と中盤は完璧な動きをしてくれていたため文句をいう気はないな。
「ええ、気づいてましたよ。薬草団子はまぁ慣れていくしかないですね。アルナさんもできれば最後まで攻撃を加えてほしかったですが、サポートの役割は完璧に果たしてくれましたので文句はないです」
「はい。最後の方は当てられそうでしたので、次は大丈夫だと思います!」
「ん。サポートは要らないと思っての判断」
この様子ならば、二人共に次は大丈夫だろう。
まぁアルナさんに至っては、今回俺が苦戦していたとしたら最後まで攻撃してくれていただろうけどね。
「とりあえず反省はダンジョンから出てからにしましょう。これからの動きとしては、十六階層を少し見てから帰還で大丈夫ですか?」
「ん。大丈夫」
「はい。ここからの前衛は任せてください!」
こうして俺たちは、鬼荒蜘蛛のフロアを抜けて下の階層へと目指した。
吹き抜ける風を感じながら階段を下り切ると……そこに広がっているのは辺り一面の岩場。
十四階層まで草木が茂っていたとは考えられないほど、植物も木々も見当たらない。
そして、道の所々が崖のようになっており、この崖から落ちてしまうと下の階層へと叩き落とされてしまうのだ。
エリアの一番上であるこの十六階層からでは分かりづらいが……そう。ここからは渓谷エリア。
魔物の危険だけでなく、フロア上の危険も出てくるエリアとなる。
「ここからがダンジョン攻略の本番って感じですかね?」
「そうだと思います。私が冒険者をやっていた頃、本当に苦戦を強いられましたので」
「まあ、大丈夫。私がいる」
変わらず飄々とした態度をしているアルナさんのとても頼もしい言葉。
実際に渓谷エリアでは、アルナさんの弓矢が鍵となってくる。
ここからは飛来する魔物や、崖の向こうから遠距離攻撃を仕掛けてくる魔物が多数現れるからな。
そういった魔物の対処は、基本的にアルナさん頼りになるだろう。
「ええ。アルナさんにはもちろん期待してますよ」
「確かにアルナさんがいれば、脅威は半減ですね!」
そんな俺たちの期待の言葉に、アルナさんは親指を立てて答えた。
「それでジェイドさん、渓谷エリアの下り方は決めてますか?」
「それは帰還してから考えようと思っていますが……。ここまでと同じように階段から下りたいとは思ってますね」
ロザリーさんが聞いてきたのは、ショートカットして下りるかどうか。
先ほども言ったように、この渓谷エリアは崖から上層と下層が繋がっている。
普通ならば下層に落ちた時点で死んでしまうのだが、落下対策さえすれば一気に下の階層へと下りることが可能となる。
ただ、危険なのは単純な落下だけでなく、飛来する魔物の脅威や各階層からの遠距離攻撃。
そして一番厄介なのが、この崖際にのみ生まれる“キャニオンモンキー”の存在。
キャニオンモンキーは群れで現れ、冒険者を叩き落とすことだけを狙ってくる魔物。
非常に知能が高い上に、突き落とした冒険者から回収したアイテムや武器を使ってくるのが特徴で、この崖から叩き落された冒険者達は数知れない。
このように崖から下層へと下りることは、楽だし早いのだが……その分危険が伴うことになるのだ。
「私もジェイドさんに賛成で、できれば階段から下りていきたいですが……。反省会をしつつ、今後のこともゆっくり決めましょう!」
「ええ、そうですね。それではこの階層をもう少し見てから帰還しますか」
新たなるエリアに少しでも慣れておくため、俺たちは地形を確認しつつ、魔物を数匹相手してから来た道を戻り帰還した。
ここまでは非常に良いペースで攻略できているし、目標である33階層も見えてきている。
ここからがダンジョン攻略の本番ではあるが、【青の同盟】さん達に追いつくためにも、ペースを落とさずに攻略に励んでいきたいところだ。
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