第二百二十一話 説得


 魔物の燃えカスが灰となっていくのを背に、俺は目を見開いて驚いている二人の下へと戻る。


「すいません。調整をミスしてしまったのか、想定以上の威力となってしまいました」

「…………あっ、いや、確かに威力には驚きましたが……。ジェイドさんって魔法も使えたんですか!?」

「いえ、魔法は使えないですよ? 今のはアイテムでの攻撃です」

「あー、アイテムだったんですね。……って、アイテム?」


 魔法ではないことを説明したのだが、すぐに小首を傾げたロザリーさん。

 確かに普通のお店では、こんな威力のアイテムは売られていないからな。


 強いてあげるなら、高価なマジックアイテムなら同等程度の威力を持つアイテムがあると思うけど。

 まあ一般的に流通しているアイテムでは、二個目で使用したボム草ボールぐらいの威力のものしか売られていないのが現状なのだ。


「マジックアイテム? じゃないと説明つかない」

「マジックアイテムでもないです。言葉で説明するのは難しいんですが、そう難しい仕組みではないですよ」

「難しくない仕組みなら、もっと市場に出回ってる。……やっぱり変」


 確かに仕組み自体は難しくはないんだけど、わざわざ作成しようとは思わないから市場に出回っていないのだ。

 俺は自分の実力不足を“植物”で埋めようと足掻いた結果、たまたまボム草の爆発を増大させる組み合わせを見つけただけ。


 ボム草の用途としては、普通なら市場に出回っているぐらいの威力が丁度良いし、わざわざ低コストでないボム草を実験道具として使い、さらに威力を増大させようなんて考える人はまずいない。

 【プラントマスター】のスキルを持っていたお陰で、更に活かす道を模索出来たからこそ生まれた組み合わせと言える。


「うーん。決して変ではないことを説明したいんですが、先ほどの爆発については反省会で説明しますよ。今はまだ攻略の最中ですし、とりあえず集中し直して先の階層を目指しましょう」

「……ん。了解」

「確かにそうですね。ガムラパラサイトの処理については、引き続きよろしくお願い致します。それ以外の魔物は、私とアルナさんでバンバン倒していきますので!」


 長くなりそうなガムラパラサイトとの戦いの振り返りを無理やり中断し、俺たちは十四階層を目指しての攻略を再開した。

 


「意外とあっさりでしたね! 魔物の大群に遭遇することもなかったですし、楽々と到着できました」

「ん。まだ強い魔物がいなかった」


 俺たちは今日の目的階層である、十四階層にたどり着いていた。

 二人が話す通り、魔物に取り囲まれることも強敵と出会うこともなく、予想よりもあっさりと攻略に成功。

 マジックマンティスも最初の戦闘から十五匹ほど倒したが、一番多くのガムラパラサイトに寄生されていたのは最初の敵で、ここまで粉塵爆発での処理は行わずに済んでいた。


 それに前衛二人の圧倒的な活躍のお陰で、サポート用アイテムはほとんど残っているし、植物生成による魔力も一切使っていない。

 切り札として期待できる粉塵爆発のボールも三個ずつ残っているし、なにより俺自身の体力が有り余っている。


 十階層ではボスに挑むかを正直迷っていたけど……これはいける。

 何なら、ここまで連れてきてもらったような形の俺が、前衛一人で戦うのがいいかもしれない。

 俺は十五階層のボスについてを何度も映像で確認しているし、トビアスさんからも有用な情報を頂いているからな。


「どうするの? ここで引き返す?」

「……いえ。十五階層まで行って、ボスを倒してから帰還しましょう」

「だよね。戻――えっ?」


 アルナさんは俺が引き返すものだと決め打っていたのか、かみ合わない返答をしたあとに驚き、そして嬉しそうな顔を見せた。

 道中の戦闘でも、本当に生き生きとしながら魔物を屠っていたからな。

 そのため、後衛に回ってもらうと告げた時にどんな反応をするのかどうか。


「アルナさんとロザリーさんのお陰で、想定していたよりも力を温存した状態でこれましたので。俺が前衛一人という形になりますが、ボスに挑んでから帰還したいと思ってます」

「むむ? ボスに挑むのは賛成。だけど、前衛は私でもいいはず」

「そうですね! 意見する形になりますが、ここまで来たのと同じ陣形で挑むのがベストだと思います」


 やはりというべきか。

 二人共に反対の姿勢を示してきた。


 確かに二人の意見も真っ当なんだけど、俺の考える最適策は俺が前衛一人で戦うことだ。

 この十五階層のボスに関しての情報共有は満足にできていないし、二人は体力面にも不安が残っている。

 

 それを考えるならば、臨機応変に戦えてボスについての情報も頭に入っている俺が前衛で戦うのが、最も安定した戦いができるといえる。

 もちろん単純な戦闘能力に関しては二人に一歩劣ると思うけど、俺も後衛でただぼけっと見ていた訳ではない。

 単純な戦闘でも、二人以上に安定した戦いを行える自信は持っている。


「二人の意見ももちろん分かるんですけど、今回は俺に譲ってください。ずっと後衛で何もしてなかったんで退屈なんですよ」

「…………おいしいとこ取りはずるい」

「確かにそう言われましたら何も言い返せないですけど、なら次の攻略からは前衛後衛を回す陣形に戻しますか?」


 ぶすっとした顔で文句を言ってきたアルナさんに、俺はそう言い返した。

 本当は俺が前衛で戦う理由を一から説明するべきなんだろうけど、二人は絶対に疲れていないと言い出すのが目に見えているからな。


 このシンプルな言いぐさが一番説得しやすいことは、二人の戦闘狂ぶりを見ていれば分かる。

 だから、以前の前衛後衛を交代システムに戻す提案さえすれば……。


「むむ……それは困る。今が一番上手く回ってるし」

「確かに今も上手く回っていますが、三人で前衛後衛を回していた時も上手く回っていたと思いますよ」

「わ、私は後衛でのサポート能力がほぼ皆無ですから、ジェイドさんに後衛をやって貰えたら嬉しいなぁと思ってます!」

「はい。もちろんそのつもりではいますよ。俺が一番サポートに長けているのは分かっていますからね。ただ、今回のように言われてしまうのなら……」

「冗談。ルインは笑いが分からないから困る」

「ははは、そうだったんですね。冗談だったのでしたら良かったです! 今回だけは俺に前衛を任せて貰えるということで、二人ともよろしいですか?」

「もちろん」

「もちろんですよっ! 私はジェイドさんにおまかせします!」


 俺は二人に笑いかけながら念を押し、半ば無理やりだが了承を得ることに成功した。

 ちょっと意地の悪い感じだったけど、たまにならこういうこともしていいと思う。


 ――よし。おふざけモードはこの辺りにして、十四階層を攻略し終えるまでに、ボス戦についての立ち回りを頭の中で反復しておこう。

 俺はサポートにも気を回し、周囲を警戒しながら、頭の中では立ち回りを考え、十四階層を進んでいったのだった。


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