第二百十九話 攻略前のプレゼント


 翌日の早朝。

 いつもの待ち合わせ場所であるダンジョン前に向かうと、既に二人は着いていた。


「おはようございます。集合時間よりも大分早く来たので、まさか先に着いているとは思ってませんでしたよ」

「お、おはようございます。わ、私もちょっと早めに来て、準備運動でもしようと思っていたんです」

「今日から本格的な攻略の再開だから。珍しく気合い入ってる」


 二人とも気合いが入っているのか、やる気満々って様子が沸々と感じられる。

 アルナさんに至っては、過去一番のやる気の持ちようだと思う。


「そうだったんですね。俺もワクワクして早めに来たんですが……お二人と一緒の考えだったみたいで少し嬉しいです!」


 俺はそう言って二人に笑いかけた。

 急造パーティでまとまるかどうかが不安だったが、攻略も順調だし、かなりいい方向に進んでいると思う。


「それで以前から言っていた通り、今日から先の階層を目指して進むのですが、攻略の前に渡しておきたいものが二つありまして……」


 改めてそう告げた俺に対し、首を傾げたロザリーさん。

 そんなロザリーさんに、俺は昨日生成したフォーカス草ポーションを取り出し手渡す。


「……? こ、これは一体なんでしょうか?」

「この間試して貰った、フォーカス草を使って作ったポーションです。効果を抑えて効果時間を延ばし、使いやすくしてみましたので是非試してください」

「あの集中力を高めてくれた植物のポーションですか!? ……わ、わざわざ、私のために作ってくれたということでしょうか?」

「わざわざっていうほどのものではないですよ。頭で考えていた出来には至りませんでしたし、なんとか実用できるぐらいの性能ですから」

「でも、わ、私のために時間を割いて作ってくれたんですよね? ……ジェイドさん、本当にありがとうございます」


 軽く目に涙を溜めて、深々と頭を下げてきたロザリーさんに少し照れくさい感覚を覚える。

 確かにロザリーさんのためでもあるが、大筋の目的は攻略を円滑に進めるためだし、完成もしなかったからそうお礼を言われるようなことはしていないんだけど……。

 こうしてしっかりと感謝の言葉を伝えられると、作って良かったと素直に思えるな。


「同じパーティなんですから、全然気にしないでも大丈夫です。それで、もう一つの渡したいものなんですが……」


 続いて俺が鞄から取り出したのは、お金の入った麻袋。

 採取した植物や回復ポーションを売却したお金を、三等分にして分けたのがこの袋に入っている。


 アルナさん、ロザリーさんと手渡していき、二人は受け取った瞬間にそれがお金だと気づいた様子。

 半分ほどは攻略のポーション用に回しているため、予定よりもかなり少ない額となってしまったが、数日間の稼ぎとしては十分な額にはなったと思う。


「この間も貰ったけど、また貰っていいの?」

「はい。前回は全然売却できていなかったので、今渡したので採取した分の全ての金額となります」

「あ、あの、前にも伝えましたが、私にまで分配して頂きありがとうございます。……まだ攻略を初めて間もないですが、ジェイドさんとアルナさんのパーティに参加できて本当に良かったです」

「攻略のための準備でかなりのお金を使ってくれたようですし、それにロザリーさんには期待してますから! 一緒に頑張りましょうね」

「はい!」


 能力はあるのに、実力を発揮し切れずに燻っている。

 ロザリーさんのそんな姿は、どこか治療師ギルドで働いていた頃の自分と重なって見えていた。


 正直、当たり前の対応をしているだけで、特別に待遇をよくしているつもりもないけど……。

 あがり症だけはなんとかしてあげたいと思っていたから、フォーカス草のポーションがしっかり効いてくれたら嬉しいな。


「……ルインと一緒にいれば、一生お金には困らなそう」


 ロザリーさんと共にお互いに励まし合っている最中、アルナさんが麻袋の中を見て、ボソリとそう呟いた。

 水を指すような身も蓋もないそんな言葉に、思わず苦笑してしまう。


「アルナさんは一人だったとしても、お金には困らないと思いますよ。実力があるんですから」

「ん。でも、大半の人とは一緒にパーティを組みたいとは思わないから、お金には困ると思う。つい最近まで困ってたし」


 確かに、アルナさんのパーティ募集条件はかなり厳しいものだった。

 性格的にあの条件でないとやっていけないと判断してのものだとは思うけども、恐らくずっとパーティを組めていなかったんじゃないかと思うほど。


「確かにそれはそうですけど。アルナさんならソロでも攻略できると思いますよ」

「ん、ソロはめんどくさい。なら『亜楽郷』で働いた方がマシ」

「そういうものなんですかね?」

「そういうもん。だから、ルインには感謝してる。……あと、ルインをよしとした私の審美眼にも感謝」


 ドヤ顔で腰に手を当て、胸を張るアルナさん。

 変則的な褒められ方だが、アルナさんに褒められるのは嬉しいな。


「――そんなことより早く攻略しよう。ずっとうずうずしてる」

「そうですね。渡すものも渡せましたし……。本格的な攻略の再開と行きましょうか! 気を抜かず、怪我のないように頑張りましょう」

「は、はい。よろしくお願いいたします」


 三人で軽い円陣を組み、気合いを入れ直したところでダンジョンへと足を進めた。

 そしてダンジョンに入って早々に、ロザリーさんがフォーカス草のポーションを使用したみたいだが……どうやらいい具合で効果を発揮している様子。


 ドモることもなくなり、フォーカス草を直で使ったときよりも効果の塩梅がよかったのか、動きも段違いにキレている。

 安定して実力を発揮できるようになったロザリーさんと、それを援護する形で弓で魔物を射殺するアルナさん。


 俺のサポート機会はほとんどないまま双ミノも倒し、あっという間に十階層のセーフエリアへとたどり着くことができた。

 順調すぎるし攻略に何の問題もないのだが……二人の戦闘を見ていると、俺も前衛で戦いたくなってしまうのが玉に瑕だな。


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