第二百十六話 忙しい休日
今日で三日間に渡る植物採取が終わり、明日の休日を挟んでいよいよダンジョン攻略が再開となる。
二日目以降は新種の植物もポンド草も発見出来なかったけど、量に関しては充分過ぎるほどの植物を採取することが出来た。
今日、明日とこの採取した大量の植物を使って、ポーションやアイテムの生成に取り組みたい。
探求心を擽られてウズウズしていると、そんな俺に気がついたアルナさんが解散の言葉を告げてきた。
「もう行っていいよ。三日前からやってること同じで、反省なんてすることないし」
「ですね。サポートアイテムの生成に植物の売却。お手数お掛け致しますが、よろしくお願い致します」
「すいません、気を遣わせてしまって……。それではお言葉に甘えて、今日も先に帰らせて頂きますね。明後日までには良いアイテムを開発しておきますので」
俺は二人にそう伝えてから軽くお辞儀をし、ダンジョン前から離れた。
さてと……『グリーンフォミュ』で追加購入しておきたい植物もあるんだけど、とりあえずは手持ちの植物だけでなんとかしてみようかな。
お金に軽く余裕が生まれたからといって、そう簡単に無駄使いをすることは出来ない。
頭の中で材料の組み合わせを考えながら、そのままの足で俺は『ラウダンジョン社』へと向かった。
『ラウダンジョン社』に着き、早速ポーションの生成に取り掛かる。
俺が今、生成を模索しているのはフォーカス草を使ったポーション。
初日は売却用の回復ポーションと魔力ポーションを生成していたんだけど、売却額と時間が割りに合わないことに気が付き、売却用でのポーション生成は早々に諦めた。
グレゼスタに居た頃のように、自分の時間がたくさんあるのであれば、もちろん生成してから売っていたんだけど……。
いかんせん、ダンジョンを攻略しながらだと時間がかなり限られている。
お金はいくらあっても足りない現状のため、もちろんポーションにして売りたいところなのだが、今は攻略用のポーションの生成を優先しているという訳。
「うーん……。まだちょっと効果が薄いなぁ」
そして俺が今、フォーカス草で何を作ろうとしているのかというと、ロザリーさん用のあがり症克服ポーションだ。
フォーカス草で、あがり症が発症しなくなることは昨日の攻略で実証済みで、攻略初日に見せてくれた動き以上の実力をロザリーさんは発揮してくれた。
ただフォーカス草そのままの使用だと、効果が短いのと効きすぎてしまい、効果切れの際の眩暈のせいで戦闘に支障を及ぼすことも判明した。
そのためフォーカス草をポーションにし、効果の延長と効き過ぎない調整を俺は行っている。
できれば、程よい集中力が一日持つくらいのポーションを作りたいんだけど、その塩梅がかなり難しい。
ダンベル草で作ったストレングスポーションのように、効能を適当に薄めるだけでいいのなら楽に作れるんだけど、今回のポーションはそうはいかないからな。
意外な植物を組み合わせて効能を変化させ、デバフのかかる植物と組み合わせて効果を落とすこともしなくてはならない。
大変だけど、絶対に使うことがないと思っていた植物にも使い道があり、この試行錯誤が時間を忘れてしまうほど楽しいのだ。
……ただ結局、三日かけても目指したポーションの形までには至らず、未完成のままで攻略に臨むこととなってしまったが、なんとか実戦で使用できるぐらいのものには仕上げることは出来た。
「休日のはずなのにめちゃくちゃ疲れた。明日の攻略に備えてもう帰って寝たいところだけど……もう一仕事しよう」
俺は『ラウダンジョン社』を出て、オレンジ色に染まるランダウストの街へと出る。
ポーションでのお金稼ぎが現実的でなくなったため、新たな収入源として‟グルタミン草”の卸先を見つけたい。
クライブさんがグレゼスタでは高く買い取ってくれたように、効能を知ってくれさえすれば、確実に需要のある植物といえるからな。
ただ伝手がないため、自分の足で卸先を見つけなくてはならないのが現状。
トビアスさんもダンジョン関連ではない情報については、流石に持っていないみたいだしね。
俺は道中で食品を扱うお店を探しながら、まずやってきたのはトビアスさんと出会った大衆食堂。
料理の種類の多い大衆食堂では、必然的に様々な食材を扱わなくてはならないだろうし、どこのお店から購入しているのかを聞ければ、良い卸先の候補が見つかると考えたのだ。
それに夕暮れ時ならまだお客さんも多くないだろうし、話を伺うならベストな時間帯なはず。
「いらっしゃい! 好きな席に座って!」
お店に入ると、そんな元気の良い店員さんの声で出迎えられた。
店員さんが常にニコニコ笑顔だし、本当に気分の良いお店だな。
「あの、すいません。実はお食事に来たのではなく、お話を伺いたくて訪ねたのですが少しだけ大丈夫でしょうか?」
失礼を承知でそう訪ねたのだが、店員のおばさんは笑顔のまま対応してくれた。
「おんや、話が聞きたいなんて珍しいね! 今は手が空いてるし大丈夫よ! それで、話ってなんのことかしら?」
「実は、調味料を何処で買っているかをお聞きしたいんです」
「調味料? 食材じゃなくて?」
「はい。調味料ですね」
食材ならまだしも、調味料と聞いて面食らった表情を見せた店員さん。
いきなり調味料をどこで買っているかを聞いてくるなんて、流石に変な人過ぎるもんな……。
「そうね……。一般的な調味料はメインストリートの露店で買うけど、あまり流通していない調味料は商人ギルドで買っているよ!」
「商人ギルドですか?」
「そうそう! 商人ギルド自体が商品を取り扱っているイメージはあんまりないと思うんだけど、ランダウストの商人ギルドは希少な物を取り扱っているのよ! 何か調味料を探しているなら行ってみるといいわ!」
「そうなんですね! 希少な情報ありがとうございます!」
「いえいえ。これくらいのことならいつでも教えてあげるわ! その代わり、お客さんとしてもまた来てね!」
「はい! 必ずまたお客さんとして来ます!」
これは良い情報を貰えた。
商人ギルドは完全に盲点だったな。
グレゼスタの商人ギルドは売買自体を行っていなかったため、完全に頭から抜け落ちていた。
ランダウストの商人ギルドは、商売自体にも手を出しているということなのだろう。
ギルドとなれば普通のお店よりも規模が大きいだろうし、グルタミン草の価値を分かってくれる可能性が高く、更に高価買取を行ってくれる可能性も高い。
……これは行ってみる価値ありだな。
時間的にまだ営業しているか怪しいけど、早速行ってみるだけ行ってみようか。
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