第二百十五話 ハイスペック
※冒険者ギルド職員 ロザリー視点となります。
「こっちは採取できましたが、そちらはどうでしたか?」
どうやらジェイドさんも十分な植物を採取出来たのか、こっちに戻ってきたみたいだ。
こちらの採取結果を伝えるため、凝り固まった腰を伸ばしつつ振り返ると、とんでもないものが目に飛び込んできた。
「ん。少しは採れた……えっ!? 何その量」
「ランダウストに来る前は植物採取で生計を立ててたので、植物採取だけはかなり得意なんです」
ジェイドさんが抱えている植物の量にアルナさんはすぐに反応し、私はというと開いた口が塞がらない。
植物の見分けを付けることの出来なかったアルナさんがいたといっても、こっちは二人がかりで15本。
魔物の現れない場所だから、かなりの量が採取出来たと思っていたのだけど……ジェイドさんはというと、抱えている植物だけで計50本余り。
更に後ろにも大量の植物を採取しているのが見える。
流石に雑草だろうが構わずに採取してきたと考えなきゃ、説明のつかない量だ。
「いや、得意っていいましても……。この短期間でその量は流石に無理じゃないですか……?」
「実際に採取した訳ですので、無理ではないと思いますけど……」
「あの決して疑っている訳ではないですが、ちょっとだけ見せて頂いても大丈夫ですか?」
「もちろんです。魔力草と薬草は左側に固めてますので見てください」
口では疑っていないと言ったが、流石にあり得ないと思ってしまった私は、自分の目で確認させてもらうことをお願いした。
ジェイドさんは予想以上にあっさりと許可してくれ、言葉通り左側の植物を確認する。
……薬草……薬草……魔力草……薬草。
無作為に植物を手にしては確認したのだが、本当に全てが薬草と魔力草しかない。
「……………………凄い。これ本当に全て薬草と魔力草です。……もしかしてジェイドさんって凄い方ですか?」
「いえ、治療師ギルドもクビにされましたし、全然凄くないですよ。とにかく、これでお金はかなり稼げると思います。ただ、先ほども言ったようにサポート用でも残すつもりですので、明後日までは植物採取に専念しても大丈夫ですか?」
「ん。それだけ採取出来るなら文句ない」
「それではこの植物を、手分けして運んで頂いてもよろしいでしょうか」
植物採取だけで富豪になれる才能を持っているのだから、これで凄くないのであれば凄い人など存在しないことになる。
色々とジェイドさんを問い詰めたいところだけど、植物に疎いアルナさんはいまいち凄さの度合いが分かっていないのか、あっさりと話が流れてしまった。
私は仕方なくモヤモヤした気持ちを抱えたまま、大量の植物を持って先ほど来た道を戻りダンジョンの外へと目指した。
大量に植物を抱えた状態でも難なく魔物達を退けた私達は、無事にダンジョンの外へと戻ってくることが出来た。
今日は終始、あがらずに戦闘をこなすことが出来たし、自分でも良い動きだったと思う。
「お疲れ様でした。それでは採取した植物の管理は私がしますので、売り上げ金については明日お渡しできると思います。ただ、ポーションに変えて売ることも視野に入れてますので、明日全てお渡しできるわけではないということは頭に入れて置いてください」
えっ。植物の売り上げ金って私も含まれてるの?
採取したのはジェイドさんなんだし、私に至っては別で金銭を受け取っている。
まだ何の成果を上げられていないし、申し訳ないと思ってお断りしようとしたタイミングで……。
私は文の後半部分の理解に頭が追いつく。
……ポーション? 今、ポーションに変えるって言ってた!?
「えっ!? ルインさんポーション生成も出来るんですか!? てっきりスライム瓶のものだけだと思ってたんですが」
「一応作れますね。簡単なものしか作れないですが、今持ってるポーションも基本的には俺が作ったものです」
「アルナさんが凄い方なのは分かっていましたが、ルインさんも負けず劣らずの凄い方なんじゃ……」
「ん。……知れば知るほど分からない。変」
ポーションは専門的な知識が必要な上に、専用の機材がないと生成出来ない逸品。
市場には格安のポーションが出回っているものの、大半は正式なポーションではなく回復効果のある模造品ばかり。
もし、ちゃんとしたポーションを本当に作れるのだとしたら……。
正直、アルナさんよりもジェイドさんの方が凄い人だと私は思う。
アルナさんの言っていた、ルインは戦闘能力以外で初めて強いと思った人物。
その言葉が適切であると私も感じたのだった。
ジェイドさんが先に帰宅し、残された私とアルナさんはしばらくの間無言となる。
平均以上の戦闘能力、咄嗟の判断力と応用力、傷を見抜き即座に回復へ移せるサポート能力の高さ。
それから人間離れした植物採集能力に、ポーションを生成出来る知能と技力。
「…………能力高すぎませんかね?」
「ん。凄い」
ポツリと一言喋っただけなのだけど、アルナさんも同じくジェイドさんのことを考えていたのか、即座に同意の反応を見せた。
「正直ついていけるのかどうか、少し怖くなりました」
「それは大丈夫。私がいるし、ミスしてもルインがカバーする。それにロザリーも変にならなければ実力は高い」
「……そうですね。なんとかあがり症さえ克服できれば、少しは役に立てると思うんですけど」
「以前のパーティが原因だっけ」
「………………はい、そうです」
「聞くけど話す? 克服のきっかけになるかも」
私はこのことを思い出したくないから、ずっと心の奥底にしまっていた。
ただ、私自身が前に進むためにも、過去を振り返ることが大事なのかもしれない。
私はアルナさんの言葉にゆっくりと頷き、いつもの喫茶店へと二人で向かったのだった。
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