第二百十三 完璧な二人
※ギルド職員 ロザリー視点となります。
パーティの穴埋めとして加入し、新パーティで挑んでいるダンジョン攻略の二日目が終わった。
初日だった昨日は久しぶりのダンジョン攻略ということに加え、パーティメンバーであるアルナさんの強さに感化されて、あがらずに実力を発揮することが出来たんだけど。
……今日は本当に駄目だった。
ボス戦ということで緊張してしまい、まともに動けずアルナさんにおんぶに抱っこ状態。
更に私が狙われたことで、ピンチを招いてしまった。
気合いを入れていかないと——というか、正直舐めていた部分がある。
三人パーティだし初心者と聞いていたから、勝手にしばらくは三階層くらいまでで停滞するのかと思っていたけど、以前に攻略していた時よりも攻略ペースが早い。
アルナさんの実力が頭一個抜けているものの、ジェイドさんも中堅冒険者パーティに加入してもやっていけるぐらいの実力があるため、あっという間に初日で七階層まで到着してしまったのだ。
明日からは気合いを入れていかないと、下手すれば他の人とのチェンジを要求されるかもしれない。
「はぁー……。楽しいけど厳しいよぉ……」
ベッドに横になり、思わずため息と愚痴が漏れる。
ミスを犯しまくって後がない私にとっては、この穴埋めの仕事を失敗したら冒険者ギルドをクビになるだろう。
そんな不安や焦燥感に苛まれながらも明日に備えるべく、私は無理やり眠りについたのだった。
翌日。
私達は昨日同様に、あっさりと七階層まで辿り着いた。
昨日のように双ミノ戦で動けなくなる――なんてことにならないために、七階層までの道中でなんとか工夫を凝らして戦っていたんだけど……。
肝心の双ミノ戦は、前衛をアルナさん一人で行うということを告げられてしまった。
昨日の戦いぶりを考えれば当然だし、悔しいけどこの陣形が一番安全で楽に倒せるのは私も分かっている。
もう一回だけチャンスが欲しい。
そう言えればいいんだけど、ただの穴埋めである私ががそんなことを言えるはずがない。
結局作戦に従い、私はジェイドさんと並んで後方待機。
ただ、私は今までずっと前衛しかやってこなかったため、後方からの支援は何も出来ず、ただただアルナさんが倒すのを祈るように見守ることしか出来ない。
そんな実質二人パーティの状態でも立ち回りは完璧で、少しのダメージが入った瞬間にジェイドさんが的確な回復を行い、アルナさんはダメージを気にせず攻め立てている。
そのまま一度も崩れることなく、思わず見惚れてしまうほど圧倒的に双ミノを射殺したのだった。
「アルナさん、流石の戦いっぷりでした。昨日以上に圧倒してましたね」
「ん。今日は調子が良い」
「こ、攻略上位のパーティメンバーと比べても遜色ないと思います。私もアルナさんの戦闘を見ていると戦いたくなってくるほどですので!」
「でも、それを言うならルイ—―。ん。まあいいや。先いこ」
アルナさんの戦闘を見ていると、私自身も戦いたくなってくる衝動に駆られる。
自由に動き回って敵を圧倒するその姿は、緊張で動けなくなってしまう私にとっては理想そのものの姿なのだ。
「そ、そうですね。は、八階層からは、また私も前衛でいいんですよね?」
「はい。六階層までと同じように前衛二人体勢でいきましょう。ここから先は低層で燻っている冒険者が減りますので、遭遇する魔物の数がグッと増えます。明日は気を引き締めていきましょう」
気持ちが昂り、周囲に意識が向いていない今の状態なら、いつも通りのポテンシャルを出せるはず。
そう思い、思い切って前衛に行かせてくれるかを聞いたのだけど……良かった。
見限られた訳ではないみたいだ。
再び陣形を組み直し、アルナさんと横並びで八階層の攻略へと進む。
ジェイドさんも言っていたが、双ミノを倒せない低級冒険者がいなくなったことで、魔物と遭遇する確率が大幅に増加している。
以前も同じ環境だったはずなんだけど、タンクなし且つ二人で戦わなければならないというのがかなり厳しく、実力者のアルナさんがいても数の暴力で攻撃を受ける機会が増えてきた。
こうなってしまうと、攻撃を受けた箇所が思うように動かせなくなり、更なる攻撃を受けてしまうという負のループに入ってしまうんだけど……。
後ろから飛んでくる‟何か”が攻撃を受けた部分にくっつき、すぐに痛みが引いていく。
背後は確認出来ていないけど、恐らくジェイドさんのサポートだ。
先ほどの双ミノ戦でアルナさんに何かを飛ばしていると思っていたけど、回復薬を飛ばしていたのだと、実際にサポートを受けた今になって分かった。
回復薬のお陰で痛みの引いた体を動かし、私は休まずに次々と魔物を攻め立てていく。
戦闘中に回復手段があるだけで、ここまで楽になるんだなぁ。
前のパーティはヒーラーなしで攻略していたから……というよりも、ヒーラーなんて上位攻略者でも殆ど見ない希少役職だしね。
ダメージの出せない回復術師は足手まといになりがちで敬遠され、ジェイドさんが取っているようなアイテムを使っての戦闘中での回復は、コストがかかりすぎて金銭的に厳しい。
だから大体の冒険者パーティではタンクを採用し、タンクが攻撃を捌き切れずに戦闘後に重傷を負っていた場合のみ、回復するというのがダンジョン攻略での常識。
そのため、ここまで体に余裕を保った状態で戦えている状況が初めてで驚きが大きい。
気のせいかもしれないけど、疲労も回復している気がしているし、このまま無限に戦えるのではと思ってしまうぐらいだ。
そんな調子の良い状態を維持したまま、次々とダンジョンを進んだ私達は楽々十階層へと辿りついたのだった。
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