第二百十一話 旧式醸造台
ダンジョン攻略後、『ぽんぽこ亭』にて仕分けた植物を持って、廃れた飲み屋街へとやってきた俺。
そう。実は醸造台の置き場所として、『ラウダンジョン社』の一階を使ってもいいという許可をトビアスさんが取ってくれたのだ。
ポーション生成も行っていいとのことで、俺はありがたくその提案に乗らせて頂き、物置小屋となっている一階を借りることにした。
今はお金に余裕がないため無償でお借りしているのだが、いずれはキチンとお金をお支払いする予定。
……それにしても、トビアスさんには本当に頭が上がらないな。
情報も全てが使えるものだったし、トビアスさんがいなければアルナさんとも、ロザリーさんともパーティを組めていなかったし、そもそも出会うことすらしていなかったと思う。
細かい攻略情報に加えて、十階層の秘密スポット。
更には、醸造台の置き場所まで確保してくれたんだもんなぁ。
本当になんでここまで良くしてくれるのかが、俺には益々分からなくなっている。
トビアスさんは、その分の記事を書かせてくれればいいと言ってくれているんだが……。
俺にそれ程の価値はないと思ってしまうんだよな。
ご厚意はありがたく感じつつ、何度目か分からないこの厚意を返せるかの不安に駆られながら、俺は『ラウダンジョン社』の中へと入った。
『ラウダンジョン社』の中に入ってすぐ、俺が昨日購入した醸造台が置かれているのを見つけた。
こうして改めてみると、やはり少し古いタイプだということに目がいくが、それでも嬉しいことには変わりない。
しばらくの間触って醸造台の感触を確かめた後、まずはお礼を伝えるために二階へと上がった。
「すいません、失礼致します。ルインと申します」
そう告げてからオフィスの扉を開けると中にいたのは、前回応対してくれた幸の薄そうな女性のジュノーさんだけだった。
以前は大量に机に伏していた人達もおらず、ガランとした空間になっている。
「あら、先日来ていた子じゃない。確か……トビアスのお客さんだったわよね?」
「はい、そうです。実は今日もトビアスさんに用事があって来たのですが、何処に行っているか分かりますか?」
なんだか値踏みされている感じがして、ジュノーさんはあまり得意ではないのだが、俺はトビアスさんが何処に行ったのかを質問する。
ジュノーさんは、ジーッとしばらくの間俺を見つめたあと、ゆっくりと口を開いた。
「さっきまでは居たんだけど、すれ違いで何処かへ行ってしまったの。何処に行ったかまでは分からないけど、ここで待ってればすぐに戻ってくると思うわ」
「そうですか……。情報提供、ありがとうございます」
「いえいえ。大した情報ではないもの。それより、ここで待つかしら? お茶くらいなら淹れるし、なんなら私が話し相手になるわよ?」
「あー、すいません。実は、ここの一階に醸造台を置かせてもらっていまして、そちらの作業に当たりたいんです……。お話は俺もしたいのですが、本当に申し訳ございません」
「へー……。あの荷物、貴方のだったのね。ふふっ、少し面白そうだから作業の様子を見せてもらってもいいかしら?」
うー。断りたいけど非常に断りづらい。
ただでさえ触ったことのない旧式を扱わなければいけないのに、見られるとなると余計にやりづらい。
……ただ、会社の一階を使わせてもらっているからな。
これならば話に付き合えば良かったと思いつつ、俺は渋々了承したのだった。
ジュノーさんと一緒に階段を下り、醸造台の前に立つ。
まずは試しで、新式で習ったままの作成方法で低級回復ポーションを作ってみようと思う。
「へー、詳しく見てなかったけど旧式の醸造台ね。今からポーションを作るの?」
「そうです。新式しか使ったことないので、ちゃんと生成出来るかは分かりませんけど」
「一時的に保管しているだけだと思ったけど、まだ若いのにポーションを作れるのね。……それでいて、期待の冒険者でもあると。なるほど、トビアスが目をかける理由が少し分かった気がするわ」
その言葉と同時に、ジュノーさんの目の色が変わったように見え、気怠そうな雰囲気もなくなった。
視線も先ほどよりも増して強く感じ、非常にやりづらいな……。
……うん。ここは一つ、フォーカス草を試してみようか。
ジュノーさんからの圧があるこの状況では、集中力の上昇の効能を非常に試しやすい場面だと思う。
隠れてフォーカス草を生成した俺は、フォーカス草を口の中へと放った。
……味は若干の苦みと酸っぱさを感じるが、癖はないし不味くはない。
しっかりと食したところで、早速ポーション生成へと移る。
まずは魔力石を置いて、醸造台を起動。
新式ならば自動で行ってくれる部分を手動でなんとか動かしながら、ちゃんと作動させることには成功した。
あとは基本的には新式と同じはずなんだけど、いくつか足らない部分があるんだよな。
大きな点としては、素材を混ぜ合わせる場所が新式が五つなのに対し、旧式は三つだけ。
よって一気に混ぜられる材料の種類が減り、複雑な材料を掛け合わせて作るポーションは、そもそも作成自体が出来ない模様。
ただ、現状の俺の腕では五つも使うことはないだろし、生成速度が落ちるということ以外は大きなデメリットではない。
そんなことを思考しながら材料を組み合わせ、手順を間違えないようにスピーディに材料を混ぜ合わせてから、醸造台を起動。
コポコポと気持ちの良い音を立てながら出来たポーションを、少し腕を切ってから早速振りかけてみる。
「……うん。効果は問題なさそうだし、成功だ」
傷口はじゅくじゅくと再生していく様子を見せ、俺は無事に一発目で旧式醸造台での回復ポーション生成を成功させたのであった。
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