第二百十話 売却の方法


「これは……魔力草?」

「うーん。似てますけど、それは雑草じゃないでしょうか?」

「……難しい」


 近づいたことで二人の会話が聞こえてきたのだが、どうやら見分けの付け方に未だに苦戦している様子。

 魔力草と薬草は比較的見分けやすいというだけで、似たような雑草がいくつもあるからな。

 二人の会話を聞きながら、俺は治療師ギルドで働き始めた頃の大変だった苦い時期を思い出ししつつ、採取を終えたことを伝える。


「こっちは採取できましたが、そちらはどうでしたか?」

「ん。少しは採れた……えっ!? 何その量」


 片手で持てる量の植物を持って顔を上げたアルナさんは、俺の持つ大量の植物を見て目を大きく見開いて驚いた表情を見せた。

 無表情に近い表情しか見たことがなかったため、かなり新鮮な表情だな。


「ランダウストに来る前は植物採取で生計を立ててたので、植物採取だけはかなり得意なんです」

「いや、得意っていいましても……。この短時間でその量は流石に無理じゃないですか……?」

「実際に採取した訳ですので、無理ではないと思いますけど……」

「あの決して疑っている訳ではないですが、ちょっとだけ見せて頂いても大丈夫ですか?」

「もちろんです。魔力草と薬草は左側に固めてますので見てください」


 常識ではあり得ない採取速度だし、俺が適当に採取したのではないかと思っている様子のロザリーさんに植物をみせる。

 【青の同盟】さんの時も【鉄の歯車】の時もそうだったが、やはり初見ではこんな反応になってしまうのだろうか。


「……………………凄い。これ本当に全て薬草と魔力草です。……もしかしてジェイドさんって凄い方ですか?」

「いえ、治療師ギルドもクビにされましたし、全然凄くないですよ。とにかく、これでお金はかなり稼げると思います。ただ、先ほども言ったようにサポート用でも残すつもりですので、明後日までは植物採取に専念しても大丈夫ですか?」

「ん。それだけ採取出来るなら文句ない」

「それではこの植物を、手分けして運んで頂いてもよろしいでしょうか」  

 

 採取した大量の植物によって、行きよりも大分荷物が多くなってしまったが、三人で分けて持ったことでなんとか無事にダンジョンから戻ってくることが出来た。

 植物採取を行う時だけでも、荷物持ちが欲しいのだが……。

 それはアーメッドさんとの約束を破ることになるよな。


「お疲れ様でした。それでは採取した植物の管理は私がしますので、売り上げ金については明日お渡しできると思います。ただ、ポーションに変えて売ることも視野に入れてますので、明日全てお渡しできるわけではないということは頭に入れて置いてください」


 ダンジョンから出たところで採取した植物を全て預かり、二人にそう伝えた。

 昨日、植物を売ったから分かるが、買取額は種類ごとに一定だし、高レベルはポーションにして売るほうが良いと俺は思っている。

 手間もかかるし、売却までの日数が空いてしまうが、それだけ見合った額で戻ってくると思えば痛くない。


「えっ!? ルインさんポーション生成も出来るんですか!? てっきりスライム瓶のものだけだと思ってたんですが」

「一応作れますね。簡単なものしか作れないですが、今持ってるポーションも基本的には俺が作ったものです」

「アルナさんが凄い方なのは分かっていましたが、ルインさんも負けず劣らずの凄い方なんじゃ……」

「ん。……知れば知るほど分からない。変」


 褒められてるのは嬉しいけど、アルナさんにだけは変と言われたくなかったなぁ。

 確かにポーション生成は覚えるのに時間がかかったし、『エルフの涙』のおばあさんの教えじゃなければ、生成を習得出来なかったんじゃないかと思うほどには大変だったけど、決して変ではないと思う。


「ということですので、植物の売却に関しては一任して頂ければ幸いです」

「ん。元々ルインが言い出したことだし、任せる予定だった。採取したのもルインのが大半だし」

「ありがとうございます。それではまた明日、ダンジョン前でよろしくお願いします」

「分かりました。お疲れさまでした」


 今日は色々とやることが溜まっているため、反省会はなしで先に帰らせて貰う。

 さて、今日はここからが本番といっても過言ではない。


 まずは『ぽんぽこ亭』に戻って、植物の種類とレベルごとに仕分け。

 そして仕分けが終わり次第、今日届けて頂けるといっていた醸造台を確認しに行こう。


 旧式の醸造台を扱えるかの不安はあるが、それ以上に自分専用の醸造台という事実にテンションが上がっている。

 植物を眺めながら考えた、作成を試してみたいポーションがいくつかあるしな。


 ダンジョン攻略後で多少なりとも疲労を感じていたのだが、ワクワクで疲れが吹き飛んだ俺は、軽くスキップをしながら『ぽんぽこ亭』へと戻ったのであった。


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