第二百八話 セーフエリア
パッと見る限りでは、先ほどまでの階層と何も変わらないように見えるのだが、決定的に違うのはテントが無数に建てられていること。
ダンジョンは一度帰還したら再び攻略し直さなければいけない関係上、【青の同盟】さん達も行っていたように、こうしてセーフエリアで寝泊りする冒険者が多数いる。
十階層は比較的まだ浅い階層ということもあって様々な冒険者が辿り着けるため、こうして無数にテントが張られているという訳なのだ。
「六階層で引き返す冒険者が多いので、七階層以降は一度しか冒険者パーティとすれ違いませんでしたが、やっぱり十階層にはかなりの人数がいるんですね」
「ええ。ダンジョンで唯一、気を休めることの出来る中継地点ですから。私もよく利用してましたが、セーフエリアを拠点にして深い階層まで攻略する人が大多数ですし、自然と人が集まるってものです」
「ん。それでこの階層で何するの?」
スラスラと喋れているロザリーさんから、もう少し詳しくセーフエリアについて聞きたかったのだが、待ちきれない様子のアルナさんが急かすように質問してきた。
「えーっと……。実はセーフエリアを利用して、植物採取を行いたいと思っています」
「却下。先、進もう」
呆れた様子で肩を落とすと、俺を置いて先へ進もうとする。
まだ何の説明もしていないのに、流石に気が早すぎる。
「ちょっと待ってください。ちゃんとした理由がありますので」
「理由? 植物採取に大それた理由なんてある?」
「はい。まず大きな目的の一つはお金稼ぎです」
「……お金稼ぎ?」
「そうです。ここまでで入手出来たのは、魔物のドロップ品と木の宝箱が一つだけです。肝心の双ミノからはドロップしませんでしたし、ロザリーさんを雇う金額を考えると、現状の稼いでいる額では殆ど手元に残りませんので」
「それは……すいません」
「いやいや。こちらが了承し、お願いして参加して貰ってますから。それにロザリーさんの懐に全て入ってる訳ではないですよね?」
「そうですね。特別手当は頂いてますけど、一日当たり銀貨五枚です」
やっぱりそうだったのか。
ロザリーさんはギルド職員のため、安定した収入が貰えていると思うけど、ダンジョンを攻略しているのに一日で銀貨五枚しかプラスされないのは、流石に割に合わないというもの。
ダンジョン攻略のための道具も、わざわざ新調してきたみたいだし、現段階では大幅な赤字となっていてもおかしくはない。
こういった現状を考えるなら攻略スピードはもちろん大事だけど、やはりお金稼ぎは必須といえる。
「アルナさんもダンジョン攻略で稼げる金額だけでは、生活は厳しくないですか?」
「ん。今も『亜楽郷』で働いている訳だし、確かに厳しい。だけど、植物採取なんかに時間を割くぐらいなら、先に進んだほうが稼ぐことができる」
「それは違いますよ。俺は植物採取だけに関してはプロといえますので、ある程度の収入が見込めると判断しての提案です。本当かどうかは実際に見て頂ければ分かると思います」
正直、俺の中の一番の目的はお金ではないのだが、お金は目的としては一番わかりやすく、正当なものだと判断して話した。
実際に本当にお金には困っているしね。
「その他の理由につきましては、俺がサポートに植物やポーションを使っているのを知っていますよね?」
「ん。サポートは助かってる」
「そのサポートのための材料が欲しいんです。今後の攻略にも係わってきますし、お金稼ぎと併用して使える植物の採取を行いたいと思っています」
「それは確かに必要ですね。サポート用のアイテムを買うにもお金はかかりますし、いずれ何処かでお金は稼がないといけない問題ですから。……一石二鳥となれば私はもう賛成ですが、アルナさんはどうですか?」
「ルインの言うように、本当にここでお金になる植物が採取できるようなら異論はない」
納得してくれたようなら良かった。
トビアスさんからこのセーフエリアである十階層が、一番安全に採取を行えるという情報を頂いているし、もう一つ貰った情報が使えるのであれば、コルネロ山での採取と同等の稼ぎを得られると俺は思っている。
「そこは安心してもらって大丈夫です。八階層から十四階層が、五十階層までで二番目に植物が多く生息している環境の階層だというのも事前に調べがついています。もちろんこの十階層も例外ではなく、俺がこの十階層で植物採取をしたい最後の理由ですので」
「分かった。納得した。時間がもったいないしさっさとやろう」
「ありがとうございます。それでは採取スポットには目途をつけていますので、ついてきてください」
ロザリーさんの援護射撃もあり、無事にアルナさんを説得することが出来た。
これで大した稼ぎにならなければ、また文句が出ると思うけど……。
その点だけは、稼げるという絶対の自信があるからな。
俺は二人を引き連れて、情報を頼りにセーフエリアの階段付近までやってきた。
トビアスさんの話が正しければ、この階段右手側の森の奥に隠れたフロアが続いているらしい。
早速、草木を掻き分けながら進んで奥を目指すと、そこには手付かずの開けた空間があった。
ここまでの階層一帯は、テントや人で採取できる環境ではなかったが、ここならば落ち着いて採取に当たれる。
「ん。確かに良い場所かも」
「そうですね……。十階層にこんなフロアがあるなんて知りませんでした。ダンジョンモニターにも映らないですし、ジェイドさんはなんでここを?」
「とある記者さんから教えて貰ったんです。……それよりも、早速植物採取に移りましょう。二人にはとにかく薬草と魔力草を採取して頂きたいのですが、見分けはつきますか?」
「私はなんとなくですが、見分けはつくと思います」
「私は無理」
「それでしたらゆっくりでいいので、ロザリーさんが教えてあげながら採取の方、お願いします。俺は奥から採取していますので、質問等があれば呼んでください」
よし。これで大丈夫だろう。
二人にはとにかく、見分けのつけやすい薬草と魔力草を採取してもらい、採取後に俺が仕分ければ効率が良い。
そして俺は一人で、色々な植物を採取して回ろう。
ダンジョンにのみ生息する未知なる植物や、『グリーンフォミュ』で見た高レベルな植物。
どんな植物が採取出来るのか、ワクワクしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます