第二百七話 ダンジョンの変化
八階層への階段を下ると、これまでの薄暗い洞窟から一転、ナバの森のような木々の生い茂る階層が眼前には広がっていた。
昨日もチラッと覗いたのだが、やはり凄い景色だな。
「七階層の平原にも驚いたんですけど、こんなに木々や植物が生い茂っていると、とても地下にいるとは思えませんね」
「んー? 知ってたから別に」
「いや俺も知ってはいましたけど、実際に見てみるとなると不思議じゃないですか? どうやって形成されているのかとか。一日毎に形状自体も変化するみたいですし、ボスに関してはすぐに復活するみたいじゃないですか」
「世界っていうのはそういうもの。地上にだって説明できない事象はよくある」
まあ確かに、俺の持つ【プラントマスター】なんかは、説明できない不思議現象の代表格のようなものだしな。
ただ、うーん。不思議の度合いが違うというかなんというか……。
上手く言い表せないことに少しモヤモヤしつつ、先を進むアルナさんが戦闘を始めたことで、八階層の攻略がスタートした。
八階層からは想定していた通り、六階層までと出くわす魔物の数が倍以上に増えた。
それに魔物の強さも若干上がっているため、数や不意を突かれて二人が攻撃を受けることが多くなっている。
俺はとにかく小さな異変も見落とさないようにし、薬草団子と回復スライムで的確に治癒を行っていく。
数で押されそうになった際は、ボム草と火炎草で作ったお手製爆弾草で遠距離からの攻撃。
更に数が多いと判断した場合は、魔力草を燻して強烈な臭いでの足止めも行った。
魔力草に関しては、魔物だけでなく前衛二人からも大不評だったが、嗅覚がある魔物ならばダンジョンの魔物であろうと効果が絶大だからな。
本当に危険になった際は常に魔力草を燻しながら動けば、魔物から襲われる可能性が極端に減るということが分かった。
特にこの木々の生い茂る八階層に入ってから、嗅覚の鋭い虫系と獣系の魔物の数の割合が増えており、効果がかなり期待できるんだよな。
「その草の臭いやめて」
「私もその臭い嫌です。……危うく嘔吐してしまうかと思いました」
効果を考えれば今からでも燻しておこうかなと考えていると、脈絡もなく振り返った二人が心を読んだかのように猛反対してきた。
アルナさんだけならまだしも、ロザリーさんも噛まずに反対してきている。
まあ俺自身も魔力草の臭いへのトラウマがあるし、積極的に使いたい訳ではないから、ひとまず保留としておこうか。
片手に持っていた魔力草をしまい、代わりに剣を握っていつ襲われてもいいように身構えて先へと進む。
「階段みっけ」
「八階層もあっさり攻略できましたね。環境ががらりと変わりましたし、苦戦を強いられると思ってましたが、十四階層までなら楽々潜れそうです」
「ん。ロザリーも調子出てきた」
「はい。アルナさんの双ミノとの戦いっぷりと、ジェイドさんの悪臭で少し吹っ切れました」
吹っ切れて動きが良くなったのはいいことなんだけど、吹っ切れた理由が少し複雑だなぁ。
俺自身が悪臭を放ってるみたいな言い方だし。
……ん? もしかしたら、魔力草の燻した臭いを嗅がせれば――。
「あっ、ピンチ以外であの臭いを発したら、私パーティから抜けさせて頂きますので」
んぐ。反論のタイミングが良すぎて、本当に心の中が読まれていると錯覚してしまう。
あがり症を発症しない特効になると思ったが、流石にあがり症を発症するよりもあの臭いを常に嗅がされる方が嫌なようだ。
「ええ、大丈夫です。魔物に囲まれた時以外は使わないと約束します」
「それより。次の階層を下りたらセーフエリアだけど、今日は十四階層まで行くの?」
「いえ、今日は十階層……というよりも、数日の間は十階層に留まろうと思ってます」
俺のそんな発言に流石のアルナさんも驚いたのか、普段は常に垂れている耳をピンと伸ばして詰め寄ってきた。
「理由は? 留まるほど、ここまでの道のりで苦戦はなかったはず」
「十階層に留まる理由は別の理由です。多分、口頭で説明しても伝わりづらいと思いますので、十階層につきましたら全て説明させてもらいます」
「ん。納得出来なかったら留まらないから」
そう言うと、ズンズンと階段を下りていってしまった。
理由をキチンと説明すれば、流石に納得してもらえると思うけどアルナさんだしどうだろうか。
下手したら拒否されるかもしれないけど、その場合は先に進むしかないのかもしれない。
そして、八階層とほぼ同じ九階層を楽々攻略し終えた俺達は、魔物の出現がないセーフエリアとなる十階層へと到着したのであった。
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