第二百五話 高額な買い物
喫茶店で今日の反省会を終えた後、俺は『グリーンフォミュ』へ来ていた。
何をしに来たのかというと、以前購入を渋ったポーション生成のための醸造台を買いに来たのだ。
正直、余裕で倒せると思っていた‟双頭のミノタウロス”戦で思わぬピンチがあり、ポーションの重要さと有用さに気づかされた。
まだまだグレゼスタで作っておいたポーションはあるんだけど、高品質の『エルフの涙』製ポーションは、攻略終盤まで取っておきたいところ。
労力と作成時間を考えれば、『グリーンフォミュ』でポーションを購入してもいいのだが……。
ロザリーさんを雇っている費用に『ぽんぽこ亭』の宿泊費、攻略に持ち込む必須アイテムにもお金はかかる。
それに、攻略の際に見つけたアイテムやドロップ品は、現状微々たるものなのにも係わらずアルナさんと折半だからな。
今の環境では、コストなしで自力で生成できるアイテムにお金をかけることはできない。
醸造台を置かせてもらえる場所も見つかったし、初期費用はかかるが購入するのがベストと俺は考えたのだ。
とりあえず『グリーンフォミュ』での目標は、貯め込んでいた植物を売って醸造台の資金作りをして、出来るだけ安い醸造台を購入すること。
まずはメインの一階で資金作りから。
『エルフの涙』同様に、植物やポーションの買取もやっている『グリーンフォミュ』。
ただ、売られている商品の質がバラバラなのに金額が変わらないことから察すると、冒険者ギルドで売るのと買取金額は大差ないと思っている。
そう考えて出来る限り、質の高い植物は省いてきたのだが、果たしていくらになるか。
オール草とエンジェル草がかなりの量があるし、一応グルタミン草も数枚だけ混ぜてある。
グルタミン草を計算せずとも、白金貨七枚分くらいはあるから期待は出来るとは思うんだけどな。
俺は持ってきた植物の袋を買取受付で渡し、査定してもらっている間に購入する醸造台の精査を行うため、人気のない二階へと上がる。
乱雑に置かれた商品を抜けて、一直線で醸造台の置かれた場所へとやってきた。
うーん……。
やはり目につくのは、『シャーロット』製の醸造台だな。
まだ売れ残っていることにホッとしつつ、見ても無駄だと分かっているんだけど隅々まで確認。
シンプルなデザインだけど、機能性に特化していてやはり良い。
魔法も込められているのか、よく見ると醸造台の内部から強い魔力も感じる。
『エルフの涙』にいた頃は全く意識していなかったけど、こうして他の醸造台と並べてよく観察するとかなりの違いがあるな。
他の醸造台も質が悪い訳ではないと思うんだけどさ。
少し名残り惜しさを感じながらも、財布の中身を見て無理やり諦めをつけ、俺は今日の目的である価格の低い醸造台の精査を行うことに決めた。
このエリアで売られている醸造台は、『シャーロット』製も含めて全部で八台。
シンプルに一番安い醸造台は一番奥に置かれた醸造台なのだが、古いタイプのようで使っていたものと形状からして違う旧式のもの。
どうやら新品のようだし、質も全く悪くはないのだが、俺が扱えるかどうかに不安が残る。
もし扱えなかったから、この醸造台に使った金額が丸々無駄になる可能性を考えると……。
即決で購入を決めることはできないな。
そして先程の旧式よりも金額が五割増しくらいになってしまうが、二番目に安い醸造台を確認する。
形状は新式だけど中古のようで、かなり使い込まれているのか劣化が見られた。
質自体も旧式のと比べても良くないように見え、こちらもこちらで即決はできないな。
やはり安いものには、それなりの理由があるのが分かる。
そこから二台続けて使い込まれた中古の醸造台が続き、五台目にしてようやく比較的綺麗な醸造台が出た。
こちらも一応は中古のようだが使い込まれてはおらず、新品といわれても見分けはつかないほど。
質も悪くなく、この醸造台が最安値であったのなら即決で購入していたほどなのだが、値段が白金貨十枚と最安値の醸造台と比較すると約2.5倍。
うーん……。本当に、本当に悩ましいな。
俺の中の候補としては三つ。
白金貨四枚の旧式醸造台。白金貨六枚の使い込まれた新式醸造台。白金貨十枚の全ての面で及第点である醸造台。
これ以上の金額の醸造台は、今日売る予定の植物が予想以上に高く売れたとしても購入は難しいと思うからな。
そんな利点と欠点のバランスが絶妙すぎる三つの醸造台から、俺が悩みに悩んで購入を決めたのは、最安値の旧式醸造台。
旧式ということ以外は及第点を超えており、新品という部分も良い。
そして何より、値段も他と比べて破格に安いのが決め手だった。
最悪、使うことができなかったとしても、白金貨六枚の醸造台を買えば金銭的には白金貨十枚と同等。
高く良いものの方が将来的には安く済む、とはよくいうけど、現状を考えるとやはり、目先をどう安く済ませられるかがとても重要。
……うん。この決断で後悔はしない。
自分を納得させた俺は査定額の確認と、醸造台の購入の手続きをするため一階へと向かう。
「すいません。先ほど査定をお願いしたものなのですが、査定ってもう終わっていますでしょうか?」
「えーっと、査定番号札三番ですね? はい、終わっておりますよ。こちらが査定額になりますので、問題なければ売って頂けたら幸いです」
俺は店員さんから査定表を受け取り確認する。
おっ! 俺の予想よりも高く、合計白金貨九枚、金貨二枚、銀貨一枚での買取だった。
ただ、グルタミン草はやはり知れ渡っていないのか、一本で銅貨三枚の買取。
ここはグルタミン草以外を売って、そのお金で醸造台を買うことにしよう。
「えーっと、この植物以外を買い取ってもらえますか?」
「はい、分かりました。大量にお売り頂きありがとうございます。……こちらが指定の植物で、その他の買取金額白金貨九枚と金貨二枚になります」
並ぶ白金貨についニヤけてしまう。
やはりお金はいくらあっても嬉しいものだな。
……ただ、これで貯めてた植物はほとんど底を尽いたし、お金には十分気をつけなければいけない。
「それと、もう一つありまして……。二階に置いてあるものを購入したいのですが、大丈夫でしょうか?」
「二階の商品でしょうか? もちろん大丈夫ですよ。他の店員を呼んで参りますので少々お待ちください」
グルタミン草と買取金額を受け取ったあと、俺は醸造台を購入したいことを受付で告げ、俺は奥から出てきた店員さんと一緒に再び二階へと戻った。
そして先ほど選んだ旧式の醸造台まで案内し、この醸造台を購入したいことを伝える。
「この旧式の醸造台ですね。作動するかどうかの点検を行いますので、少しだけお待ちください」
「はい、お願いします」
手慣れた手つきで醸造台の点検を始めた店員さんをしばらく見ていると、問題なかったのか醸造台は正常に動いた様子。
「作動に関しては大丈夫のようですね。それでは金額、白金貨四枚となります。それと有料なのですが、ランダウスト内でしたら配送サービスを行っているのですが、いかがいたしますか?」
「あっ、配送までお願いしてもよろしいですか?」
「分かりました。お会計変わりまして、白金貨四枚と配送料の銀貨五枚となります」
俺はすぐに袋から取り出した白金貨四枚と銀貨五枚を手渡す。
「……はい。丁度、頂きました! ご購入ありがとうございます。それでは配送の住所をお願い致します」
それから俺は、店員さんに配送先の住所を伝えてから、『グリーンフォミュ』を後にした。
これでダンジョンでのポーション不足に悩むことはなくなったし、植物をポーションにして売ることも出来る。
旧式を扱えるかだけが不安だが、八階層以降の攻略に向けて良い買い物が出来たな。
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