第二百一話 パーティでの初戦闘
冒険者ギルドで受付を済ませた後、早速ダンジョンへと潜った。
一人で来た時よりも何処か安心感があり、何度か訪れたこのダンジョンが違った場所のようにすら見える。
「それじゃ、まずは俺から前衛をやりますね。基本は前衛一人に後衛二人でお願いします。そして一戦ごとに前衛を交代していきましょう」
「わ、分かりました」
「了解」
「後衛からのサポートは低階層ですので、ピンチになってからで大丈夫です。お二人とも、よろしくお願いします」
軽く役割分担だけ決めてから、俺は先頭に立ってダンジョンを歩く。
一階層ということもあって、すれ違うのは冒険者ばかりで魔物の姿が見えないのだが……約10分ほど経過して、ようやく前方にゴブリンの姿を発見した。
ゴブリンかと落胆しつつも、今回のダンジョン攻略の目的は互いの力量を測ること。
力不足だと思われないためにも手は抜かず、最初の戦闘ということもあるし一撃で屠れる攻撃で仕留めようか。
目の前に現れたゴブリンに対し、俺が倒し方を決めたところで一気に動く。
剣を引き抜き、確実に一撃で倒せる全力の上段からの斬り下ろしを放ちに動いたのだが……。
俺の上段斬りが届く前にゴブリンの頭は吹き飛び、体を大きく後ろに逸らして地面へと伏せた。
味方であろうゴブリンすらも一撃で屠るような新手の魔物が現れたのかと思い、俺は一瞬身構えたのだが……。
すぐにゴブリンが仰け反った方向が頭を過ぎり、背後を確認する。
――やっぱり、そうか。
ゴブリンを倒したのは、新手の魔物でもなんでもなくアルナさんであった。
弓で射貫いたのが分かる体勢で、退屈そうに大きなあくびをしている。
「サポート。完璧だった?」
俺が一旦話をしようと後衛のアルナさんの下へと向かうと、少しドヤっているアルナさんがそう尋ねてきた。
確かにサポートは完璧だったが、今回は手出ししないで欲しかったんだよなぁ。
「えーっと……。完璧でしたけど、今日はお互いの力量を測りたいので、先ほどもお伝えしたように、ピンチになってからサポートしてもらうって形でも大丈夫ですか?」
「んー。了解」
「それじゃ、もう一回俺が前衛でいきます。次はピンチになるまで手出しせずに、アルナさんなりに俺の力量を測ってください」
気の抜けた声でそう返事をくれたアルナさんを見てから、俺は再び先頭に立つ。
……うーむ。反応から考えて、恐らくアルナさんは俺の話を聞いていなかったな。
こういった所々で不安になるのだが、そんな不安すらも些細なことに感じるほど、戦闘の腕が抜群なことも分かっている。
今のゴブリン相手への一射も、威力が高い上に頭を射抜いていたからな。
近接でも強いことは『亜楽郷』の一件で分かっているし、遠距離でも腕が立つのが今回で分かった。
……本当になんでこんなに強い人が、他でパーティを組まずに俺のパーティへと加入してくれたのかの疑問が大きくなるばかり。
とりあえず大きなミスを犯すまでは、あまり口酸っぱく言わずにいこうか。
アルナさんについてそんな思考をし、気を取り直してダンジョンを進んだ俺は、遭遇したコボルトの群れを難なく屠ることに成功。
完璧に立ち回れたし、とりあえずはこの戦闘で、ある程度の信頼を勝ち取れたと思う。
「お疲れさまです。それでは前衛を交代しましょうか。どちらからいきますか?」
「私からいく」
「は、はひ。さ、先はアルナさんで、お、お願いします」
食い気味で返事をしたアルナさんと入れ替わり、俺はロザリーさんと後衛へと回る。
まぁ後衛といっても、背後の敵だけ気をつけていればいいだけだから、低階層での後衛は休憩みたいなものだな。
七階層を超えれば鉱石や植物も増えるらしいし、魔物も強くなるからやることが増えてくるだろうけどね。
念のため、ホルダーに入れてあるポーションや、【プラントマスター】をすぐに使用出来るように心の準備を整えながら、先頭をズンズンと歩くアルナさんの後をついていく。
……それにしても、ロザリーさんと二人はかなり気まずいな。
チラチラと頻繁に視線を感じるのだが、声をかけていいのか迷うのだ。
話しかけて無駄に緊張させてしまったら、ロザリーさんが前衛に回ったときに支障をきたしそうだしな。
……うーん。まぁでも、テンパったとしてもカバーできるだろうし、お互いを知るためにも声をかけてみよう。
「あの、大丈夫そうですか?」
「は、はひ!? な、何がでしょうか」
「かなり緊張しているみたいなので、前衛に回れるのかなぁと思いまして」
「だ、大丈夫です」
「そうですか! それなら安心しました。ギルド職員の方には余計な心配でしたかね」
「……い、いえ」
この手の話題からならば、話を広げられるかなと思ったのだが……すぐに会話が途切れてしまった。
俺も人とのコミュニケーションが得意という訳でもないから、どう発展させていいのかイマイチ分からない。
俺が必死に盛り上がりそうな話題を考えていると、どうやらアルナさんが魔物を発見した様子。
――奥にキラービーの群れと、その奥にオーガの姿が見えた。
「ロザリーさん。一応、サポートの準備をお願いします!」
アルナさんなら大丈夫だと思うが、低階層では考えうる最悪の組み合わせ。
万が一も考え、アルナさんに注意をしつつ、俺もいつでもサポートできるようにポーションをホルダーから抜いたのだが……。
「大丈夫だと思います」
そんなロザリーさんからの返事に呼応するように、全ての魔物を一瞬で射殺したアルナさん。
弓の腕は後ろから見るとより凄まじく、ハイスピードで不規則に動いているキラービーを一撃も外すことなく射抜き切り、そんな流れで放った一射でオーガを射殺してしまった。
射撃の正確さにその威力。改めて、思わずゾッとするほどの腕前だな。
「アルナさん、凄いですね。私も少し楽しくなってきました」
真剣な目つきでアルナさんの戦闘を見ていたロザリーさんは、今までと違って一切吃ることなく、淡々とそう告げてきた。
そして、そのまま入れ替わるように前衛へと上がったロザリーさんの後ろ姿は、頼もしさを感じるほど俺には大きく見えたのだった。
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