第二百二話 本来の姿


 アルナさんと入れ替わったロザリーさんを先頭に、ダンジョンを進んで行く。

 一緒に後衛にいた時とは違い、楽しそうなステップを踏みながらズンズンと進むロザリーさんを見て、その態度の変わり様に正直驚いてしまう。


「何あれ。あの人、あんなだったっけ?」

「いえ、もっとオドオドしていた印象でしたけど……。どうやらアルナさんの戦いぶりに感化されたみたいですよ」

「ふーん。変なの」


 変というのであれば、アルナさんの方が変だと思ってしまうが、それは流石に口には出さない。

 

「変ですか? 俺もアルナさんの戦いっぷりには目を惹きましたよ。オーガを弓で一撃ですからね。……アルナさんなら、ソロでもダンジョン攻略出来たんじゃないですか?」

「ソロ攻略なんて効率悪いし、めんどくさい。それにやっぱり壁は欲しい」

「まー、確かに効率は悪いですね。背後の敵を気にしなくてもいいっていうのも、負担が大分減りますし」


 アルナさんの先ほどの戦闘の話も交え、談笑しながらダンジョンを進んで行くと、前方にコボルトとゴブリンの群れが見えた。

 魔物としては最弱クラスだが、数は合計10匹と少し多い。

 

 ロザリーさんはダンジョン攻略をしていた元冒険者と聞いているが、実力は未だ未知数。

 あがり症持ちということもあるし、いつでもサポートを行えるように俺は万全の体勢で待ち構える。


「……へぇー」

「アルナさん、どうしたんですか?」

「なんでもない」


 ロザリーさんを見て興味深そうに言葉を漏らしたアルナさんが少し気になったが、ロザリーさんとゴブリン、コボルトの群れの戦闘が始まってしまったため、すぐにそっちに注意を向ける。

 俺達の存在に気づき、うめき声のような雄たけびを上げている魔物の群れを前にしても、軽やかなステップのままのロザリーさん。


 散歩にでも行くような軽い足取りに、またあがってしまったのではないかと心配になるが、そんな俺の心配をよそにロザリーさんと魔物の群れの距離は一気に縮まっていく。

 そして剣を引き抜き……。

 

「【ヘイスト】【フィアー】」


 そんなロザリーさんの声が聞こえた瞬間、軽いステップから一瞬にして動きが変わった。

 先頭に立っていたゴブリンに対し、上段から斬りかかると見せかけて懐に潜り込むと、狂ったように左右に薙ぎ斬る。


 恐らく一撃目で既に絶命していたと思うのだが、絶命したゴブリンを相手にも手を止める気配はなく、何度も何度もゴブリンの腹部を斬り裂くロザリーさん。

 後ろからでも分かるほどの血飛沫が上がり、ゴブリンの肉片も四方に散っていっている。

 普段とのギャップもあってか、味方であるはずの俺も背筋が寒くなる。

 

 そんな光景を目の前で見せつけられているゴブリンとコボルトからすれば、俺以上の恐怖を味わっているのか、先頭を走っていた数匹は目の前に壁が出来たかのように動きを急停止させ、ロザリーさんから距離を取ろうと動いたのだが……。

 逃げ出そうとした隙を逃すまいと、薙ぎ斬っていたゴブリンを弾き飛ばしてから、ロザリーさんは追撃に掛かった。


 後方にいた魔物は前へ、前方を走っていた魔物は後方へ向かおうとし、数的有利の状態だったのにも関わらず、一瞬の怯みでぐちゃぐちゃとなった魔物の群れ。

 適当に振った攻撃が味方にも当たる状態でロザリーさんに太刀打ち出来るはずもなく、あっという間に魔物の群れは殲滅された。


「……強いですね。正直、予想以上の強さでした。……あの連続の薙ぎ斬りって、背後の魔物に恐怖を与えるためにやったんですかね?」

「【フィアー】をかけてたし、確実にその意図はあったはず。……でも、あの笑顔を見る限り、趣味もあると思う」


 アルナさんが指さす方向を見ると、返り血で全身を真っ赤に濡らしたロザリーさんが、満面の笑みでこちらに戻ってきていた。

 もしかしたらロザリーさんは、アーメッドさん以上の戦闘狂なのかもしれない。

 血で染まりながらも笑っているその姿を見て、俺は密かにそう感じた。


「ロザリーさん、お疲れ様でした。群れ相手にも関わらず、何もさせない圧勝劇で驚きましたよ」

「うん。久しぶりだけど、しっかり動けて楽しかった。……ねぇ、もう少し慣らしたいんだけど、しばらく前衛でいいかな?」

「駄目。順番」


 ハイテンション気味のロザリーさんがそんな提案をしてきたのだが、即座に一蹴したアルナさん。

 険悪なムードになるかと思いきや、ロザリーさんは頭を掻いておどけた様子を見せた。


「ですよね。駄目元で頼んでみただけですから、素直に後衛に下がります」

「分かりました。それでは順番通りのまま、前衛をもう一周回るまで一階層で攻略を続けましょうか」

「ん。了解」


 ロザリーさんの性格の変わりようには驚いたが、根本的な性格は変わっていないようで一安心。

 ダンジョンではあがり症を発症しないってだけであるなら、かなりの好印象だ。


 先ほどの戦いで戦闘能力の高さも分かったし、ロザリーさんを主力として数えられる。

 冒険者ギルドに穴埋めを頼んで良かったし、有益な情報をくれたトビアスさんに感謝をしなくてはいけないな。



 それから、全員で前衛を交代しながら戦闘をこなし、俺達は六階層まで難なく到達することに成功した。

 実力を測るための様子見の日の予定だったが、あっさりと魔物を倒していったせいでボスフロア前の階層まで辿り着いてしまったのだ。


 このままボスを倒してしまうかの話し合いの末、俺の強い意見で今日は帰還することとなり、ボス戦は明日へ持ち越しと決めた。

 このメンバーならば七階層のボスなら楽々倒せてしまうだろうが、ボスに関する情報の精査を行いきれていないし……。

 万が一を考えたら、予定を無理やり変えてまでボスに挑むメリットもないからな。


 明日の攻略に備え、ごねる二人を無理やり引き連れてダンジョンの外へと戻ったのだった。

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