第百九十七話 パーティ結成


 チラッとアルナさんの様子を確認するが、自己紹介をした女性に一切の興味がないのか、噛んだことにすら目もくれず、爪の手入れをしている。

 無反応は流石にどうかと思ってしまうが、緊張している人にとっては、これぐらいのスタンスでいてくれた方がやりやすいのかもしれない。

 

「よ、よろしくお願いします! せ、精一杯頑張ります!」

「えーっと、こちらこそよろしくお願いします。あと、実はお名前が聞き取れなくて……申し訳ないんですけど、もう一度お名前を伺ってもよろしいですか?」


 噛んだことなど無かったかのように自己紹介を続けた女性に、俺はもう一回名前を尋ねた。

 本来ならば気づかないフリをして、こっちの自己紹介に移ってあげたいところだったが、肝心の名前の部分が分からなければ自己紹介の意味がないからな。

 俺の言葉を聞き、一気に顔を真っ赤にさせた女性に心の中で謝罪をしつつ、次こそは聞き逃すまいと耳を立てる。


「す、すいません……。ロザリー・マティックと申します。よろしくお願い致します」

「ロザリーさんですね。私はルイン・ジェイドと申します。ルインでも、ジェイドでも気軽に呼んでください。これからよろしくお願いします」


 俺も軽く自己紹介を済ませ、アルナさんの自己紹介を待ったのだが、一向に自己紹介をする気配を見せない。

 チラッと様子を伺ったのだが、まだ爪が気になっているのか、必死になって爪を砥いでいた。


 ……これは意図的に無視しているとかではなく、話自体聞いていないのだろう。

 変な間が生まれる前に、俺がアルナさんの紹介も行うことに決めた。


「――えーっ、そして! こちらの女性は、同じパーティのアルナさんと言います」

「アルナさん……ですね! よろしくお願い致します」

「…………? よろしく」


 ロザリーさんがアルナさんに挨拶をしたことで、ようやく爪からこちらへと気を向けてくれた。

 なぜ挨拶されたのか分かっていない様子だったが、首を傾げつつアルナさんも短く言葉を返し、なんとか会話は成立した。


「全員の挨拶が無事に済んだようですね。自己紹介でロザリーが説明したように、今回ジェイド様のパーティに穴埋めとして入るのは、このロザリーとなります。契約の際にサインして頂いた条件さえ守って頂ければ、こちらからは一切の口出しを致しませんので、くれぐれも規約違反だけにはお気をつけて下さい」


 自己紹介を済ませた俺達に対し、淡々とそう告げてきたアレックスさん。

 緊張しているのが手にとるように分かるロザリーさんとは真逆で、アレックスさんからは感情を一切読み取れないため少し身構えてしまうな。


 微笑んではくれているから、無表情のアルナさんとは違うんだけど……。

 常に張り付けた表情をしている受付嬢さん達の上位互換って感じといえば、分かりやすいかもしれない。


「ジェイド様。書類の内容以外で何かご不明な点、ご質問はございますか?」

「いえ。契約の際に頂いた書類に詳しく記載されてありましたので、こちらからの質問は大丈夫です」

「そうですか。それでしたら良かったです。……それでは、私はこれにて失礼させて頂きますね。本日は顔合わせのみでダンジョンには潜らないということですので、本日分の契約料はかかりませんのでご安心ください」


 そう告げてから、ロザリーさんの肩を一つポンッと叩き、裏へと戻っていったアレックスさん。

 肩を叩かれた瞬間に体を大きく跳ねらせたことから、同じギルド職員であるロザリーさんも俺と同じように身構えてしまう部分があるのだろう。

 ……まあ、ロザリーさんは単純に緊張しいなだけかもしれないが。


「それじゃ、場所を変えて少し話をしましょうか。実は私とアルナさんも、先日パーティを組んだばかりなので、これからダンジョン攻略の方針等も話し合えればと思ってます。ロザリーさんは、お時間の方は大丈夫ですかね?」

「は、はい! 時間は大丈夫です!」

「良かったです。それじゃ、近くの喫茶店に移動しましょうか」


 俺はそう話を纏め、トビアスさんと一緒に行った喫茶店へと向かった。

 ガッチガチな様子でいきなり噛んだし、最初はかなり心配してしまったが、緊張していただけで変な人ではなさそうだな。

 

 女性ということもあって、アルナさんの問題もクリアしているし、明日にでも問題なく攻略を行えそうだ。

 実力的な部分は気になるが、そこは喫茶店で聞くとして……。

 

 初めて自分主導で組んだパーティということもあって、胸が高鳴るのを感じている。

 【青の同盟】さん達や【鉄の歯車】さん達と一緒に、クエストを何度か挑んだことはあっても、完成されたパーティと俺って構図なだけだったからな。


 今までとは似て非なるこの状況に、もちろん不安もあるがワクワク感が勝っており、早くダンジョンを攻略してみたい気持ちが押し寄せている。

 本当は、【青の同盟】さん達と一緒にこの感情を味わいたかったが……今更うだうだ考えても仕方がない。


 【青の同盟】さん達と早くダンジョンへと潜るためにも、しっかりとこのパーティでの互いの情報や意識を共有し合い、パーティとしての練度を高めないといけない。

 喫茶店へと向かう中、俺は一人、そう心の中で決意を固めたのであった。

 

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