第百九十六話 穴埋めのギルド職員
アルナさんとの勧誘騒動から、3日が経過した。
この3日間はトビアスさんから頂いた情報を精査し、ダンジョンモニターにて情報と照らし合わせてのルート確認を行った。
そして今日は俺とアルナさん、そして穴埋めしてくださるギルド職員の方との初めて対面する日である。
実は俺もまだ、穴埋めでどんな方が来るのかを聞かされておらず、正直不安でしかない。
アルナさんには、ギルド職員にパーティの穴埋めをお願いしていることを伝えているが、そのギルド職員が変な男だったら一緒のパーティは組まないと言われているため、正直顔合わせが一番ヒヤヒヤしている。
円滑に物事を進めるためにも、ここは女性であってほしいところだけど……。
ギルド職員の比率を考えたら、男性である確率の方が圧倒的に高いんだよなぁ。
ただ、もし仮に男性であった場合は、そこで穴埋めの方の契約を打ち切ってアルナさんと組むということだけは決めている。
アルナさんは俺と2人での攻略でも構わないと言ってくれているため、安定性には大きく欠けるだろうが攻略を優先したいのが本音。
そんなパーティメンバーに対して大きな不安を抱えながらも、準備を整えた俺はアルナさんとの待ち合わせ場所である冒険者ギルドへと向かうのだった。
朝が早いため、まだ人通りの少ないダンジョンモニター前を横目に、冒険者ギルドの中へと入る。
約束の時間よりはまだ早いが、アルナさんを待たせるのは怖いからな。
ギルド内を見渡してアルナさんがいないことを確認してから、入口が見える位置で待機し到着を静かに待つ。
それから数十分が経過し、約束した時間になろうとしたその時。
入口からギルドへと入ってくる、アルナさんの姿が見えた。
服装は以前会った時のスーツではなく、緑で統一された革の服で腰には前回持っていた剣を帯剣しており、背中には弓も見える。
完全武装といった形だが、もふもふの耳は垂れていて酷く眠たそうにしているため、俺はスーツ姿の前回会った時の方が強く見えた気がした。
「アルナさん、おはようございます!」
俺を探す気配を見せず、入口付近で立ち止まったアルナさんに近づき、大きな声で挨拶をする。
そんな俺の声に驚いたのか、耳を一瞬だけ立てて体を震わせたアルナさんだったが、すぐに振り向いて俺だということに気がつくと、瞬時に怠そうな顔へ戻した。
「……おはよう。朝から声が大きいのは鬱陶しい」
「すいません! 気づいて貰おうと思って、つい声を張ってしまいました」
「君はほんと年中元気って感じ」
「そういうアルナさんは、前回会った時よりも元気が無さそうですね」
前回も最後の方はこんな感じで怠そうにしていたが、今日は何故か会って間もないのにこの様子。
態度が少し気になり、俺は返しの言葉としてそう尋ねてみた。
「今日はバイト終わりでそのまま来たから。日にちをズラして貰えば良かったって後悔してる」
「そうだったんですか……。でも、今日は顔合わせだけを予定していますので、大丈夫だと思いますよ」
「なにが大丈夫なのか分からない。顔合わせが一番億劫。……この間言ったけど、変な人だったらすぐに帰るから」
淡々とそう告げてくるアルナさん。
……パーティを組んで一番大変なのはダンジョン攻略ではなく、アルナさんとのコミュニケーションかもしれない。
無表情で言葉足らずなアルナさんと会話して、俺は改めてそう感じた。
「2人になったとしても、明日からダンジョンに潜ろうと思ってるので帰るのは止めて頂けると助かります」
「……んー。考えとく」
その返事と共に、完全に会話をする気のなくしたアルナさんを連れ、俺は早速受付へと向かった。
早朝のためか列は一切ないので、前回受付してもらった受付にノータイムで立つ。
「いらっしゃいませ。こちらはクエスト依頼受付なのですが、よろしかったでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「分かりました。まずはお名前と年齢、それから貴方様の職業と依頼したいと思っているクエスト内容を教えて頂けますでしょうか」
「あ、えーっと……実は、パーティの穴埋めをギルド職員さんにお願いしている者でして、準備が出来たとの連絡を受けて訪ねてきたのですが……。お話って伺われていますか?」
いつもの流れで情報を要求されたタイミングで、こちらの目的を受付嬢さんに伝える。
‟パーティの穴埋め”。
この言葉を聞いた瞬間に心当たりがあったのか、目を少し大きく開けた受付嬢さん。
「…………ええ。聞いております。念のため、お名前だけ伺ってもよろしいでしょうか?」
「ルイン・ジェイドと申します」
「はい、大丈夫です。それでは担当の者を呼んできますので、少々お待ち下さい」
「分かりました。よろしくお願い致します」
そういって裏へと消えていった受付譲さんを見送り、しばらく待っていると……。
受付譲さんの代わりに奥から出てきたのは、浅黒い肌をした顔立ちの整った男性と、その後ろに引っつくように歩いている背の低い女性。
はたしてどちらが、穴埋めをしてくれるというギルド職員さんなのだろうか。
正直、浅黒い肌の男性の方だと、アルナさんがNGを出すのが火を見るより明らかだ。
ただ女性の方も手と足が同時に出ているし、体が震えているのが遠目からでも分かるほどなため、戦闘面に関しては期待できそうにないと思ってしまったのが正直な感想。
そんな感想を抱いた俺の前に二人は立つと、浅黒い方の男性が優しそうな笑顔を見せた後、物腰柔らかく自己紹介を始めた。
「お待たせして申し訳ございません。私はこのランダウストダンジョン冒険者ギルド副ギルド長のアレックスと申します。そしてこちらが……」
「わ、私が! ぱ、ぱーてーの穴埋めをせ、せさせて頂きます! ロ、ロザッ、ッ!?」
副ギルド長を名乗った浅黒い男性の後に、続けて自己紹介を始めたガッチガチの女性は、声を極限まで震わせていたせいか盛大に舌を噛んだ様子。
涙目になりながら口を両手で押さえている女性を、表情一つ変えずに見ているアレックスさんの冷ややかな視線に俺の方が恐怖しながらも、口ぶり的に舌を噛んだ女性がパーティの穴埋めをするという事実に、俺は不安を抱かざるを得なかった。
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