第百九十二話 得する情報
『亜楽郷』のお姉さんのお言葉に甘え、ここで働いている女性と、正式に引き合わせて貰うことが決まった。
話によればこれから出勤予定らしく、今日にでも引き合わせてくれるらしい。
そのことを聞いた俺は、時間を変えてまた来ることを約束し、『亜楽郷』を後にした。
……まあただ、向こうの条件と俺が合致していないため、パーティを組める可能性としてはかなり低いと思う。
この交渉は駄目元であり、パーティメンバーとしては期待が出来ないことから、『亜楽郷』が営業を開始する夜までの間に、俺はパーティメンバー集めの最有力候補でもある、冒険者ギルドに行ってみることに決めた。
廃れた飲み屋街を抜けてメインストリートを通り、再びダンジョンエリアへと戻ってきた俺。
――流石に、先ほど別れた『青の同盟』さん達の姿は見えないな。
無意識の内に3人の姿を探してしまうのだが、これは仕方のないことだろう。
というか……やはり昼にもなると、このダンジョンエリアの盛り上がりは凄いな。
メインストリートよりも活気のあるダンジョンエリアに若干気圧されながらも、俺は人混みを掻き分けて冒険者ギルドの中へと入る。
「うっ……」
中に入り、その密度の高さに毎度ながら驚く。
外の人の多さも凄いのだが、冒険者ギルドの中はより凄い。
グレゼスタの冒険者ギルドが、空いているように感じるほどの密度。
そんな大人数且つ、様々な冒険者が集まる‟冒険者ギルド”。
俺はその冒険者ギルドで、パーティメンバーとなってくれる冒険者を探しにやってきた……訳ではなく、今日は‟冒険者ギルド”自体が目的で来ていた。
そう。
今日はトビアスさんから情報を貰った、‟冒険者ギルドの一般的には知られていない得する情報”の中の、一つの情報を頼りに冒険者ギルドへと訪れたのだ。
その情報が本当かどうかは正直半信半疑だし、見ての通り冒険者ギルドは常に人が多く、忙しいからか職員はいつもピリピリしているため、できれば事務的なやり取りだけで済ませたいのだけど……。
‟『青の同盟』さん達に追いつく”という目的を達成するためにも、これは避けては通れない道。
俺は一人気合いを入れ直しつつ、受付前の列へと並んだ。
俺が並んだ時点で受付前は長蛇の列が出来ていたのだが、大量に設けられた受付と受付嬢さんのテキパキとした流れるような対応のお陰か、並んでから数十分ほどで順番が回ってきた。
予想以上の順番の回ってきた早さに、まだ心の準備が整い切っていないが空いた受付へと向かう。
「次の方、こちらの受付へどうぞ」
「よ、よろしくお願いします」
「いらっしゃいませ。こちらはクエスト依頼受付なのですが、よろしかったでしょうか?」
「はい。間違いないです」
「分かりました。まずはお名前と年齢、それから貴方様の職業と依頼したいと思っているクエスト内容を教えて頂けますでしょうか」
微妙に会話になっていないマニュアル対応に、俺は若干の懐かしさを覚えつつ……よし。
ここからが本番で、トビアスさんに教えて貰った情報を受付嬢さんにぶつけてみる。
「名前はルイン・ジェイドで、年齢は16歳です。職業は無し。私が依頼したいのは……ギルド職員さんにダンジョンに潜るための、パーティの穴埋めをお願いしたいんです」
名前、年齢。それから職業を聞いて、若干の眉をひそめた受付嬢さんだったが……依頼内容を聞いた瞬間、両目を見開いて俺の顔をまじまじと見てきた。
そうなのだ。
俺がトビアスさんから教えて貰ったのは、ギルド職員さんがパーティの穴埋めをしてくれるという情報。
ランダウストのギルド職員さんは、元々名うての冒険者でギルドへと引き抜かれた方が多く、ダンジョンに関しての知識があり実力も兼ね備えた方が大半らしい。
ギルド職員さんということは素行面も大丈夫だろうし、本業があるため俺のパーティ脱退も気楽に可能。
つまりは、俺のパーティに求めている人材と完璧に合致するのだ。
こんな良いサービスがあるのであれば、もっと世間に広まっていてもいいと思うんだけど……。
実はこのギルド職員によるパーティの穴埋めサービスは、冒険者になりたての人物にしか行っていない且つ、安くない依頼料金もかかるサービスということもあって、世間には一切浸透しなかったようだ。
トビアスさんは、おそらくここ十数年は利用者もいないと言っていたため、まだ行われているかは分からないとのことだったが……。
受付嬢さんの反応を見る限りは、現存しているサービスのようではありそう。
「………あの、このサービスは初心者の冒険者の方にしか行っていないサービスなんです」
「実は、私はまだ冒険者になっておらず、これから冒険者登録を行おうと思っているので、その時にギルド職員さんに穴埋めを頼みたいと思っていまして、今日お声掛けさせて貰ったんです」
「…………利用料金もかなり頂くのですが、大丈夫ですか? 冒険者パーティに依頼した方がかなり安くなりますよ?」
「はい。お金の方は大丈夫です。よろしくお願い致します」
今の手持ちのお金を考えると、全然大丈夫ではないのだが……【プラントマスター】を駆使すれば、お金の方はどうにでもなるはず。
クライブさんがいないから、グルタミン草の買い取りの方は期待できないけど、需要の高い魔力草やオール草を生成して売れば、利用料金くらいならば工面できる算段はついている。
「………………分かりました。それでは上に確認を取ってきますので、少しだけお待ち頂いてもよろしいでしょうか? ……それと一応なのですが、今現在で何人分の穴埋めを考えているのかを教えて頂いてもよろしいですか?」
隠す気のなくなった嫌そうな表情を浮かべ、そう尋ねてきた受付嬢さん。
うーん、何人分の穴埋めか。
アーメッドさんとの約束通り、3人での攻略を考えているから、パーティメンバーを2人探しているんだけど……。
もし仮に、『亜楽郷』の女性がパーティに加わってくれるとしたら、必要なのは1人だけになるんだよな。
「今のところ1人分の穴埋めだけを考えているのですが、もしかしたら2人分のサポートをお願いするかもしれないです」
「そうですか。了解致しました。それでは少々お待ちください」
そう言い残し、裏へと足早に消えていった受付嬢さん。
覚悟はしていたのだが、こうも露骨に嫌そうな態度を取られると心が痛む。
トビアスさんの情報は真だった訳だが、忙しい冒険者ギルドとしては人材を別で割かれたくないというのが本音だろう。
だったら、そんなサービス自体を撤廃すればいいのにと思いながら、ソワソワして待っていると……どうやら受付嬢さんが戻ってきたようだ。
「お待たせ致しました。確認を取ってきたところ、1人だけサポートに回せる職員がいました。ただ、2人目の確保が現状では厳しく、もしかしたら半年後とかになってしまう可能性が高いのですが、いかがなさいますか?」
「そういうことでしたら、1人だけでもサポートに回して頂けたら幸いです! よろしくお願いいたします!」
「…………了解しました。それでは手続き等を行いますので、書類への記入をお願いします」
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