第百九十一話 メンバー探し
まだ昼間だからなのか、店内に客は一人もおらず『亜楽郷』は静まり返っていた。
この様子からして、もしかしたらまだ営業していない可能性が高そうなんだけど ……。
店の看板は『OPEN』になっていたし、鍵も開いていたんだよなぁ。
ただ、店内を少し歩いて見渡しても誰もおらず、人の気配すらない。
出直すか迷ったが、俺は一応声を掛けてみることに決めた。
「すいませーん。誰もいませんか?」
薄暗い店内に俺の声だけが響き渡る。
……………………誰もいないか。
俺が諦めて帰ろうとしたその時。
店の奥から、こちらに向かって歩いて来る足音が聞こえてきた。
しばらく足音が近づいてくるのを待っていると、店の奥から現れたのは気怠そうなお姉さん。
お化粧をしたまま寝ていたのか、崩れてしまっていて逆に変な顔になってしまっている。
「……こんな昼間っからなんだい? ここは夜からだよ」
俺を見ると、顔を歪ませてそう言ってきたお姉さん。
見た目や匂い、声音や表情。
全てにおいて‟夜の人”という感じがして……なんだか少し怖い。
「そうだったんですか……。看板が‟OPEN”になってましたので、てっきり営業しているものだと思ってしまいました。すいません」
俺がそう謝ると、気怠そうにしていたお姉さんはハッとした表情を見せ、頭をポリポリとかき出した。
「そういえば、そんな看板を出していたね。もう数年は看板にすら触っていないから、すっかり忘れてたよ。そういうことならこっちが悪かった」
「いえいえ、謝らないでください。酒場だと知っていたなら、私が夜に訪ねるべきだったんですから」
「……なら、お互いが悪かったでケリとしようか。それで、今日は何の用事でここに来たんだい? まさか昼間からお酒が飲みたいって訳じゃないんだろ?」
「そうですね。実はここで、融通の利きやすい冒険者パーティの斡旋をして貰えると聞いて訪ねてきたんです」
俺が本題を告げると、お姉さんは納得したように何度か頷いた。
やはり、トビアスさんが言っていたお店は、ここで間違いなかったようだ。
「そうじゃないかと思ってたけど……。やっぱりパーティ斡旋の方の客だったか。坊やのいう通り、ここは酒場のついでにパーティの斡旋も行ってる。まぁただ、成り行きで始めただけだし、普通の冒険者は冒険者ギルドでパーティを組むから数は少なく、今は2組のパーティしか紹介できないよ」
斡旋してくれるお店で間違いはなかったが……。2組だけか。
もう少しぐらいは、紹介してくれるパーティがあると思っていたのだが。
予想以上に、はみ出し者は少ないみたいだ。
「2組だけなんですね……。あの、どういったパーティなのかを教えて頂くことってできますか?」
「もちろん。面倒だから簡潔に説明するけど、一組目のパーティは元冒険者で組まれてるパーティ。全員が違反行為で冒険者ギルドを追い出されてるけど、全員がそこそこの冒険者だっただけあって強さは相当のものだし、全員がマイペースだから規則は緩い……というか、ないに等しいのも魅力の一つだよ」
一組目から、俺の想像していた通りのパーティがきた。
素行不良で冒険者を追い出された、はみだし者だけで構成されたパーティ。
実力が高いのは好印象だし、規則がないのは脱退もしやすいだろうから、かなり魅力的に感じている。
……ただ、全員が素行が悪いと考えると、絶対に一緒にダンジョンには潜りたくない。
「続いて2組目のパーティは、全員が副業として冒険者をやっているパーティ。こちらは本業優先がモットーなだけあって、規則は緩いんだけど……。最高到達階層が8階層だし、実力不足は否めないわね。パーティメンバーの6人中5人が、酒場で働いているから大抵は酔っ払ってるし、やる気はランダウストの冒険者パーティで一番ないと断言できるよ」
うーん。条件的にはこっちのがいいんだけど……。
流石に実力が伴ってなさすぎるな。
もし加入するならば、全員のやる気を上げてもらうところから始めなければいけないし、更にそこから鍛えてもらわなければ、【青の同盟】さん達に追いつくことは不可能と断言できる。
冒険者が副業なのであれば鍛える時間も取れないだろうし、加入するとしたら必然的に一つ目のパーティになるんだが……。
「うーん……。お時間割いて貰ったところ言いづらいのですが、どちらも私が考えてる条件に合わないですね。本当に申し訳ございません」
閉店中に店に押し掛け、時間を使って貰ったのに拒否する。
心がチクチクと痛いが、ここはハッキリと断らなければいけない。
「そうかい。まあ、私も駄目元での紹介だからね。基本的にマージンは2つのパーティから幾分か貰ってるし、今が営業時間外ってこと以外は気にしなくていいよ」
「そういって頂けて感謝しかないです。……あと、もう1つだけよろしいですか?」
「ん? まだなにかあるのかい?」
「パーティではなく、個人の紹介とかしていないんでしょうか?」
トビアスさんからは、パーティの斡旋をしてくれる場所と聞いてきたし、このお姉さんもパーティを紹介してくれたのだが、個人の紹介をしてくれるのであれば、それも一応聞いてみたい。
手間はかかるだろうが確実にパーティ単位で探すよりも、条件に合った人が見つかりやすいはずだしな。
「悪いけど、ウチは個人の紹介はしていないんだ。個人だと片手間でやるには無理があるしね。――あっ、ただ……」
「ただ……?」
キッパリと否定にかかったのだが、何かを思い出したように顎に手を当てたお姉さん。
それからしばらくの沈黙のあと、思い出した内容を俺に話してくれた。
「1人だけ心当たりのある人物がいるのを思い出したよ。魔法が使えて、近接戦闘の実力もそこそこ。それに素行も良くて、ダンジョンの知識だけでなく一般教養も兼ね備えてる万能な子なんだけどね……」
「えっ!? そんな人がいるんですか!? よければ是非、紹介して欲しいんですが!」
お姉さんがおもむろに語ってくれた人物に、俺は思わず食いついてしまう。
こんな好条件の人物を紹介して貰えるのなら、いくらかお金を払ってもいい。
「話は最後まで聞いてくれ。……ただね、その子が提示している条件に坊やが微妙に合っていないんだ」
思わず頭を抱えたくなる。
……でも、条件が合っていないとはどういうことだろうか。
俺の実力不足なのか、それとも向こうはパーティを求めているのか。
‟微妙に合っていない”って言葉にも引っかかるし、なにが条件に合っていないのか聞いてみたい
「その人の条件と私が合っていないっていうのは、一体何が合っていないのでしょうか?」
「端的に言うと……性別だね。この子は私の酒場でバイトとして雇ってる女の子なんだけど、同性のパーティメンバーを探してるんだ。だから、君とは微妙に合っていないって訳」
なるほど。この人物は女性で、同性である女性の冒険者を探しているのか。
そういうことなら確かに、どう足掻いても俺とは条件が合わない。
……変に期待しちゃったし、条件が完全に合っていなかったのであれば紹介しないで欲しかったな。
「あの……。その人が女性の冒険者を探してるなら、完全に合っていないじゃないですか」
「いやいや。坊やは全く男っぽくないし、半分くらいは可能性があると私は思うよ。……どうする? 坊やが直接交渉したいというなら、その子に引き合わせてあげてもいいけど」
むむむ。お姉さんの言い分には引っかかるなぁ。
俺は男だし、条件が完全に合っていない。
顔を合わせても、高確率で時間の無駄になる可能性が高いと俺は思うが……。
引き合わせてくれるというのであれば、俺からすれば好条件なのは間違いないし、交渉してみる価値はあるかもしれない。
「…………可能なのであれば、その人に引き合わせて頂いてもよろしいですか?」
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